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log171.降り注ぐ雷光

 目の前の少女が刀を抜き払いきる前に、アマテルは彼女を注視して可能な限りの情報を集める。

 アマテルはリュージと違い、魔法を中心に戦う。故に、相手の保有しているアイテムや使用できるスキルによっては完封されてしまう可能性もある。


注視分析(スキャニング)


 囁くように発動したスキルと同時に、視界に移る情報が一気に増える。

 これは通常、相手の名前とレベル程度しか読み取れない注視(フォーカス)システムを一時的に強化するスキル。相手の名前やレベルだけでなく、相手の装備している武具のスキル名が読めるようになるスキルだ。あくまでスキル名が読めるだけで、効果までわからないのは玉に瑕であるが、アマテルと同じように、相手との相性によって戦況を作用されやすいプレイヤーにとっては必須とされているスキルである。これはレア度によってはスキルがあるかどうかすらわからない鑑定眼(ジャッジ)と異なり、全てのレア度に対して効果を発揮するからだ。その分消費するSPは莫大なものとなるが、スキル名を覚えてしまえば、ほぼ全てのプレイヤーの情報が透けて見えるといってよい。消費に見合うだけの価値はあるスキルと言えるだろう。

 スキル発動の結果、彼女の名前が「清姫」で、レベルが39。身に着けている武具には何のスキルものっていないことがわかった。見た目に仰々しい装束も、鋭い白銀の刃にも特殊な効果はない。

 相手のレベルを確認し、レベル70をすでに超えているアマテルは訝しげに眉を潜めた。


(……あっちもこちらのレベルは見えるはず。それでも挑むのは、ただのバカか狂人だから?)


 ステータス比で言えば、勝負になるならない以前の話だ。通常の決闘であれば、相手とのレベル差が20もあれば、戦いにもならないとされている。要因としては色々あるだろうが、レベル差によって生まれる差で顕著なのは、HPとMPか。レベルに20も開きが生まれてしまうと、HPの差は最大で十倍、スキルの回転効率は二倍から三倍は変わってくるとされている。自身よりもはるかに耐久力の優れた相手が、自分よりもはるかに多くの数のスキルを打ち込んでくるとなれば、確かに戦力差は絶望的だ。

 だが、アマテルは油断せずに構える。

 彼女は知っている。その差をあっさりと覆したプレイヤーを。

 絶望的とされる戦力差を、純粋技量と呼ばれる技術で圧倒し、ほぼ無傷で勝利を収めた愛しい人の名前を。


(……こちらのレベルを見ても挑む以上、勝算があるということ。なら)


 刀を抜き払いこちらを睨み付ける少女――清姫を同じように睨みつけながら、アマテルは人差し指を突きつける。親指は立て、自身の手を銃に見立てるように。


「――塵と消えなさい」

「いいだろう。灰に還してあげる」


 互いに決闘宣言(コール)を確認。ニダベリルの人気の無い路地裏に決闘場(バトルドーム)が発現し、二人の姿をその場から隠す。


「シュートッ!」


 先手はアマテル。短く叫んだスキル名と同時に、彼女の指先から一筋のレーザーが照射される。

 直線的な弾道を描くレーザーは光速で清姫の顔を撃ち貫く……だが、清姫の姿はそこには存在しない。

 アマテルのスキルが発動するのとほぼ同時に、その弾道を避けるように前に踏み込んでいる。

 アマテルが次のスキルを発動するよりも、圧倒的に速い。


「っ!」

「シィィィ!!」


 下から掬い上げるような一刀を、アマテルは飛び上がって回避する。

 ほぼ無音無動作で発動できるほどに習熟した魔法、飛行(フライ)。一瞬で空へと飛び上がったアマテルは、清姫を睨みながら舌打ちを露にする。


「速い……! 純粋技量の使い手!」


 清姫はアマテルの声には返さず、ニィィ……と裂けるような笑みを浮かべる。

 そのまま、その場で一回転するように体を捻り、アマテルを追うように跳び上がる。

 刀を持った手はだらりと下がったまま……手足を用い、そのあたりの建物の窓や小さな傷を足がかりにアマテルのいる高さまで瞬く間に追いついた。

 アマテルは地面に向かうように飛行(フライ)をコントロールしながら、次の魔法を用意する。


「レーザーブレード!!」

「シェアッ!!」


 アマテルの頭上を取った清姫は、体を捻りながら刀を兜割りの要領で振り下ろす。

 それに対し、アマテルは光が集束した棒状の剣を呼び出し、清姫の斬撃を受け止める。

 だが、踏ん張りの利かぬ中空では清姫の一撃は受け止めきれない。


「シィィィィ!!」

「グッ!?」


 彼女のSTRが発揮する一撃を受け止めるには、ただのレーザーブレードでは力不足であった。

 ガラスの砕けるような音と共に剣は消失し、清姫の刀がアマテルの肩を浅く薙ぐ。

 彼女が装備している羽衣のような衣装は、レベル80相当に相応しいだけの物理防御力を備えていたが、嫌な音を立てて清姫の刀に斬り裂かれてしまう。


加速(アクセル)!」


 だが、レーザーブレードは次のスキルを発動するだけの時間は稼いでくれた。単純に自分の動作を強化してくれる加速(アクセル)により、アマテルの姿は一瞬で地面へと降り立つ。

 足場のない中空では、清姫の純粋技量は発揮されない。アマテルが飛んでいたのも、建物から離れた位置。刀を伸ばしても、斬撃は届かないはずだ。

 掌を差し伸べ、アマテルはゆっくりと舞い降りてくる清姫に、次のスキルを叩きつける。


「ショットガンレーザー!!」


 無数に分裂した光線が、清姫のいる辺りへと殺到する。

 だが、清姫は腕を一閃し、自身の体を別の方向へと弾く。ほんの一瞬だけ、異様なほどに腕を伸ばし、届かないはずの建物の壁に己の斬撃を届かせて。


「ッ!?」


 己の見た光景が信じられず、アマテルは一瞬我を失う。

 明らかに異常だった。伸びるはずのない人間の腕が、勢い良く、倍程度は伸びたのだ。


(清姫に異種族判定はなかった! 今のは一体!?)


 わけがわからず、思考は混乱する。だが、それでも戦いの最中で動きを止めることなく、アマテルは清姫の着地地点に新たなスキルを解き放つ。


「シュートレイ!!」


 己の頼みとするスキルの一つ。先ほどのレーザーなど比較にならないほど太く巨大な光線が、清姫の元へ向かう。

 だが、着地寸前に彼女の元へ届いたはずの一撃は、その体を傷つけることすら叶わない。

 刀を盾に、アマテルのシュートレイを受け止めた清姫は、そこを足がかりにシュートレイの射線から己の体を避けたのだ。


「シィッ!」


 時間にして刹那にも等しい一時。その間に生まれたであろう、僅かな抵抗。それだけを利用して、彼女は滑るようにアマテルの攻撃を避けて見せたのだ。

 リュージも時折、超反応としかいえないような回避能力を見せることがあるが、清姫の動きもその類なのだろうか。

 剣術に関して素人であるアマテルにその断定は出来ないが、清姫の純粋技量がともすればリュージクラスなのだけは間違いあるまい。


(回避一つとってもリュージクラス……! リュージを相手にする気でかからないとまずい!)


 アマテルは素早く魔鏡・ヤタを取り出す。

 彼女の持つ遺物兵装(アーティファクト)、魔鏡・ヤタが有する能力は反射。姿を映しさえすれば、あらゆる全てを跳ね返す、万能防具だ。リュージ相手にも通用する、数少ない切り札の一つでもある。

 丸い手鏡のようなものを取り出したアマテルを見て、清姫は薄ら笑いを浮かべる。


「ウフフ……御化粧直しかしら? 安心なさい、あなたの顔は血化粧で染まるのだから……」

「笑わせるよ……! 血で染まるのは、そちらの方だろう!?」


 アマテルは叫んで返しながら、距離を取るように離れる。少しでも魔法のチャージ時間を稼ぐために。

 接近戦での敗北は必死。リュージを相手取った場合、焔王の間合いに立つことは、敗北を意味する。

 清姫はアマテルの行動を見て何かを察し、薄ら笑いを深めながらアマテルとの間合いを一気に狭める。

 狭い路地を、まっすぐに直進し、アマテルへと斬りかからんとする清姫。

 だが、それこそアマテルの願うところ。こちらの想定を上回る速度が出れば出るほど、反射は効果的に働くのだから。

 手にした魔鏡・ヤタで清姫の姿を映し、アマテルはその能力を開放する。


「弾け、ヤタッ!!」


 清姫の姿を映した魔鏡・ヤタが、一瞬光り輝く。

 すると、清姫の体が進んでいたのとは逆の方向に、彼女が発揮していた速力で弾き返された。


「ッ!?」


 突然の出来事に驚き、叫び声を飲み込む清姫。反射の能力にダメージはないため、彼女のHPは削れないが、問題はない。

 反射の真価は、時間稼ぎ。どれだけ敵が迫ろうとも、同じだけの勢いと距離で跳ね返せる魔境・ヤタがアマテルの手の中にある限り、敵は彼女へと接近することは出来ないのだから。


「これならどうだ……!!」


 視界の中にある、魔法のチャージゲージが満タンになる。

 アマテルは素早く空へと掌を掲げ、対リュージ用の取っておき魔法を発動する。


「降り注げ!! 追雷陣!!」


 彼女の掌から放たれた光は空へと昇り、巨大な魔法陣を描き出す。

 魔法・追雷陣。一定時間、発動したプレイヤーの敵となっている存在に対し、一定の間隔で雷光を降り注ぐ設置型の魔法だ。対象となる敵が複数いる場合はランダムでターゲットを設定するが、一人であれば当然その一人に対して雷光は降り注ぎ続ける。

 そして、魔法陣から清姫めがけて、一筋の雷光が降り注いだ。


「ッ!」


 清姫は雷光が己の体に直撃する一瞬前に、その場から離れる。地面に突き立った雷光があたりへと飛散し、夥しい光と音を撒き散らす。それが収まった後に残るのは、いまだ無傷の清姫の姿だ。

 光速で降り注ぐ雷光であるが、それでも純粋技量をもってすれば回避は可能なのだ。これは、リュージとの戦いでわかっている。

 アマテルはにやりと笑いながら、素早く魔鏡・ヤタを構える。


「君も避けられるんだね! だが、これでどうだ!」


 魔鏡・ヤタが清姫の姿を捉えた瞬間、その能力を発動する。


「弾け、ヤタ!!」


 横っ飛びに雷光をかわそうとしていた清姫は、その逆方向へと体が弾き飛ばされる。

 魔鏡・ヤタの能力は対象が自分に向かっていなくとも発動し、防御も回避も不可能。相手に対する嫌がらせを行う意味では、これ以上の能力はなかなかないだろう。

 そして、体勢を崩した清姫へ、雷光が再び降り注ぐ。


「これで……!」


 再び飛散する夥しい稲光。レベル39で、アマテルの放った魔法の直撃を受けては、さすがにひとたまりもないだろう。

 アマテルは夥しい稲光に眼を細めながら、勝利の微笑を浮かべた。




なお、鑑定眼(ジャッジ)の利点は、注視分析(スキャニング)との比較で半分以下の消費SPと、パッシブスキルである点。

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