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log14.ボスまでの道中

 その後の行軍は、一番最初の惨状と比べればスムーズといえるほどであった。

 曲がり角では必ず立ち止まり、体やたいまつの光を晒さないようにする。敵がいるなら、豆粒ファイアボールで先制。怯んだ相手に前衛が特攻。

 盗賊の隠れ家に潜む敵は、ほとんどこれで何とかなってしまったのである。敵の編成も、前衛を勤める短刀盗賊と後衛の弓兵、火力係のゴブリンの魔術師とまったく代わり映えがしなかったのも大きいだろう。

 道中にぽっかり開いていた落とし穴にリュージが足を滑らせかけたりもしたが、たいした障害もなく一行は洞窟の中を進んでゆき。


「――ん? 何、この音」


 不意に聞こえてきた電子音に足を止める。

 ピピピ、ピピピ、とまるで目覚まし時計のアラームのような音がどこからか聞こえてきたのだ。

 皆で辺りを見回していると、ジャッキーが懐からクルソルを取り出して残念そうに呟いた。


「いかんな。もう時間になったか」

「……それって、アラームまでついてるの……?」

「現実の携帯電話とほとんど変わらんよ。通話もボイスチャットで代用できる」


 ジャッキーはクルソルのアラームを停止し、申し訳なさそうな表情でリュージたちを見回した。


「それはそれとして……すまん、皆。もう、一時間経ってしまったようだ」

「一時間? それが……」


 ソフィアがジャッキーの言葉に首をかしげ、それから直ぐに思い出した。


「あ……そういえば、今日は……」

「二時間の予定だったっけか……」


 コータも自身のクルソルを取り出し、時間を確認している。

 ゲームにログインを開始してから、すでに二時間を経過してしまっている。

 予定では、ログインしてから二時間でゲームを終えるつもりだった。だが、思っていた以上に盗賊の隠れ家の攻略に時間がかかってしまったようだ。


「ここは全体の行程自体はそう長くなく、一時間もあれば攻略が完了すると踏んでいたのだが……」

「思ってた以上に慎重になっちまったなー」


 リュージもまた、無念を顔に浮かべながら、岩場につきたてたバスタードソードに体重を預けている。


「俺がソロ踏破した時で、三十分くらいだったんで余裕な気がしてたんだけど……パーティプレイって意外と神経使うのな」

「君もパーティプレイの経験はあるはず……でもないか。雇われの傭兵の身分では、あまり仲間意識は芽生えないか……」

「雇われ? 雇われの傭兵って何よ?」

「そういうプレイスタイルもあるって話だよ。それより、どうするよこっから」


 リュージは皆を見回しながら口早に問いかける。


「リアルだと、もう夜中の九時だぜ? 一応明日は学校が休みだけど、予定通りここでしめにしとくか?」

「それは……なんだろう。後味が悪い感じがするよ……?」


 リュージの提案に、レミが遠慮がちに返す。

 彼女の言いたいことがわかっているリュージは、顔をしかめながら頭を掻き毟る。


「まあ、俺もこんな尻切れトンボはホントはごめんだが……VRMMOって意外と疲れるんだよな。いや、体力を使うんじゃなくて、神経を使う感じなんだけど」

「神経を?」

「ああ。体は寝てるけど、脳みそは覚醒してるだろ? その関係か、結構疲労感強いんだよな」

「VRがまだ克服できていない問題点の一つだな。長時間のログインは脳神経に強いストレスとなってしまい、ログアウト後の強い倦怠感を招くこともある。そのため、初心者のログインは長くとも二時間程度がベストといわれているのだ」


 VRはその仕様上、脳に対して非常に強い刺激を与えるゲームである。本来は五感を通して得られる感覚を直接脳に与えるわけなのだから、その刺激の強さは推して知るべしといったところか。

 故に、仕様上は四時間ログインできるイノセント・ワールドも、二時間を越えたログインは推奨されていない。実際、ソフィアたちの視界には“ログインが二時間を越えています。一度ログアウトして、体を休めましょう”というテロップが流れている。

 そのテロップを見ながら、コータは悔しさを露にする。


「くっそー……ダンジョン一つくらいは攻略できると思ってたのになぁ……」

「わりぃ。割と慢心してたわ。最初のリスポンさえなけりゃ、いけてるペースだったんだけどなぁ……」

「別にあんた一人のせいじゃないでしょ。ビビッて進んだのは、あたしだって一緒だし」


 マコにしては珍しく、リュージをフォローするような一言を口にする。

 彼女も悔しいのだろう。このダンジョンを攻略しきれないことが。


「………」


 ソフィアは少しだけ瞑目する。現在の自分の気持ちと、体調を天秤にかけて。


「……リュージ、ジャッキーさん」

「ほい?」

「なにかね」

「このダンジョンの行程は、後如何ほどか?」

「……後は、ボスを残すだけだな」

「道のりとしちゃ、そこの角曲がったら直ぐかね」


 ジャッキーはリュージたちが踏破してきた道のりと、倒してきたモンスターの数を計算し、そう答える。リュージが指差す先には曲がり角があり、微かな明かりが漏れている。

 行程としてはあとわずか。ログイン可能時間も後二時間。


「……リュージ」

「ん?」


 ソフィアの静かな問いかけに、リュージも短く返す。

 目を開いたソフィアは、リュージを見てハッキリとこう口にする。


「私は、負けたまま帰るのはいやだ」

「……ん。わかった」


 ソフィアの一言を聞き、リュージはしっかりと、嬉しそうに頷く。


「したら、延長だな。初めてだと、起き上がりきっついから、覚悟しとこうね?」

「ああ、わかっているさ」

「……あんたら、二人だけでなに決めてるわけ?」


 静かに通じ合うリュージとソフィアを見て、マコが柳眉を跳ね上げる。


「当然、あたしも残るわよ? がっちりと、ここのボス踏みにじってやろうじゃないのよ」

「ボスの顔も見ずに帰るなんて、戦士の名折れって奴だよね」

「みんなが残るなら、私も! 仲間はずれはいやだよ!」

「フフフ。そこは空気を読んで帰ってくれてもいいのよ?」

「……お前、それ割りと本気でいってないか?」


 本音が透けて見えるリュージにツッコミを入れつつ、ジャッキーは一つ頷いてみせる。


「意見が一致したようで、何よりだ。個人的にも、ログイン初日に、一つもダンジョンを制覇せずに終わってしまうのはもったいないと思うのでな」

「良識ある大人としての意見は?」

「良識のない大人なので、そんなものはないなぁ」


 悪びれもせず言い切ってしまう紳士、ジャッキー。

 思わず皆が苦笑する。彼もまた、良くも悪くもプレイヤーの一人なのだ。


「さて……ではこれから盗賊の隠れ家のボスに挑むわけだが、さすがに今回は助言をしようと思う。初見殺しとはいえ、もう一回ともなれば疲労も激しいだろうしな」

「あら意外。ここも、情報なしで放り込むのかと思ったわ」

「それも楽しいものだが、さすがに空気くらいは読むさ」


 辛辣なマコの意見に苦笑しながら、ジャッキーはここのボスの情報を彼女たちに話し始める。


「ここで登場するボスは“ホブゴブリン”。強化型ゴブリンとも言うべきモンスターで、だいたいプレイヤーレベルにプラス10Lvした程度の強さで登場する」

「というと、今あたしらは1Lvだから……11Lvくらいで出てくんの?」

「うむ。だが、Lvは問題にならない。ここの出てくるホブゴブリンは肥満体系なので、動きが遅くあっさり後ろが取れる。攻撃力は脅威だが、当たらなければどうということはないしな」


 ジャッキーはそこまでで一端説明を切り、それから軽く首を横に振る。


「……問題になるのは取り巻きのほうでな。このダンジョンの道中に出てきた連中が、ホブゴブリンの周りを取り囲んでいる」

「なんだ。それだけなら、特に問題ないんじゃ……」

「その数ざっと五十前後」

「ごじゅ!?」


 その数を聞いて、レミが思わず口を手で覆う。

 道中、多くても七匹程度だったモンスターが、いきなり五十匹でお出迎えとは。


「ここのボスは初見殺しにおいて最も基本的で、なおかつ対処の難しい“数の暴力”を駆使してくる。その為無策で突っ込めば、それだけでリスポンが確定してしまうのだ」

「……リュージ。アンタ、どうやってここをソロ突破したのよ?」

「俺? 俺んときゃ、確かグレ放り込んだな」


 リュージは昔の記憶を搾り出す。


「暗視薬と一緒にしこたま買い込んで……出入り口辺りからポイポイ投げて取り巻きを爆殺したんだよな。おかげで、10Lvスタートだったけどスカンピーになっちまって」

「……まあ、3Lvで攻略ってなると、アイテム頼りに(そうなる)わよね……」


 範囲攻撃による爆撃は、どのような状況下においても安定した戦火を上げられる、優秀な戦術である。このような閉所であればその効果は倍には上がろうというものだが、難点として非常にお金がかかってしまう。

 初ログインであるマコたちにそんなお金は当然ないし、グレネードなんかを買いにいっている時間的余裕もない。


「……ちなみに正攻法は?」

密集隊形(ファランクス)による正面突破か? 大盾を構えた前衛を二人用意し、その影に隠れながら遠距離攻撃で少しずつ数を減らす。取り巻きさえ何とかすれば、ボスは物の数に入らんからな」

「むう……」


 あいにく、現在盾を持っているプレイヤーはいない。装備としてなじみがないせいで、誰も選択肢に上げなかったのだ。

 このタイミングでだけジャッキーから借りてしまうのもありかもしれないが、大盾を構えられるプレイヤーも恐らくいないだろう。みんな、まだ1Lvなのだから。


「あたしのチャージファイアボールを叩き込むか? それで先陣をいくらか減らして……」

「だが、弓兵の数もかなり多いはずだろう。先頭を減らせたとして、その弾幕をどうにかする手段がないぞ?」

「私が回復魔法をかけながらごり押し!……は、無理だよね……」

「チャージ回復で三回だからね……。現実的な手段としては、少しずつおびき寄せて倒していくかんじかなぁ」

「でも、それだとかなり時間かかるわよ? できれば、さっくり倒したいわよね……」


 あれでもない、これでもない。盗賊の隠れ家のボス討伐会議は難航を極めた。

 1Lv五人のパーティで、およそ十倍の数のモンスターを押し返さねばならないわけだ。常識で考えれば、その戦力差を押し返す手段は存在しない。

 物資があればそれに頼ることもできるだろうが、それを確保する時間も惜しい。予定は当に過ぎているし、それを手に入れるための資金もない。ないわけではないが、リュージは使わないだろう。元々別のものを買うためのものであるわけだし。

 ならばまた後日というのも普通であれば選択肢だが、ここにいる者たちの頭の中にそれはなかった。明日出来るはバカヤロウ、ではないが、今日一日でこのダンジョンを攻略したい。その思いは、皆一つであった。


「……んー」


 一向に前に進まない話し合いの中、リュージが目を閉じて唸り声を上げる。

 僅かな確信と、強い迷い。それを察したソフィアが、彼に問いかけた。


「どうしたリュージ。何かあるのか?」

「ある……っちゃある?かね」


 リュージはそう告げ、それから片目だけ開けて皆に問いかけた。


「少しだけ運のいる……割と卑怯な手段があるけど、乗る奴いるか?」




なお、竜斬兵(アサルトストライカー)は、ソロプレイヤーとして最も有名な傭兵の一人であった模様。

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