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log157.渡りの草原

 ソフィアとスノーの二人は、ミッドガルドを離れ、アルフヘイムのある地域まで足を伸ばしてきていた。


「ふむ。アルフヘイムの“渡りの草原”か。狩りには言い場所だ」

「そうですね。私も、一人の時は時折ここに来て狩りをします」


 ソフィアの選んだ狩り場にスノーは満足げに頷く。

 渡りの草原とは、メインダンジョンや個別に湧き出るランダムダンジョンを繋ぐ回廊の役割を果たす、フィールドダンジョンである。

 ニダベリルで言えば、岩肌むき出しの岩山がそれにあたる。敵モンスターがプレイヤーの付近にランダムでポップし続けるため、適度に暇を潰すにもってこいな場所だといえる。

 無限に広がる草原のあちこちに生えている巨大葦がどことなくシュールではあるが。

 軽く吹くアルフヘイムの風を頬に受け、気持ちよさそうに目を細めながらソフィアは呟いた。


「風が心地いいのも良いですね。こうして、大地の広さを直接感じられる気がするんです」

「フフフ、詩人だねソフィアちゃんは。確かに、これだけ広いと昼寝なんかにも困らなさそうだ」


 言うが早いか、スノーはごろりと大の字で草原の上に転がる。

 カーペットのように広がっている雑草はスノーの丸い鎧を窮屈そうに受け止めている。


「干し草とは違うが、このふかふか感は素晴らしいからなぁ。いつまでも時間があれば、ずっとこうしていたい……」

「そのためには、敵対モンスターを駆除しなければなりませんけれどね。敵は無限に湧き続けるわけですし」

「その通りだね。ゆっくりするのは、また今度だ」


 ソフィアの言葉にスノーが立ち上がると、彼の寝ていた場所には丸い鎧の跡がくっきりと残っていた。

 鎧の後のコミカルさに思わずソフィアは噴出してしまうが、スノーはそれに構わずソフィアに問いかけた。


「ところで、君はなにを使って戦うんだい? 一緒に戦う味方の武器は把握しておきたい」

「ああ、はい。私はこれを使います」


 スノーの言葉に、ソフィアは慌ててインベントリから新しく仕立て上げたレイピアを取り出した。

 陽光を浴び、鈍く輝く白い刀身は何らかの生物の骨を削りだしたように見える。

 長さはおおよそ一メートル弱程度で、先端は細長い針のような外観をしているのだが、不思議な事に鍔元の二十センチ程度が大振りのナイフのような構造になっているのだ。

 ソフィアの取り出したレイピアの姿を見て、スノーは感心したように頷いた。


「ほぉ! 見たことがない武器だね。創作武器……いや、遺物兵装(アーティファクト)か!」

「はい。先のマンスリーイベントで手に入れた遺物兵装(アーティファクト)がこれでして」


 ソフィアは恥ずかしそうに頷きながら、軽く刀身を撫でる。


「ずいぶん悩んだんですけれど、どうにかやりたいことのイメージが固まって……。友人に手伝ってもらいながら、何とか形を整えたんです」

「コアの造型は、慣れないと難しいからね。鍔元の構造は斬撃を使いやすくするためかな?」


 レイピアは刀身の構造上、斬撃には向かない。敵を斬る場合、どうしても先端を擦り付けるような形になってしまう。それをカバー……するには若干位置が悪いように見えるが、ソフィアはスノーの言葉を肯定する。


「はい。今後、追加したい機能もあるのでそれにも合わせて」

「ふむ、それは楽しみだな。遺物兵装(アーティファクト)の醍醐味は、自分好みの武器を育成できることが一つだからね。完成したら、私にも見せてほしいな」

「ええ。その時は、必ず」


 ソフィアはスノーの言葉に微笑み、彼に同じ質問を返した。


「それで、スノーさんはなにを?」

「私かい? 私はこれだよ」


 スノーがインベントリから取り出したのは鎖の付いた丸い鉄球だ。鎖を振り回し、敵に叩きつける用途に用いるのは想像に難くない。


「普段使っているのはカテゴリーギアの乗るツヴァイハンダーなんだが、この姿の時はこれを使っているよ。サブカテとはいえ、ギアも入れているしね」

「なるほど。ちなみに、種類はなにになるんですか、それ」

「ハンマーだね。ただ、武器の種類の関係からか鞭系のギアも乗るようだよ。複数のカテゴリーのギアが乗る武器だと、二つのギアの効果が同時に発動するのを覚えておくと、スキルビルドの役に立つよ」

「複数のギアの効果が乗るんですか……。覚えておきます、ありがとうございます」


 つまり、スノーの振り回す鎖ハンマーには、ハンマーギアとウィップギアの二種類のギアのスキル効果が乗るわけだ。

 ギアスキルのパッシブにも強力なものが多い。ギアの相乗効果を狙えるとなれば、複合武器の育成と言うのも悪くはないだろう。

 そのことを頭の片隅に止めながら、ソフィアはレイピアを構える。


「さて……来ましたね」

「ふむ?」


 ソフィアの視線の先を追うようにスノーが振り返ると、何匹かの狼が草原にポップしたところであった。

 アルフヘイムでは一般的なレイダーウルフ。そのレベルは、50を超えている。恐らく、スノーのレベルに引っ張られているのだろう。

 出現数は四匹。狼たちはバラバラに遠吠えを行うと、そのままソフィアたちに向かって駆け出してきた。


「来ます!」

「よし、きた!」


 狼たちが駆けてくるのを見て、ソフィアはレイピアを構える。

 そしてスノーは鎖ハンマーを肩に担ぎ、それから素早く自分の足元に小さな小瓶を叩き付けた。

 草原に叩きつけられた小瓶は小さな音と共に割れると、白い煙を吐き出し、スノーの体に纏わりつき始める。


「離れてくれ、ソフィアちゃん!」

「スノーさん? なにを……」


 スノーは全身に煙がこびり付いたのを確認すると、一目散にソフィアのそばから離れる。

 ソフィアは彼の行動に不審を覚えるが、彼の指示に従い逆の方へと動く。

 レイダーウルフたちはまっすぐにソフィアたちのほうへと向かっていたが、うち三匹がスノーに向かって進み、一匹だけソフィアのほうへとやってくる。


「これは……!?」

「魔物寄せの香というアイテムだよ! 敵のヘイトを強制的にこちらに向かせるものだ!」


 明らかに偏りのある狼たちの行動に驚くソフィア。

 スノーは先ほどの行動の意味を叫びながら、手にしたハンマーを狼の一匹に振り下ろす。


「セイッ!!」


 勢い良く叩きつけられたハンマーは容易く狼の体を打ち砕き、スノーは素早く鎖を伸ばして振り回す。

 残った狼たちは跳んで鎖ハンマーの射程から逃れる。

 油断なく鎖ハンマーを振り回しながら攻撃の隙を窺うスノーは、周囲を睥睨しながらソフィアに声をかける。


「そちらは任せたよ!」

「ええ、わかりました!」


 ソフィアはスノーに素早く答えると、飛び掛ってきた狼にパリィを発動する。


「パリィ!」


 刀身表面に浮かんだ薄い障壁は狼の牙を受け止め、そのまま反対の方向へと弾く。

 狼はそのまま何回転かして草原に着地し、唸り声をあげながら体勢を低くする。

 再び飛び掛ってきそうな狼を前に、ソフィアは冷静にレイピアを構え直す。


「さて、竜の骨ドラッケン・クノッヘンの初陣……いや、試し斬りと行こうか!」


 狼の跳びかかりに合わせ、ソフィアは一歩前に出る。


「シッ!!」


 先ほどとは違い、パリィではなく刺突による迎撃。狼のわき腹を狙った一撃は、狼にダメージを与えるが外皮を貫くには至らない。

 互いの速度が邪魔をして、先端がうまく刺さらなかったのだろう。

 狼の骨に刃が弾かれる感触を手首に受け、ソフィアは小さく舌打ちをする。


「チッ!」


 そのまま刃を翻し、一歩狼から飛び退くソフィア。

 狼もまたソフィアから飛び退き、痛みに怒りの唸り声を上げる。

 そのまま何度かソフィアに向かって吼えると、再びソフィアへと飛び掛るために草原を駆け出す。

 ソフィアは痛みのようなものを感じる手首を軽く撫でながら、狼の跳びかかりに備える。


「来るか……!」


 四肢に力を込め、全速で駆け抜ける狼は、ソフィアの喉笛に向かって飛び上がる。

 ソフィアは迫る狼の牙にも怯まず、素早く竜の骨ドラッケン・クノッヘンを逆手に構える。

 そして下がりながら飛び掛ってきた狼の胴体を掬うように掴み、その喉に竜の骨ドラッケン・クノッヘンの鍔元の刃を押し当てる。


「――フッ!」


 そして鋭い呼気を吐きながら、狼の喉を一気に斬り裂いた。

 小気味良いクリティカル音と共に、レイダーウルフのHPは一気に消滅する。

 一瞬跳ねるように震えた狼の体は、すぐに力なく崩れ落ちる。

 腕の中で消える狼の体を見て、ほっと安堵の息を吐くソフィア。

 そんな彼女の肩を、スノーが軽く叩いた。


「ハハハ、やるじゃないか、ソフィアちゃん。クリティカル込みとはいえ、一撃でレイダーウルフのHPを削るなんてね!」

「スノーさん!? ……いえ、あなたほどでは」


 知らぬ間に、残りの二匹のレイダーウルフも仕留めていたスノーに驚くソフィア。

 目の前の敵に集中していたとはいえ、その決着すら気が付かなかったというのは、若干ショックだった。

 それだけスノーが手練なのか、あるいはソフィアが鈍いのか。

 複雑な表情を浮かべるソフィアを見て愉快そうに笑いながら、スノーは肩に鎖ハンマーを担ぐ。


「ハハハ、狩りは始まったばかりだよソフィアちゃん! 存分に頼らせてもらうからね!」

「はい……」


 自身よりも歴戦のスノーにそう言われて、どう反応してよいかわからないソフィアは複雑そうな表情のまま頷く。

 スノーの言うとおり、モンスターのポップは止まってくれない。次の現れたモンスターを見て、ソフィアは気を引き締めた。




なお、命名はソフィア自身で行った模様。

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