log152.パトリオット狩り
城砦攻略型イベント最終日。多くのギルドは自らの挑んだ城砦の攻略を終えたが、まだ攻略が完了していないギルドも多少は存在していた。そうしたギルドは高い金を積んで、CNカンパニーをはじめとする傭兵派遣ギルドに依頼をするというのが、ある意味ではこうしたイベントの風物詩と言えるだろう。
そんな中、異界探検隊を有するギルド同盟は、五日目にて無事に城砦の攻略を終え、残りの二日を城砦内の細かい探索や、レアエネミー狩りへと割り当てていた。
十階から上のダンジョンフロアでは、まだ未探索エリアは残っており、そこではレア度の高めな宝石や薬草、きのこなどを豊富に入手することができたり、あるいは化石武器などのアイテムが入った宝箱が発見できたりした。探索系スキルを取得したスカウトなどが自らのスキルの習熟にダンジョンへと入り浸ったり、あるいはレアエネミーのような強い敵はかんべんだが、ちょっと手ごわいモンスターとスキルの練習のために戦いたいと言うプレイヤーが多く出入りすることとなった。
そして十階より下、最終フロアまでを守る四体のレアエネミーが出現するエリア。固定かつ確実にレアエネミーが出現するということもあり、ギルド同盟の大半の者はこのエリアに、特にパトリオットが出現するエリアに殺到した。
やはり遺物兵装の需要にはすさまじいものがあり、六日目の城砦突入前など、ほぼ全てのギルドがパトリオットと戦うことを希望したほどであった。
だが、いかにパトリオットが遺物兵装を確定で落とすレアエネミーであるとはいえ、そのすべてが遺物兵装と言うわけではない。確定で落とす数も1~3個とランダムで、残りおおよそ十二個のアイテムは通常のドロップ抽選枠から選ばれる。その中にも遺物兵装のコアは混じっているので、遺物兵装大量取得のチャンスがないわけではないが、それでも全員に供給できるだけの数はなかった。
そのため、ギルド同盟内でも「どのギルドがパトリオットと戦うのか」で紛糾しかけたものの、最終的には「くじ引きにて戦闘権利を引き当てた者たちが、パーティを組んで戦う」ことで一応の解決を見た。
ギルド単位ではなく、個人同士が手を組んで、という形に納めることでギルド同士の不満をなるたけ抑えるような形だ。これがギルドによる抽選であれば、遺物兵装を持っているギルドが権利を引けば持っていないギルドから不満が上がる。さりとて、多くの遺物兵装を持っているギルドを抽選から外しても不公平だと抗議が出るだろう。
あちらを立てればこちらが立たず。こうした、需要の高いアイテムの入手機会に関しては、常にこうした問題が付いて回るものである。
ともあれ、こうして抽選にてパトリオットとの戦闘権利を得た者たちは、初心者への幸運の三人と共にパトリオットとの戦いに挑み、遺物兵装のドロップを狙うこととなる。抽選人数は五人。パトリオットの通常枠における遺物兵装のドロップ率もそれなりという検証結果が出ているので、これで大丈夫だろうと言うアラーキーの判断である。
抽選にあぶれたものたちは、他のレアエネミーにて遺物兵装のドロップを狙うこととなった。パトリオット程ではないにせよ、他のレアエネミーも遺物兵装をドロップすることはままある。それに、神鉄オリハルコンや超人薬の原料となる薬草、あるいは光学迷彩装備の入手機会でもある。多少の不満はもちろん上がったが、大きな騒動になることはなく、誰もが慎ましやかにレアエネミー狩りに奔走することとなった。
そんな中、リュージはアラーキーに引きずられ、何故かパトリオット討伐に参加させられていた。
「オラァァァァァァァァ!!!」
遠慮なく焔王にてパトリオットの膝裏に一撃を叩き込むリュージ。
パトリオットとの戦闘経験があり、なおかつ遺物兵装持ちで、パトリオットにも通用する火力があると言う理由でソフィアから引き離された怒りは、普段以上の力を引き出しパトリオットを打ち崩す。
ひざかっくんの要領で体勢を崩したパトリオットに、他の戦闘メンバーからの攻撃が殺到する。
「いまだー! 撃てぇー!」
「お前も撃て、アラーキー! テンペストで構わん!!」
「おっけぃ! 斬糸乱舞!!」
飛び交う魔法や銃弾の間を縫うように、アラーキーの斬糸がパトリオットの体を斬り刻む。
体勢を崩したパトリオットはそのままじわじわHPを削られてゆくが、倒れたままの体勢で天井に向かって何発か榴弾を放った。
天井付近で下に向かって下降し始めた榴弾は、程なく破裂し、無数の刃となってアラーキーをはじめとする戦闘メンバーの頭上に降り注ごうとした。
「やばい!? 逃げ――!」
「レイ・ストーム」
だが、後方に座していたアマテルの一撃によって全ての刃は塵と化す。
RGSは早々に城砦の攻略を終え、暇を持て余していた彼女はGMの許可を得てリュージの手伝いにやってきているのだ。
見事に全ての刃弾を撃ち落したアマテルに、エミリーが熱いエールを送った。
「サンキュー、アマテルちゃん! さっすがだよー!」
「当然」
アマテルは小さく笑いながら、フンスと自慢げに鼻を鳴らす。
榴弾を放った隙に立ち上がろうとするパトリオットであったが、それを無視して前進してきたアラーキーとリュージによって、それを阻まれてしまう。
「パワークロスダッシャァァァァァァ!!」
「シュトゥルムゲイザァー!!」
地面に付いた手を容赦なく襲う二人の斬撃。パトリオットの手はその衝撃でずるりとすべり、そのままあえなく仰向けに倒れてしまう。
そこでパトリオットのHPは半分へと減少し、倒れた衝撃で開いたかのように胸部を展開し、その中に収められていた砲塔を覗かせる。
そのままの体勢でエネルギーチャージを始めた砲塔の先端に、禍々しい輝きをした太陽のようなものが生まれ始めた。
「なんじゃありゃー!?」
「わからん! 原子分解砲かなにかか!?」
発狂により展開された新たな武装を見て、アラーキーとジャッキーがそうあたりをつける。
二人の予想通りの場合、例え適当に放たれたとしても広範囲に広がる衝撃がフィールド全体に広がり、パーティにかなりのダメージを与えてくるはずだ。
撃たれる前に相殺すべきだが、瞬時にそれだけの火力を原子分解砲に叩き込む必要がある。
「イグニッション!!」
「ソーラーチャージ!!」
そこで素早く動いたのは、リュージとアマテル。
炎熱開放にて炎を纏うリュージ、天井の光源からエネルギーを取り込むアマテル。
焔王をバットのように担いだリュージは、全力で溜まってゆくエネルギー塊へと向かう。
「くらいやがれ、俺の確殺スキルッ!! 焔王斬ッ!!」
担いだ焔王は、さながら龍のような炎の渦を纏い、激しく燃え上がる。その大きさはリュージの全身など優に超え、パトリオットの全身を飲み込まんばかりだ。
焔王に纏った炎の渦を、リュージは全力で振るいエネルギー塊に叩きつける。
炎の渦はエネルギー塊にぶつかった瞬間、その様相を一変し、とぐろを巻く龍のような姿となった。
リュージは焔王を振り切り、エネルギー塊から離れる。だが炎の龍はエネルギー塊から離れず、そのままエネルギー塊を絞め潰そうとする。
「あれが焔王の確殺スキル……!」
「はじめて見た!!」
エネルギー塊に襲い掛かる炎の龍を見て、何人かのメンバーが驚嘆の声をあげる。
炎の龍はエネルギー塊を絞めるだけでは飽き足らず、口を開けて噛み潰そうとする。
炎の龍がエネルギー塊に噛み付いた瞬間、パトリオットはさらにエネルギー塊にエネルギーをチャージした。
禍々しい輝きが一際強くなり、エネルギー塊は一回り大きく膨れ上がろうとする。
炎の龍はそれを許さぬようにさらに締め付けを強くするが、それが保ったのはほんの一瞬であった。
エネルギー塊の輝きがさらに強まった瞬間、激しい爆音と共に炎の龍は四散した。
「ああっ……!?」
炎の龍の無残な姿に漏れ聞こえる無念の声。原子分解砲のエネルギー塊は、かなりしぼんではいるが完全消滅にはいたっていない。
だが、エネルギーが足りない状態でも発射はできるのか、パトリオットの眼球にあたる部位が強い輝きを放ち始める。それにあわせるように、原子分解砲の方も激しい唸り声をあげ始めた。
しかし、チャージが終わったのはパトリオットだけではない。
「やっぱり太陽じゃないと、チャージはうまくいかないな。まあ、いいけれど」
ソーラーチャージを続けていたアマテルが、不満そうに呟く。彼女の体は、今や太陽光にも近いオーラを全身から放っており、今にも炸裂しそうなほどのエネルギーがたまっているのが窺えた。
アマテルはパトリオットのエネルギー塊に、懐から取り出した一枚の鏡を向ける。
「出番だよ。魔鏡・ヤタ」
アマテルが手にした鏡はキラリと光を反射し、彼女の体の中のエネルギーを受けているかのようなオーラを放ち始めた。
そして、パトリオットの原子分解砲からエネルギー塊が離れようとした瞬間、アマテルはひとつのスキルを開放する。
「オーバーロード・ソーラレイ・ストームッ!!」
彼女が持つ、最大威力のスキル。確殺スキルでもある、光の奔流が彼女の手の中の鏡から放たれた。
光の奔流はあっという間にエネルギー塊を飲み込み、消し飛ばす。まっすぐに突き進んだ奔流は部屋の壁に激突すると、そのまま霧散してゆく。
莫大な光の奔流は、しかし瞬く間に消え去った。後には倒れたままのパトリオットが残るばかりだ。
原子分解砲の相殺を確認したジャッキーは、サーベルを振り上げ呆けている味方に渇を入れる。
「よし! 敵の攻撃はしばらく来ない! 今のうちに畳み掛けろぉ!!」
「「「お……おおぉぉぉ!!」」」
ジャッキーの渇に我を取り戻した同盟メンバーたちは、一斉にパトリオットに群がる。
自身の必殺を凌がれたパトリオットもまた、同盟メンバーに対応するべく体を起こす。
リュージとアマテルはそれぞれの武器を手に、同盟メンバーの攻勢に参加する。
「遅れないでよ、リュージ?」
「パパッと終わらせて、俺は帰るんじゃー!!」
己の欲望を曝け出しながら、リュージは焔王をパトリオットに叩きつけるのであった。
遺物兵装・魔鏡・ヤタ
「RGSに所属する光属性の射撃魔術師、アマテルの所有する魔導具型の遺物兵装。普段彼女は魔導具を使わずに魔法を発動するため、これを使用するのはもっぱら確殺スキルの使用時となる。確殺スキル以外の主な機能として“反射”を有する。これは鏡面に映った対象をヤタのある方向とは真逆に反射するという機能。反射自体にダメージはなく、鏡の中に全体が映らなければ反射できないものの、反射できるものに一切の制限はなく、人やモンスター、さらには魔法にスキルまであらゆるものが反射可能なチート機能の一つである」