表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/193

log151.三剣の太刀

 ――セードーたちがそれぞれに強敵と戦っている最中、異界探検隊もまた、自身が倒すべき強敵と向き合っているところであった。


「おーっと手が豪快に滑り倒したぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぬわぁぁぁぁぁぁ!?」


 リュージの手が滑ると言うには苦しすぎる形で、円卓の騎士(アーサーナイツ)の総隊長護衛方の一人であるサースの体を投げ飛ばす。

 超重量級のタンクであるサースの体には、それに見合うだけの重量を誇る鎧が身につけられていたが、そんなもの存在しないかのように飛んでゆく。

 飛来する超重量砲弾は、しかし次の瞬間には灰へと還ってしまった。

 今、異界探検隊が戦っているレアエネミー、パトリオットの手によって。


「これで良し」

「よかぁないと思うけど……まあいいや。一回だけなら誤射の範囲でしょ」


 満足げに頷き、ガッツポーズをとるリュージ。

 マコは安堵のため息をつきながら、ここしばらくの間ずっと捜し求めていたレアエネミー、パトリオットを見上げる。

 もともとは、遺物兵装(アーティファクト)を狙って参加した城砦攻略イベント。それで、まさかずっと追い求めていたレアエネミーと遭遇できるとは思わなかった。

 サースというお邪魔虫もいなくなった。これで、心置きなくパトリオットの討伐に臨めるという物だ。


「邪魔者もいなくなったし……」

「のんきにしてないで二人とも手伝ってー!!」


 雨のように降り注ぐレーザーを必死に防ぐレミの悲鳴が木霊する。

 いくら無効化系のフォースバリアーでも、クールタイムくらいは存在する。

 その時間を稼ぐために前に出ているのはコータとソフィアであったが、ソフィアはサースの横暴を前に抱いた怒りのせいで、若干冷静さをかいているようであった。


「くそぉぉぉぉぉぉ!!! くのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「ソフィアさん落ち着いて!? リュージ、早くソフィアさんのカバーに!」


 羞恥に顔を染め、必死にそれを忘れようと暴れているソフィア。

 そんな彼女を見て、リュージは輝かんばかりの笑みを浮かべる。


「フフ。ああして荒れるソフィたんもまたよし!」

「荒れさせた原因。さっさとなんとかなさい」

「さーいえっさー」


 マコの殺気に心臓を抉られながら、リュージは炎のオーラを纏ったまま、姿を変えた焔王を担いでパトリオットに向かって駆け出した。


「こうなったからにゃ、止まれねぇぞ……。覚悟しな、ブリキ野郎!!」


 リュージが焔王を振るった瞬間、龍の咆哮のごとき鋭い風斬り音が辺りに響き渡った。


「オオオォォォォォォォ!!!」


 振り上げた刃を地面に叩きつけ、その反動で勢い良く宙に飛び上がるリュージ。

 そのまま弧を描きながらパトリオットの上半身へと斬りかかる。


「リャァァァァァァァァァ!!!!」


 炎を纏った龍のアギトは、パトリオットの上げた掌に阻まれる。

 硬い鋼に、焔王の刃が一瞬食い込み。


「ッシャァァァァァァァァ!!」


 次の瞬間、焔王のアギトがパトリオットの装甲を食い千切り、そのまま指を一本もぎ取ってしまった。

 その光景を見て、コータが驚きの声をあげる。


「焔王がパトリオットの指を……!? っていうか、今生き物みたいに動いたよね!?」

「ヒャッハー! これぞ焔王の機能の一つ!! 名付けてドラゴンニッパー!!」

「絶望的なネーミングセンスね。何でニッパーなのよ……」


 恐らく、大剣の刃で挟み捻りきるのでニッパーなのだろうが、もう少し言い方はあると思われる。

 残念な名付けを披露するリュージにため息をつきながら、マコはぐるりとパトリオットの側面に回りこむ。

 そして地面に手を付き、魔法をひとつ解き放った。


「アイシクル・バインド!!」


 マコが魔法を放った瞬間、マコの掌から半円状に白い氷の幕が広がっていく。

 それはパトリオットの足にまで到達すると、あっという間にその足を地面に氷で縫いとめてしまう。

 その名のとおりの効果を発揮するマコの魔法であったが、パトリオットはそんな者はなかったといわんばかりにあっさりと氷を破りながら足を上げてしまう。


「っだー!? あたしのINTじゃ威力が足りないってかぁ!?」

「ほとんど効果ないね……。これは、私の魔法もだめかなぁ」


 マコの拘束魔法に合わせるつもりで、自身も魔法を準備していたレミは、マコの魔法の惨状を見て用意していた魔法を解除してしまう。

 まだまだレベルも40に差し掛かった頃合。INT特化のマコで駄目では、この場にいる誰の魔法でもパトリオットの動きを止められないだろう。

 動きを止めるのであれば、リュージのように物理的にパトリオットの体を破壊するほかあるまい。


「トルネードファングゥ!!」

「ライトニング・ブレードォ!!」


 竜巻の牙と光の刃がパトリオットの膝関節めがけて叩き込まれる。

 装甲の間、間接の隙間へとぶち込まれたソフィアとコータのスキルは、一瞬でパトリオットの膝関節をずたずたに引き裂いた。

 その光景を見て、レミは目を丸くした。


「さっきまで通らなかった攻撃が、通るようになってない!?」

「ははーん、さては発狂に入って装甲が磨り減るタイプね!?」

「オラァァァァァァ!!」


 マコの推測を裏付けるように、膝を突いたパトリオットの太ももにリュージが焔王を叩き込むと、目に見えてパトリオットのHPが削れていった。


「HP減った! 減ったよマコちゃん!」

「うっしゃぁ! ならあたしも攻撃に参加するわよアイスミサイルゥ!!」


 詠唱破棄して放たれたマコのアイスミサイルは次々とパトリオットの装甲を穿つ。

 着弾と同時にパトリオットの装甲を凍てつかせるアイスミサイル。さすがに装甲を凍らせるだけではたいしたダメージとはならなかったが、パトリオットのHPが確実に減っているのは確認できた。


「よぉっし!!」

「後はじわじわ削っていければ……!」


 パトリオット撃破に光明が見え、マコがガッツポーズを決める。

 レミも嬉しそうに拳を握り、皆に攻撃力アップのバフをかけようと杖を掲げる。

 と、その時、コータの一撃をくらったパトリオットのHPが三割を切る。


「ん! 皆離れろ!!」

「へ?」

「ッ!!」


 リュージがそれを見て、大きくパトリオットから距離を取る。

 コータは突然の指示に思わず動きを止め、ソフィアは反射的にパトリオットから飛び離れる。

 瞬間、パトリオットの全身から激しい稲光が発せられた。


「うわぁぁぁぁ!?」

「コータ君!?」


 パトリオットの全身から放たれた稲妻に体を打たれ、コータが容赦なく弾き飛ばされる。

 慌ててレミがコータの回復に回るが、その間にもパトリオットの稲光は止まらない。

 それどころか、全身の発雷は激しさを増し、パトリオットの装甲が白色に輝き始めた。

 レアエネミー、すなわちボスクラスの敵の見覚えのある行動を前に、ソフィアは驚嘆の声をあげる。


「これは……!? リュージ! パトリオットの発狂は、さっき終わったんじゃないのか!?」

「んにゃ、終わってないよ。複数回行動が変化するタイプのボスもいるのさ。パトリオットはそのタイプだな」

「ちょ、どうすんのよ!? あの稲妻、下手に接近できないじゃないのよ!?」


 マコの言うとおり、いまやパトリオットの全身のいたるところから雷光が瞬くようになっている。

 それは静電気のようなか細い光ではない。空を斬り裂く稲妻のそれだ。現に、コータは接触しただけでHPの九割を吹き飛ばされてしまった。

 さらに、マコが牽制のつもりではなったアイスミサイルは接触する前にパトリオットの雷光が消し飛ばしてしまった。遠距離攻撃に対するバリアとしても機能するようだ。


「しかもこっちの魔法まで消し飛ばされて……! あたしらの手札でどうにか何のこれ!?」

「私ならば、稲妻を回避して……いや、無理か。さすがに光速相手では分が悪すぎるか……」


 悔しそうにソフィアは首を横に振る。

 速度特化の風属性でも、光速で動くことは叶うまい。それができるのは、移動系スキルを取得した光属性くらいなものだろうか。

 遠距離攻撃も、稲妻のバリアによって遮られてしまう。ある程度の威力があれば稲妻を貫通できるかもしれないが、それを試すだけの時間をパトリオットは与えてくれそうにない。

 稲妻を身に纏ったパトリオットは、頭のレーザー、指のバルカン、さらに肩のミサイルまで展開し、一斉に攻撃を開始し始めた。

 幸い、こちらに狙いをつけていないめくら撃ちのようであるが、圧倒的な物量は異界探検隊をさらに追い詰めてゆく。


「うわぁぁぁぁ!?」

「コータ君!? バリアー!!」


 降り注ぐパトリオットの攻撃を前に、レミはバリアを展開し、己の身を守る。

 リュージたちも降り注ぐ弾雨を何とか回避し、先ほどリュージが開けた地面の穴の中に退避する。


「だっ、ぶねぇ!?」

「あの状態でも武器使うとかー! さらに攻略が厳しくなってんじゃないの!?」

「ああ、くそ……! せめてもう少しスキルのレベルが高ければ……!」


 悔しそうに歯軋りするソフィア。

 このままではジリ貧だ。せっかくパトリオットと遭遇できたと言うのに、倒すことすらできずに散ることとなってしまう。

 と、その時。リュージがどこからか取り出した紅い結晶を口に咥えた。

 それを見咎めたマコは、険しい眼差しでリュージを詰問する。


「ちょっと!? 腹減ってんなら後にしなさいよ!! それとも鉛玉の方がお好きかしら!?」

「ちっげーよ! さっきかけた炎熱開放が切れたからそれをかけ直そうとしてんだよ!」

「炎熱開放? 先ほどの強化か」


 言われてみれば、いつの間にかリュージの体を覆っていた炎が消えうせていた。

 それをかけ直すというのであれば、何か策があるのだろうか?


「リュージ、どうするつもりだ?」

「もちろん、パトリオットをブッ倒すんだよ。三分の一まで減れば、確殺攻撃じゃなくてもやれんだろ」


 リュージはソフィアにそう返し、結晶を噛み砕く。

 赤い結晶はガラスの砕けるような音と共に、火の粉のような輝きを放つ。

 その輝きはしばしリュージの体の回りを漂っていたが、やがて焔王の中へと吸収されてゆく。


「……イグニッション!!」


 リュージが叫ぶと同時に彼の体から炎が上がり、あたりを紅く燃え照らす。

 その勢いに思わずソフィアが目を瞑る。


「っ……!」


 炎の勢いは激しかったが、その熱さは不思議と心地よく感じる。

 炎の嵐は一瞬で過ぎ去り、ソフィアが再び目を開けたときにはリュージの姿は穴の中にはなかった。


「リュージ……?」

「そこ動くんじゃないぞお前らぁぁぁぁぁぁ!!」


 慌てて穴から顔を出してみると、リュージが勢い良く蛇行しながらコータとレミの元へと走っているところであった。

 雨のように降り注ぐパトリオットの攻撃は、動き回るリュージを最優先の攻撃目標と定めているようだが、その全てをリュージは回避してみせている。


「すごい……!」

「人間じゃないわね」


 雨のように降り注ぐ弾丸にレーザーにミサイルを回避するリュージを見て、ソフィアは感嘆の声を、マコは呆れた声をあげる。

 リュージは瞬く間にコータとレミのいる場所にたどり着くと、二人の首根っこを引っつかみ、穴の方へと投げ飛ばした。


「おらぁぁぁぁぁ!!」

「「うわぁぁぁぁ!?」」


 悲鳴を上げながら飛翔するコータとレミ。放っておけば穴に到達できそうであったが、パトリオットはそれを許さない。

 バルカンの砲口と頭部のレーザー発射口が、コータとレミの方を向く。


「っ!」

「レミ、防御しなさい!」

「そんなこと言われてもぉぉぉぉぉ!?」


 パトリオットの動きを見てマコが警戒の声をあげるが、さすがのレミも投げ飛ばされながら魔法を発動できるほど器用ではない。

 そして、発動するほどの暇もない。無慈悲にパトリオットはバルカンとレーザーを撃ち放った。


「ダッシャァァァァァ!!」


 だが、銃弾とレーザーはリュージの投げ放った焔王によって阻まれる。

 炎を纏い、銃弾を弾きレーザーを受け止めた焔王は、コータとレミを守るとそのまま穴の付近に突き立てられるように落下した。


「っと! リュージ!!」


 滑り込んできたコータとレミを受け止めたソフィアは、穴の中から這い出し焔王をリュージのほうへと投げようとする。

 だが、リュージは焔王へと手を伸ばし、一声叫ぶ。


「来いッ! 焔王!!」


 すると焔王は瞬く間に炎の中へ消え、一瞬でリュージの手の中へと戻った。

 焔王を掴み損ねたソフィアは、驚いたような顔でリュージの方を見る。


「焔王……! 遺物兵装(アーティファクト)はそんなこともできるのか!?」

「何でもありね……」


 目を回しているコータとレミを開放してやりながら、もう何度目になるかわからないため息を吐く。


「オオオオォォォォォォ!!!!」


 リュージは焔王を肩に担ぎ、一気にパトリオットへ接近してゆく。

 パトリオットの全身から、雨のように弾丸やレーザー、ミサイルが降り注ぐがリュージには掠りもしない。

 走った勢いのままにパトリオットへ向かって飛び上がるリュージ。パトリオットは飛び上がり、逃げ場のなくなったリュージに向かって、胸部から展開した核ミサイルを解き放つ。

 だが、放たれたミサイルは焔王の一閃により一撃で叩き落され、さらに焔王に喰われリュージの力となる。


「ッリャァァァァァァァァァ!!!」


 炸裂した核熱の炎を渦のように纏いながら、リュージは焔王を振りかぶる。

 パトリオットは腕を上げて防御体勢を取るが、もはや間に合うことはない。






 ――――閃いた剣閃は三度。されど、響いた轟音は一度。






「――――」


 ソフィアは、息を吸うことすら忘れる。

 残像すら見える速度で振るわれた焔王は、三つの大太刀と化し、たった一撃でパトリオットの胴体を寸断してしまった。

 パトリオットの背後に降り立ったリュージは、何も言わずに焔王を振り回し、そのまま背中に納刀する。


「これぞ秘剣、龍下ろし……ってな」


 リュージが静かにそう呟いた時には、パトリオットの体は無数のレアアイテムへと変化しているのであった。




なお、秘剣の名を知る人間はリュージ以外にいない模様(恥ずかしがって本人が喋らない故)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ