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log154.自分だけの遺物兵装

「……まあ、人間がやってるわけだし、ゲームだって色々あるわよね」


 マコは静かにそういうと、グイッとはちみつ酒を一気に飲み干す。

 忠実に再現されたアルコールの刺激が喉を焼き、マコははしたなく大きな音を立てて息を吐いた。


「っはぁー!! ……とりあえず、さっきの話はおいておいて、ちょっと明るい話をしましょ。あんたらは遺物兵装(アーティファクト)をどんな風にするか決めたの?」

「ひとまずは、レイピアにするつもりではある」


 話題の方向転換を図るマコに乗っかり、ソフィアは静かな表情で頷く。


「普段使い慣れている武器が一番良いと聞くからな。実際のところはどうなのか知らないが」

「良し悪しに関しちゃ、慣れってのがあるしなぁ。遺物兵装(アーティファクト)の形で一番多いのはやっぱり、ギアとして選択された武器種にすることだし」


 リュージは焔王を取り出し、軽く刀身の腹を撫でながら感慨深そうに呟く。


「普段から使うもんだから、経験値も溜まりやすいし、ある程度なら形の変更も受け付けるからな。後悔しない、って意味だと一番の選択肢だわ。やっぱり」

「やはりそうか。なら、今のうちに形を……」


 ソフィアは遺物兵装(アーティファクト)のコアを取り出し、それから少し困ったような表情でリュージを見る。


「……なあ、リュージ? この遺物兵装(アーティファクト)の形状決定、絶対自分でやらないと駄目か? 何か、テンプレート的なものはないのか?」

「それは俺も願ったけど、残念ながらコアを使う場合はテンプレも他人への依頼もなしやね……。トレードできるようになるのは、一定以上成長してからだから、仲間内で製作を代行するとどうしても時間がかかるし……」


 リュージは申し訳なさそうな顔をしながら、ソフィアに首を振ってみせる。


「幸い、イメージで形を取り出す以外にも、コアを粘土細工みたいにこね回して形成できるから、納得いくか妥協点が見つかるまでトライし続けてね、ソフィたん……」

「うぅ……私こういうの苦手なんだが……」


 泣きそうになりながらソフィアは手元のコアを針状に伸ばしてみている。

 レイピアの刀身らしい、細長い針のような刃を作ろうとしているようだが、途中で手が震えて若干歪んだり捻くれたりしてしまっている。針金を使って作ったといわれても違和感なさそうだ。

 レイピアの刀身造りに四苦八苦しているソフィアを見て、コータは困ったように眉尻を下げてリュージに問いかけた。


「……参考までに、リュージはどうやって焔王作ったの? 割としっかりしたつくりに見えるけど」

「そりゃもう、雑念を捨ててひたすら祈ったさ! シンプルイズベストの形になるように祈ったのさ!」


 リュージは叫びながら焔王を掲げてみせる。

 平たい鉄板を細長く切り出し、刃に当たる部分を研いだだけといわんばかりにシンプルな構造をしている焔王の形は、確かに誰でも想像しやすい形となっているだろう。

 だが、それ以外に目立つポイントもいくつかある。刀身にうっすらと浮かぶ龍の彫金とその手元の穴などがそうだ。


「そういう割には、龍の彫り物とかすごいよね。それも想像?」

「あ、いや。これは後から入れたスキルの影響」

「え、スキルの影響でこんなのでるの?」

「おう。焔王のスキルのいくつかはモンスターのスキルブック使って入れたんだけど、そん時の影響だな」

「へぇー……」


 レミが驚いたように頷く。後から入れたモンスタースキルによって、見た目の形が変わるというのは面白いシステムだろう。ソフィアのように武器の形成が苦手でも、あとからこうして着飾ることが可能なわけだ。


「ちなみに、影響があったスキルって?」

「炎熱開放とそのための火を自発的に入れる輝晶生成のスキル。どっちもレアエネミーであるレッドドラゴン・ヴォルカンクラッツで手に入るスキルだな」

「ああ、君の二つ名の由来となったドラゴンか……。話に聞いただけでは、俄かには信じ難いよ、君の功績は」

「それ以上はシャラップ。黒歴史には触れずにつかぁさい」


 アスカを遮るようにリュージは掌を差し向ける。

 すでに竜斬兵アサルト・ストライカーの名は皆に知れ渡ってしまっているが、それでもこっ恥ずかしい二つ名を連呼されるのはいやであるようだ。

 アスカもそれとなく察し、彼の二つ名の話は避け、コータたちのほうに視線を向ける。


「そちらの君たちは、どうするのか決めているのか?」

「僕は……どうしようかなぁって。武器なら剣なんですけど、まだ試してみたい武器とかあるし……」


 コータはインベントリから取り出した武器カタログを捲りながら、悩ましげに呟いた。


「今のところステヘキは器用貧乏な形になっちゃってるから、刀とかは装備しづらいんですけど憧れはあるんですよねー……」

「刀……人気がある武器だが、DEX特化型だったか? あれはどういう理由なんだろうな?」

「刀を棒みたいに振り回したらボキッと折れるからだよ。叩きつける運用には向かないからな、刀って。……ものには寄るらしいんだけど」

「美術品にもなる武器に、力技の実用性を求めてはいかんということだろう」


 コアの形成を一端諦めたソフィアは、ため息をつきながらコータを見やる。


「悩むのであれば、武器ではなくアクセサリーにしてみるのもよいのではないか? レミはそうしたのだろ?」

「あ、うん。魔法を使う媒体としても機能する、腕輪にしてみたんだよー」


 レミはそう言って、右手首につけた腕輪を示してみせる。

 大き目のリストバンドのような見た目であり、質感は金属のように見える。表面には太陽にもひまわりにも見える明るい模様が彫られており、彼女の明るい人柄をそのまま示しているようにも見える。


「杖だと案外狭い場所で取り回しに難がある気がしてたんだけど、リュージ君に装身具も魔導具になるって教えてもらったから! 今後はこれで魔法使うよ!」

「そうなのか、リュージ?」

「アマテルとかそうだぞ? 確か鏡だよな?」

「うん。ヤタだね」


 静かに料理を突いていたアマテルは、リュージに話を向けられて自身の持つ遺物兵装(アーティファクト)、魔鏡ヤタを取り出した。

 両手で掲げられる程度の大きさの真円形の鏡で、その周りには細やかな金細工が施されている。いかにも儀式に用いられる用の鏡だと見受けられる遺物兵装(アーティファクト)であった。


「使うのは主に確殺スキルだけだけど、魔法も使えるようにしてあるから、結構威力出せるんだよ?」

「鏡でいけるのか……」

「場合によっちゃ、剣やら槍やらでもいけるよ。普通の武器の場合は専用のスキルが必要だけど」

「っつか、ソフィアだって花瓶使ってリュウを殴るじゃないかい。あれと一緒だよ。そういう用途に使おうと思えば、なんだって使えるんだよ」


 ちびちびとはちみつ酒を飲んでいたカレンが不意に口を挟んでくる。

 最近はリュージへのお仕置き用にインベントリに花瓶をいくつか仕舞い込んでいるソフィアは、その指摘を受けてぎくりと体を震わせた。


「い、いや、あれは武器として使う予定はないから……」

「予定ないって、使ってんじゃん。リュウを殴る鈍器として」

「ちなみに花瓶は鈍器系のギアを取るとスキルを適用できるようになるぞ。さすがに花瓶専用のギアはないけれど」

「あ、スキル適用できるんですね!?」


 花瓶にすらスキルが適用可能だと聞き、レミが驚きの声をあげる。

 ちなみにこれは余談となるが、大根ブレードを使用する場合、適用されるギアは鈍器系と短剣系の二種類となるためお得なような気がするともっぱらの噂である。


「いっそ花瓶で遺物兵装(アーティファクト)いっちゃう? あんたなら良い線いくと思うけど?」

「かんべんしてくれ……」

「そういえば、マコはなににしたのー?」


 弄られてしょげ返るソフィアを横目に、アマテルがマコに問うと、彼女は一丁のサブマシンガンを取り出した。


「あたしは普段サバゲで使ってるPDW……によく似た何かにしてみたわ。銃でも作れるのね」

「よく作れたね……銃みたいな複雑な構造してる奴は、結構再現が難しいって聞いたけど」


 カレンが呆れたような驚いたような表情で、マコが手にしているサブマシンガンを見やる。

 PDWパーソナルディフェンスウェポンの名に恥じない、コンパクトでスリムなデザインのサブマシンガンだ。片手でも十分振り回せる長さと大きさであり、よく見れば折りたたみ式のフォアグリップとスライドストックが付いている。

 細部の再現率もなかなか出来がよいらしく、マコはうっとりとした表情で手の中のPDWの銃身に頬ずりした。


「名前はMPアサルトにしてみたわ……。自分で作ってみると、愛着が違うわねー」

「普段使いの銃があるんなら、何で最初にそれ買わねぇんだよ?」

「高すぎんのよこれ! 市場流通価格が30Mなのよ!? 買える訳ないじゃん!!」

「それはお高い……」


 グレード低めの遺物兵装(アーティファクト)クラスである。

 だが、それだけに強力な銃器なのか、マコは再び表情を崩す。


「ウフフ……でももういいのよ。即行で無限弾装のスキルは入れたから……。これからのメインとしてバリバリ使い倒していくわよ!」

「もう入れたんかい、無限弾装。っていうか、入るもんなんだな……」


 マコの言葉に今度はリュージが呆れたような表情になる。

 無限弾装は言葉の通り、弾薬など使用に限りのある武器や道具の使用制限を解除するものだ。

 今回のMPアサルトで言えば、通常弾に限りリスクなしで撃ち続けることが可能となる。

 嬉しそうなマコを見て、アスカはひとつ頷いた。


「ふむ。やはり遺物兵装(アーティファクト)は人によって千差万別になるな。私の知っている遺物兵装(アーティファクト)には、他人の遺物兵装(アーティファクト)をコピーできるものもあったりする」

「そんな能力もあるんですね」

「コピー能力は、最初に持っていないと付与できないらしい。だが、そんなものなくてもこれだけ個性が光るアイテムだ。慎重に、ゆっくりとどんなものにするか決めれば良いさ」


 アスカの言葉に、コータとソフィアは真剣な表情で頷いた。

 今、遺物兵装(アーティファクト)を作っていないのは二人だけだ。このままでは成長で若干遅れを取る事になってしまうが、だからといって焦ってもいけない。

 一生ものというほどではないが、それでも後悔は付いて回る。そんなものは、現実の失敗だけで十分だろう。


「必要なものにするか、アクセサリーにするか、あるいはそれ以外にするか……。君たちには悩みを聞いてくれる仲間がいるんだ。きっと大丈夫だよ」

「ありがとうございます、アスカさん」

「そうですね。ゆっくり考えてみます」


 コータとソフィアは、アスカに気遣いに笑顔で礼を言う。

 アスカもまた、そんな二人に笑顔を見せ、満足げに頷くのであった。




ちなみに、保持しているギアの種類によっても遺物兵装(アーティファクト)で解禁されるスキルが若干替わってくる模様。

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