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log166.現れた黒点

「許婚ぇ?」

「リュージ君に?」

「ああ……」


 リュージとの決闘を果たした翌日。

 ソフィアは、ギルドハウス内にてマコたちとちゃぶ台を囲み、昨日の反省会という女子会を開いていた。

 リュージとコータは、二人で連れ立ってフェンリルに向かっている。ソフィアの決闘の話を聞いて羨ましがったコータが、リュージを引きずって決闘に向かったのだ。

 昨日聞いた話をマコたちにしたかったソフィアは快くリュージを送り出し、マコたちと話を始めた。


「……まあ、あいつの家はわけわかんない部分がでかすぎるから、許婚くらいはいてもおかしくないかもね……」


 ソフィアの話を聞いたマコは静かに呟きながら、御茶を啜る。

 同じように御茶を啜りながら、レミは興味津々と言った様子でソフィアへと問いかける。


「ねえ、ソフィアちゃん。リュージ君に、その許婚さんの話は詳しく聞いたの?」

「いや……。幼い頃の話だったせいか、ほとんど覚えていないんだそうだ。アイツも、許婚自体に興味がなかったらしい。ただ、幼馴染と呼べるほど深い関係ではないとか何とか……」

「へぇー! そうなんだぁー……」

「……アイツの才能を妬むか何かで、一日程度ででっち上げられた関係だったりして」

「いやいや、そんな、まさか……」


 割と正鵠を射るマコの意見を、ソフィアは半笑いで否定する。

 いくらリュージでも、そんなでたらめな話はありえないと考えたのだ。常識で考えれば、彼女の方が正しい。

 だが、レミはマコの話を真に受けたようだ。夢見る乙女の表情で天井を見上げ、ほう、と一つため息を吐く。


「もしそうなら……一日だけの許婚を見初めて、イノセント・ワールドまで追ってきたって事になるよね……。憧れの人を追いかけて……かぁ……」


 また切ないため息を吐くレミ。

 確かに、彼女の言うとおりかもしれない。かつて問題があったゆえに絶縁状態になった二つの家庭。だが、一晩だけでも許婚の契りを交わした男のことを忘れられず、少女はその姿を追って電脳の世界までやって来たわけだ。

 少女の一念は、世界すら超える……と表現すれば、なかなかにロマンチックかもしれない。

 ただ、リュージから「少女とリュージが接触すると、少女の家系が歴史の闇に葬られる」などと聞いているソフィアとしては、首を傾げざるを得ない。


「それは……どうだろうな? 何でもリュージのその許婚が……正確には、神宮派形象剣術の本家の人間が接触すると、神宮派本家が歴史の闇に葬られるとか何とか……」

「え、なにそれは。マイナーとはいえ、一流派が歴史の闇に葬られるとかただ事じゃないんですけど」

「私もさすがにその話を詳しく聞くことは出来なかったよ……。まあ、歴史の闇はさすがに冗談だと思うが、リュージの家と神宮派本家は相当根深い対立関係にあるらしいのは間違いない。そんな状態で、迂闊にリュージに接近してくるとも思えんが……」

「敵対する二つの家の間に挟まれた、許婚の男女……! まるでロミオとジュリエットみたい……!」


 ソフィアの話を聞き、レミの瞳が一層強く輝く。

 彼女も年頃の乙女。人の恋路には興味津々なのだ。


「……リュージの家との対立関係といい、教えたわけでもないのに追いかけてくるなんざ、ストーカー検挙法でしょっ引かれても文句が言えない立場じゃないの?」

「ちょ、それはちょっとひどくないかな、マコちゃん……?」


 逆に人の恋路何ぞどうでも良い系女子代表のマコは、冷めた眼差しでレミの妄想をばっさり斬り捨てる。

 実際、彼女の言うとおり連絡を取ったわけでもないのにリュージを追い掛けて来たというのであれば、それはもうストーカーに片足を突っ込んでいる状態だろう。これでリュージに迫って来たりしたら、リアル刑事の出番となるであろう。

 もちろん、イノセント・ワールドに現れた神宮派本家の少女が許婚の彼女であっても、リュージを追い掛けて来たわけではないかもしれない。可能性としては、単なる偶然の可能性の方が高いのだ。


「まあ、実際のところは偶然でしょ……。で、リュージは何でそれをあんたに教えたのよ?」

「あ、それは……その」


 ソフィアはマコの追求に若干言いよどみ、気恥ずかしそうにしながら答える。


「私には、隠し事をしたくないから……と、言っていた」

「……あいつにしちゃ、シンプルね」

「リュージ君……! ちゃんと、出来るんだね、こういうこと……!」


 リュージにしては珍しい行動に、マコとレミは感心したように頷く。レミなど、感極まった様子で両手を組んで祈りを捧げるようなポーズになった。


「そういうのでいいの! そういうので……! あんまり激しすぎるアプローチは、痛々しいだけなんだからね……!」

「今日のレミはなんか色々激しいな……?」

「あんたからの珍しいアプローチに、リュージの珍しい反応だもの。あたしだって、嬉し涙が今にもこぼれ出しそうよ」


 マコはそう言いながら、目の下を拭うような動作を行う。もちろん涙など流れてはいない。

 ソフィアはそんなマコをジト目で睨んでいたが、すぐにため息一つ吐くと真剣な表情でマコへと問いかける。


「だが、実際のところ、その許婚とやらに出会ったときどうしたら良いと思う? リュージは接触するつもりはないようだし、私もそのつもりではあるが」

「不可抗力はあるでしょうね。まあ、知らない振り安定でしょ。向こうがあんたのこと知ってるはずもないんだし」


 マコはせんべいを一枚齧る。バリ、と小気味よい音を立てながら砕け散る。


「んぐ……。あんたがリュージにモーションかけられてる事だって知りようがないはずだし、余計なトラブルもゴメンよ。向こうがリュージを狙って、許婚の件で変な主張しない限りは、放置安定でしょ」

「むぅ……。やはり、そうだよな」


 ソフィアはマコの言葉に一つ頷く。だが、目に見えて納得していない様子が窺える。


「……なんか気になるの?」

「いや……リュージのいるイノセント・ワールドに、本家の許婚が現れたと言うのが、どうしても引っかかってな」

「何がよ? その許婚がリュージを狙って、イノセント・ワールドにインし始めたとでも言うの?」

「………」


 ソフィアの沈黙を肯定と受け取ったマコは、呆れたように半分に砕けたせんべいを振る。


「気にしすぎよ、ソフィア。確かにリュージみたいなバカはこの世に二人といないけど、リュージと同程度かつ同じようなプレイスタイルの人間は、イノセント・ワールドには結構な数存在するわ。同名って言うなら、それこそ数えられないほどよ? そんな中で、あのバカだけピンポイントに探し当てて、なおかつイノセント・ワールドにやってくるなんて、奇特な人間がいるはずないでしょ? 違う?」

「違わない……」

「そうよね? だったら、落ち着きなさいな。向こうはこっちを知らない。だから、あたしたちも向こうを知らない。リアルには触れず、触れ回らず、よ」


 マコは畳み掛けるように言い切ると、この話題はこれで終わりだといわんばかりにせんべいを噛み砕く。


「さて、そんなことより……。ソフィア、あんた、リュージとの決闘なんて入れ知恵、誰にされたのよ?」

「え、入れ知恵? どうしてそう思ったんだ?」

「いや、決闘するにはレベル差がありすぎるじゃない。そんな絶望的な差に挑むタイプじゃないでしょ、アンタは」

「う、む……そう思うか? リュージも、そう思ってるかな……?」

「あのバカはそんなこと気にもしないと思うけど。で、誰?」

「む、うぅ……」


 いやに詰め寄ってくるマコの、奇妙な迫力に押し負け、ソフィアは白状する。


「いや、その……この間、一緒に狩りをしたスノーというプレイヤーで……」

「スノー? 誰それ」

「えと、リュージのフレの一人だ。普段は傭兵をやってると聞いて……」

「ふぅん?」


 マコはソフィアの説明にいまいち納得はしていないようだ。それはそうだろう。身内ギルドに所属する彼女が、リュージのフレだからという理由だけで初対面の赤の他人と野良狩りするというのが不思議なのだ。

 実際、ソフィアも警戒心は強いほうだ。彼女と一見で仲良くできる人間というのは、そうはいない。

 不審そうにソフィアを見つめているマコであったが、不意にこんなことを尋ねる。


「そのスノーって、男? 女?」

「うん? 男性だが」

「ほう、男」


 マコの瞳がギラリと光る。

 彼女は怪しい瞳の輝きをそのままに、ソフィアにこんな提案をした。


「ソフィア。あんた、これからしばらくの間、そのスノーってのと一緒に行動するようにしなさい」

「は? 何でだ?」

「それで、リュージの嫉妬心を煽ってみようって話よ」

「………………」


 数拍おいて、ソフィアは素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 リュージの嫉妬心を煽るなど、一体マコはなにを考えているというのだろうか?




「リュージはホント強いよね……! 何か秘訣でもあるの?」

「そんなんお前、常に嫁を守れる最強の自分のイメージよ。確固たるイメージに勝る秘訣はねぇ!」

「僕には真似出来そうにないなぁ……」

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