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log16.レベルアップ戦術

 そのままバスタードソードとナイフの二刀流で大量のコボルトたちを相手に大立ち回りを演じ始めるリュージを見て、マコが度し難いと言いたげな表情になる。


「よくあの数相手に、即死しないわね……。普通だったら、即効で挽肉になっておしまいでしょう」

「リュージの奴……手馴れているように見える。ああした大群を相手にするのは、一度や二度ではないようだな」


 リュージの動きを見て、ソフィアは少しだけ安堵する。

 ナイフで相手の攻撃を受け流し、バスタードソードで飛来する矢を防御。視線は常に全体を見渡すように巡らせ、決して足を止めない。

 リュージの動きは大群を相手にする際の定石を踏まえたものに見える。あの数の敵を相手にする場合、最も危険なのは足を止めることだ。

 人間、どう足掻いたところで自分の頭の後ろに目は生えてこないし、いきなり腕の数が増えたりもしない。四方八方から迫る敵の攻撃に対処するには、常に動き回り相手に狙いを定めさせないことが重要になるのだ。


「あれならば、こちらが作業を終える間は何とかなるか……」

「言ってる暇があったら手を動かす! さあ、いくわよ!」

「うん!」

「わかった!」


 マコの音頭を受け、コータとレミ、そしてソフィアはそれぞれの手にクルソルを取り出す。

 マコもクルソルを取り出し、画面をいじって目的の画面を呼び出した。


「……うわ、マジだ」


 目的の画面はあっさり出現し、マコの持っているクルソルの上に薄いモニターが投影される。

 経験値を消費することでステータスを上昇させられる、レベルアップ画面が。


「リュージから聞いたときは半信半疑だったけど、実際できるなら問題ないか……」

「じゃあ、僕とソフィアさんがSTRとDEX中心に! マコちゃんとレミちゃんがINTとPOWを中心にあげればいいんだよね!?」

「今後の育成に関しては、ステータスリセットも視野に入れておかねばな……だが、今はそれでいいはずだ」

「じゃあ、さっそく!」


 ソフィアたちは頷きあい、さっそくレベルアップ画面を弄り始める。

 ――リュージが提唱した、盗賊の隠れ家ボス戦を突破するための妙案……それは、レベルアップであった。

 ただし、普通にレベルアップするのではない。戦闘が始まり、モンスターたちが動き出した後にレベルアップするというものである。

 このゲームのモンスターたちのレベルは、基本的に戦闘が始まる際に決定される。その時戦闘に突入したパーティの平均レベルに、その時点でのダンジョンの進行度に合わせた難易度が加算されることでモンスターのレベルが確定する。

 今回で言えば、リュージたちのパーティレベルは1Lv。盗賊の隠れ家のボス難易度は+10Lvとなるので、ボスであるホブゴブリンのレベルは11Lvとなる。

 一度確定したモンスターのレベルは、その後変動することはない。ボスモンスターには発狂システムがあり、ステータスが変動することはあるが、レベルは決して変動しない。

 そのため戦闘が開始した後にLvを上げてることで、ある程度難易度を緩和することができるのだ。

 リュージが今回用意したこの作戦は、言うなればシステムの穴をついた裏技のようなものだ。こうすることで、一時的なブースト効果によく似た現象を引き起こし、ダンジョンの攻略を容易にすることができるわけである。

 問題点を挙げるのであれば、クルソルを弄っている間も当り判定は存在するため、能天気にレベルアップをしていては、ボスモンスターに袋叩きの目に合うということだ。今回は、リュージがデコイを務める事で、他の四人にターゲットが行かないようにしている。

 とはいえ、レベル差を考えるとどこまで持つかも分からない。まずレベルアップをすることとなった四人は迅速にレベルアップを終え、リュージを救出にいかねばならないのだが……。


「あ、あー!? ステータスが上がらなくなっちゃったよ!? どうしようマコちゃん!」

「成長限界に到達したんでしょ!? おとなしく他のステ上げなさい!」

「あれ、経験値はレベルアップまで注いでるはずなのに、レベルアップしないよ!?」

「最低成長値満たしてない! 今は全部のステを最低1は上げないと駄目って言われたでしょうが!」

「DEX……いや、STR……!? どちらを優先して上げるべきか……!?」

「どっちでもいいからはよ上げんかいぃぃぃぃぃぃ!!!」


 リュージが一人で戦っているという状況に焦りを覚え、クルソルを弄る手が震える三人。焦りから来る操作ミスや、初心者らしい勘違いなどがレベルアップを妨げている。

 それを横目で見ながら、マコはつつがなく自分のレベルを上げつつ、他の三人を必死で導いてゆく。

 そうしている間にも、リュージは必死にコボルトたちの攻撃を捌き、ひたすら時間を稼いでゆく。


「っと、っと、ちょいなぁ!?」


 手にしたナイフを掻い潜るように、コボルトの短刀がリュージの体を浅く薙ぐ。

 叩き落しきれない矢がリュージの体に刺さり、魔法の矢は彼の頭を掠めてゆく。

 少しずつ。少しずつではあるが、確実にリュージは追い詰められ始めていた。


「ぬぉー!? 恐れていたことがぁー!!」


 気が付けば、リュージを中心にモンスターたちは円陣を組むように固まり、ぐるぐるとリュージの周りを動くような流れが出来上がっていた。

 いつの間にかリュージが逃げられる場所は減り、動きを止める時間が長くなり始める。


「っとぉ!?」


 周囲から迫る短刀の斬撃。優に五回は超える様なそれを、二本の腕では捌くことができない。


「たわっ!?」


 飛来する矢は完全に頭上を押さえるように放たれる。迂闊に飛べば、一瞬でハリネズミだろう。


「撃つなよー。撃つなよー!?」


 たとえ、矢の雨を越えられても、その向こうでは魔術師の矢とホブゴブリンが待ち構えている。侵入者たちを殺し、その身包みをはいでやろうと手薬煉を引いているホブゴブリンは、いやらしい顔で笑い声を上げた。


「ぎゃっぎゃっぎゃっ……」

「ああ、憎らしい! いやになるくらい、憎たらしい!」


 リュージは若干裏声になりながら叫んで見るが、それで自体が好転する訳もない。

 円を描くコボルトたちが陣を崩すことは無く、そこから逃げないように矢は絶え間なく放たれている。


「……ここまでかねぇ」


 攻撃スキルが充実しているのなら、これを超える手段もあろうが、あいにく1Lvで取れる攻撃スキルは皆産廃だ。まったくスキルを取っていない状態では、なすすべも無い。

 ちらりとソフィアたちの方に視線をやれば、必死にクルソルを意地ってレベルアップをしているところであった。


「ふむ……。さすがに四人いれば、大丈夫かね」


 リュージは今自分が取得している経験値量からどれだけステータスが上がるかを考え、一つ頷く。

 二つか三つはレベルが上がる。それだけあれば、1Lvコボルト軍団を薙ぎ払うのは難しくないはずだ。


「……ソフィアー!」

「なんだリュージ!」


 リュージは声を張り上げ、ソフィアを呼ぶ。

 ソフィアは必死にクルソルを弄りながら、リュージのほうへと顔を向けた。

 リュージはソフィアと目を合わせながら、にっこりと笑う。


「出来れば、一ヶ月に一回くらいは声を聞かせてくれると嬉しいです」

「は? お前――」


 ソフィアがリュージにその一言の真意を問おうとするが、それは無駄だと悟る。

 完全に臨戦態勢に入ったコボルトたちが、今にもリュージに飛びかかろうとしているのだ。


「リュ、リュージ!?」

「ふははー! 最後のお勤めじゃ! かかって来いやぁー!!」


 自らの(リスポン)を受け入れ、リュージはナイフを捨ててバスタードソードを握り締める。

 一匹でも多く、モンスターを道連れにするつもりか。


「リュージ、待て!?」

「相手は待ってくれませんのだー! おさらばっ!」


 ソフィアの制止も空しく、リュージは全身に力を溜め込む。

 向こうが飛び掛るのと同時に、自身も飛び掛るつもりか。

 リュージの殺気を感じ、コボルトたちからも殺気が迸る。

 一瞬即発。瞬き一つした瞬間、その場の殺気ははじけ飛ぶだろう。


「リュー……!!」


 その中心に立つ彼の無謀を止めたくて、ソフィアはクルソルも手放して彼に向かって手を伸ばす。

 反射的に願う、死なせたくないという思い。例えこれがゲームなのだとしても……いや、ゲームだからこそ。

 彼に、いなくなって欲しくない。たとえ、僅かな間でも。

 ソフィアは、レイピアを手に駆け出す。

 少しでも、自分に注意を向けるように息を吸い込み、大声を上げようとする。

 だが、それよりもコボルトたちの動きの方が早い。

 リュージが逃げ出さないように陣を固め、短刀を振り上げる。

 それに反応し、リュージもまたバスタードソードを肩に担ぐ。横薙ぎの一閃。それで、どれだけ倒せるのか――。


「――――ッ!!」


 ソフィアが、喉の奥から声を張り上げる。

 ……その、数瞬前。


「後ろだ、カミカゼ野郎!!」


 鋭い、気勢。

 火の爆ぜる音。

 一瞬で視界を支配した、爆炎。

 ソフィアの上げた咆哮すらかき消した爆発は、コボルトの円陣の一角をあっという間に吹き飛ばしてしまった。


「っ!?」

「いぃよいしょぉー!?」


 思わず足を止めてしまうソフィアの目の前に、炎を纏いながらリュージが転がってくる。

 フレンドリーファイアは無くとも熱は感じるのか、リュージはじたばたと地面を転がり始める。


「っづぁー!? あつあつあつあつぁー!?」

「今のは……!?」

「……自分でやっといてあれだけど、よく合わせられたわね、アンタ」

「ソフィたんのところに飛ぶつもりでいけばなんとか!」


 ガバッと立ち上がったリュージは、今のファイアボールを放ったマコに向かってそう叫ぶ。

 手の平から炎の固まりをたたき出したマコは、呆れたように肩をすくめる。


「ああ、そう……。まあ、生きてて何よりね」

「割と死ぬとこだったがな! まあ、助かったわサンキュー」

「リュージ君! 回復するね!」


 そういいながら駆け寄ってきたレミは、チャージせずにリュージにヒールをかける。

 すると、じりじりと削られていた彼のHPが、一瞬で最大値まで回復した。


「これでよし……!」

「それじゃあ、次は僕たちの番だね……!」


 リュージが無事に回復したのを見届けてから、前に出てきたコータがロングソードを片手に、意気を巻く。


「リュージ! 僕たちが時間を稼ぐから、レベルアップしてきてよ!」

「いや、そのまま殲滅してくれてもよかですよ? マコさんの一撃があれば、ねぇ?」

「悪いけどガス欠。回復まで、もうちょっとかかるわよ」

「さよけ」


 リュージは一つ頷き、クルソルを取り出す。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「ああ、そうしてくれ!」


 自信満々のコータは、一歩前に踏み出し、コボルトたちに見得を切った。


「さあ、今度は僕が相手だ! どこからでも、かかってこぉい!!」




上述の理由から、ダンジョン内でのレベルアップは非推奨となっている模様。

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