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log179.路地裏にて

 カレンの身を案じたマコたちは、アマテルと共にナイト・オブ・フォレストのギルドハウスが存在するアルフヘイムを目指した。

 現在彼女はアルフヘイム内にログインしているようだ。街中であれば派手な戦闘は無いと思うが、そもそもアマテルは街中で襲われている。向こうは、BANされなければなんでもするかもしれない。


「街中のNPCに手を出さない限りは、決闘でも何でもし放題だしね。向こうも、そのくらいは調べているだろうから……」

「当然、カレンさんを街中で襲うくらいはする、か。カレンさんも、迎え撃てるだけの力はあるはずだけど……」


 カレンとて純粋技量の使い手。そうやすやすと敗れるなどとは思わなかったが、相手の目的を考えるとそうもいかない。


「勝利するのと痛めつけるのとじゃ、相手の意識も違うでしょうしね……。どんな手だって、使って来る可能性はあるわ」

「カレンちゃん、無事だといいんだけれど……」


 不安そうに呟くレミの肩を安心させるように叩きながら、コータが皆を代表してナイト・オブ・フォレストのギルドハウスの前に立つ。

 視界を塞ぐ高い柵がぐるりと並ぶ、広い敷地を持った豪華なギルドハウスの扉脇に据え付けられた呼び鈴は、銅鑼のような形をしている。

 コータはそれを拳で叩きながら、中へと呼びかけを行った。


「すみません! 異界探検隊というギルドのものです! カレンさんは今いらっしゃいますでしょうか!?」

「あー、はいはいー? カレンさんですかー?」


 銅鑼の鳴る音にひょっこり顔を出したナイト・オブ・フォレストのメンバーの一人が、軽く欠伸を搔きながらコータの質問に答えた。


「ふぁ……。カレンさんなら、決闘目的のプレイヤーに連れ出されて、しばらく戻ってませんよー?」

「決闘目的の? そいつの名前は?」

「名前は見てませんけど、腰に刀を佩いた、道着姿の若い女性でしたよ? 御知り合いですかー?」

「遅かったわね」


 静かに呟いたマコは、踵を返してアルフヘイムの街の中を目指す。


「アルフヘイムの中にいるのは間違いないんだから、探すわよ!」

「うん!」

「……何かあったんですかー?」

「ああ、いえ。御忙しいところ、お邪魔したでありますよ」


 不審そうなナイト・オブ・フォレストのメンバーに頭を下げながら、サンシターはマコの背中を追いかける。

 カレンに会いに来た者たちが全員、併走しているのを確認し、マコは指示を飛ばす。


「一先ず、カレンを探すのが先決! 二手に分かれて探すわよ!」

「うん! わかったよマコちゃん!」

「私は、レミたちについていくよ」

「それで構わないわ。カレンが見つかったら、連絡頂戴」

「わかったよ、マコちゃん」


 コータたちは真剣な表情で頷き、そのままマコたちの目指す方向とは反対側へと駆け出してゆく。

 マコとサンシターは二人で並んで走りながら、辺りのプレイヤーたちの流れに目を向ける。

 決闘が目的、といった以上はこんな人ごみのど真ん中で戦い始めるわけではないだろう。基本的に、決闘は邪魔が入らないよう、人目の付かない場所で行うほうがよいと言われている。

 もちろん、セードーたちがいた時のように、街のど真ん中で決闘が始まる例もあるが、今のところアルフヘイムにそういった騒ぎは聞かれない。

 街中での決闘は興行のように扱われる。ナイト・オブ・フォレストのメンバーの様子からすれば、カレンがギルドハウスを出てからさほど時間は経っていないはずだ。その間に街中決闘の噂があれば、さすがにわかるだろう。


「となると、路地裏に引き込まれたかしら……? 面倒ね、この町も結構路地裏、広いんじゃなかったかしら……?」


 マコはめんどくさそうに呟き、広がっている露天や、住居の向こう側を睨みつける。

 イノセント・ワールドの街は、表側と裏側の二層構造に分けられている、と言われている。

 何故そのように言われているのかと言えば、路地裏と呼ばれるエリアが存在するためだ。

 この路地裏と言うエリア、居住区や商店街や重要施設と言ったエリアの区分のひとつであると思われがちであるが、それは間違いである。なぜならば、路地裏の中にも居住区・商店街・重要施設等のエリアが存在するからだ。

 もちろん、大きく目立つような形で存在しているわけではない。いわゆる隠れ商店の類なのであるが、それでも街内の流通を担う拠点として機能していることは確認されている。そのため、路地裏もまた、街の一層として認識されているのだ。

 そうした関係上、路地裏も表側に匹敵するだけの広さを備えている。そこからカレン一人探し出すのに、どれだけの時間がかかるのか……。


「考えるより、動くべきでありますよ。とにかく、聞いてまわらねばであります!」

「……そうね。その通りだわ」


 思わず動きを止めてしまうマコを叱咤し、先を走り出すサンシター。

 彼の言葉に一つ頷き、マコも聞き込みを開始すべく、彼の背中を追いかける。

 ――しばらくの間、ただ無為に時間は過ぎていった。

 ミッドガルドほどではないにせよ、広大なアルフヘイム。連れ立って歩いていた二人の少女の姿を覚えていたものなど、そういるはずも無かった。

 だが、程なくしてマコのクルソルにレミから連絡が入った。


「もしもし? レミ、どうしたの?」

『マコちゃん、大変! カレンちゃんが、路地裏で……!』

「場所は!? すぐそっちいくわ!」


 レミが、カレンを見つけたのだ。

 クルソルの向こう側で慌てた様子のレミから素早く場所を聞き出し、マコはサンシターとその場所を目指した。


「商店街から入ってすぐの路地裏だって……!」

「よくみつけたでありますな……」

「なんか、NPCが覚えてたとか何とか」

「……相変わらず、精巧なAIを持ってるでありますな……」


 記憶力抜群のNPCに感謝しながら、二人はレミたちの待つ路地裏へと駆け込んでゆく。

 八百屋の脇から突入すると、途端に表側の喧騒が遮られ、静まり返る路地裏。

 その中をしばらく進むと、地面にへたり込んだままのカレンと、彼女を介抱するレミたちの姿が見えてきた。


「レミっ!」

「あ、マコちゃん!」

「カレン殿! 無事……ではないようでありますな……」


 マコたちが駆け寄り、カレンを見下ろすと、彼女は悔しそうに頭を掻き毟りながらため息をついた。


「……ああ、情けないったら! 切り札まで持ち出して、むざむざ倒されるなんざ……!」

「清姫が相手でしょ。あの腕の持ち主なら、負けても仕方ないんじゃないの?」

「あれに? あたいが? 冗談じゃないよ。ゲーム始めて少ししか経ってないような、ぺーぺーの初心者に負けるほど、あたいは耄碌してないよ!」


 アマテルの慰めを受けたカレンは、意外な事に荒々しく鼻息を鳴らして反論した。

 アマテルの話から、清姫がリュージ並の腕前を持つと聞いていたコータは、不思議そうな顔で小首を傾げた。


「あれ? アマテルさんの話だと、清姫ってプレイヤーはリュージ並の純粋技量の使い手って……」

「はぁ? あれが? 冗談だろ? いいトコ、リュージの半分程度の腕前しかないよ。何しろ、あたいの鋭矢を受けて、立ち止まったんだからね」


 コータの言葉に、カレンはフンと鼻を鳴らす。

 彼はアマテルの方をちらりと見ながら、カレンへと問いかけた。


「えっと……じゃあ、リュージの場合、鋭矢を受けても立ち止まらないんだ?」

「ああ、そうだよ。それどころか、こっちが千鳴ぱなした時なんざ、それを押し返しながら突っ込んできやがったんだ。あの領域に、早々たどり着ける人間がいてたまるかい」


 同じ純粋技量の担い手であるが故の矜持か。カレンの清姫の評価は、スキル中心の戦い方のアマテルとは異なるようだった。

 アマテルはマコのじっとりとした視線を受け、背中に汗の浮かぶ感覚を覚えながらも、カレンに訂正を求めるように話しかけた。


「……でも、そこいらのプレイヤーが敵わないくらいには、熟達していた。でしょう?」

「それは認めるよ。壁を這って動くなんざ、普通じゃないけどね」


 カレンは一つ頷きつつ、アマテルを見上げて不思議そうな顔つきになった。


「……にしても、あんたも戦ったのかい。誰なんだい、あいつは?」

「……知らないの? と言うか、知らずに戦ったの?」

「ああ。殺気を振りまきながらあたいをまっすぐに尋ねてきたけど、あたいはそれ以上のことは気にしなかったし」

「そうなの? ……まあ、いいわ」


 アマテルはカレンの無頓着さに呆れながらも、清姫がリュージの許婚である可能性が高いことを告げる。

 それを聞いたカレンは一瞬呆け、それから悔しそうに叫びながら仰向けに倒れ込んだ。


「……っだぁー!? それを知ってりゃ、例え周りに従者がいようとも、絶対に負けなかったってのにぃー!! ちくしょうー!!」

「? 従者? どういうこと、カレンちゃん」


 レミが不思議そうに首を傾げる。

 アマテルの時には、従者がいるという話はなかったはずだが。

 カレンは激昂しながら、レミの問いに答える。


「あのアマ、見えない位置に、何人か連れの人間置いておいたのさ! 自分が不利になった瞬間、攻撃させるためにね! あたいはそれにまんまとやられて、心臓グサリさ! ちくしょうー!!」

「……伏兵込みで決闘とはね……。その辺は、開始時にはわかんないんだっけ?」

「……うん。決闘宣言(コール)では、個人かそれとも複数人かを確認する方法は無いから……」


 俗に言うギルド決闘宣言(コール)も、形式をクルソルで変更してしまえば、個人で決闘宣言(コール)をしているように見せかけることができる。

 清姫はそれを利用し、伏兵と共に決闘に臨んだと言うことか。

 カレンがそれに気付いたのは天晴れと言うべきだが、これは由々しき問題だろう。


「仮に相手がリュージ並でないにせよ……姿の見えない伏兵を意識しながら戦えって、かなりきつくない?」

「相当な手熟でも厳しいでありますな……」


 さすがのサンシターも顔を険しくしながら、唸り声をあげる。


「本気で、皆様を痛めつけることしか考えていないのでありますね……」

「……早いトコ、ソフィアに知らせてやんないとね……」


 マコは呟きながら、クルソルを取り出した。

 まだ、ソフィアもログインしているだろう。ログアウトする前に、少し話をする時間はあるはずだ。




なお、純粋技量に熟達すると、ある程度の範囲ならば気配を地力で探ると言う、超人じみたことが出来るようになる模様。(notスキル)

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