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log138.対ゴーレム戦

「ゴーレムがでたぁー!?」

「レベル50超えてんぞ! こいつぁ、大物だ!」

「それですまし取る場合かぁ!!」


 崩始壊の床をぶち破って出て来たロボットを見て、歓声をあげるリュージを、ソフィアがひっぱたく。

 人の倍は上背のあるゴーレムは、不自然なまでに大きく作られた両腕を振り上げ、目の前にいる侵入者たちへと振り下ろす。

 リュージたちがその一撃を回避すると、崩始壊の床に軽くクレーターが出来上がる。


「物理攻撃力高い!? 私、そっち系のバリアは張れないよ!?」

「当たんなきゃいーのよ!」


 マコは素早くMナインRの弾装を、対装甲用の鉄鋼弾に切り替える。

 両手で銃を握り、ピカピカと発光を繰り返す頭部へと狙いを定める。


「これでっ!」


 タタタン、と軽やかな音共に発動するトリガーバースト。

 三発同時に発射された鉄鋼弾は、狙い違わずゴーレムの頭部に命中する。

 だが、小さな音を立ててめり込んだ弾丸は、ゴーレムに然したるダメージを与えることなくそのまま沈黙してしまう。


「チィ!? これじゃ、ダメージ通らないっての!?」

「じゃあ、こっちだ!」


 マコが舌打ちをするのと同時に、前に飛び出したコータが鉄鋼弾を装填したソードオフショットガンで、ゴーレムの足の関節を狙う。

 轟音と共に叩き出された無数の散弾は、ゴーレムの片足の間接を容赦なく吹き飛ばす。

 そのまま強制的に膝を突くゴーレムの頭部に向かって駆け上がったリュージが、大きくカグツチを振りかぶった。


「ウラァ!! 重火斬ッ!!」


 そして燃え盛るカグツチを瞬く間に二度振り、重なった斬撃をゴーレムの頭部に叩き込んだ。

 火花を散らし、後ろに向かってひしゃげるゴーレムの頭。だが、それではゴーレムが倒れず、歪な動きをしながら拳を振り上げた。


「うぉ!? まだ動く――!」


 ゴーレムの頭を斬ったリュージは、空中で身動きが取れず、振り下ろされた拳の軌道上にさらされてしまう。

 間接そのものが歪んでいそうな音を立てながら、ゴーレムは拳を勢い良く振り下ろす。

 リュージは慌ててカグツチの腹を立てて、ゴーレムの一撃を受け止めようとする。

 だが、ゴーレムの拳がリュージの体にぶち当たる直前、彼の体が高速で下に向かって動く。


「エア・バインドッ!」

「ありがとソフィたん愛してッブァ!?」


 リュージの体に風で編まれた縄を括り、ソフィアが勢い良く引っ張ったのだ。

 リュージはソフィアに感謝と愛を伝えようとするが、それを言い切るより早く彼の頭が崩れた床へと叩き込まれる。

 ゴーレムはリュージへと叩き込もうとした一撃が空振り、行き場を失った拳を新たな目標へとぶつけようとするが、その動きは芳しくない。

 リュージの与えた一撃が、致命的な故障を引き起こしているのかギシギシと、体のあちらこちらの間接を歪ませている。

 それを好機と見て、ソフィアはレイピアを構える。


「畳み掛ける……! ガスティ・ファング!!」


 レイピアの切っ先から放たれる、風の牙がゴーレムの体に叩きつけられる。

 鋭い轟音があたりに響き、ゴーレムの体が傾くが、まだHPは0にならない。

 分厚い装甲が、こちらの攻撃を遮断してしまっているのだろう。


「まだ倒れないか!?」

「まだまだぁ! ライトニング・ブレードォ!」


 さらに、コータの光剣がゴーレムの装甲を斬り裂く。

 眩い輝きを放つ刃がゴーレムの装甲を透過し、その下にある本体へとダメージを与える。

 ゴーレムの体が、一際強く歪んだように動き、そのまま静かに倒れこんでいった。

 重い音を立てて倒れたゴーレムを、しばらくジッと睨みつけていたが、ゴーレムは動く気配を見せない。


「……倒せた?」

「……みたいね」


 ソフィアとマコが互いに確認しあい、一つ安堵の息を付く。

 ここまでで、アンドロイドに防衛用メカ、暴走したお掃除ロボなど、結構な数のモンスターと連戦を繰り返してきた。まんぷくゲージも、もう空っぽになってしまっている。

 マコは周りの安全を確認しながら、後ろの方で中華なべを被って蹲っていたサンシターに声をかける。


「サンシター! ごめん、料理作ってもらえる?」

「わ、わかったでありますよ……」


 サンシターは周りにモンスターがいないのを確認し、一つ頷くとどこでもキッチンを起動する。

 サンシターが腰に吊るしている大きなポーチから彼を守るように展開されたキッチンは、サンシターの動きに従い、彼の調理する素材を香ばしい料理へと変化してゆく。

 その出来上がりを、周辺警戒しながら待ちながら、コータが疲れたように呟いた。


「しかし……どのモンスターも、装甲が分厚いね」

「ッダァ! ……だな。ロボ系モンスターは、特に装甲値の高い連中が多い。それをぶち破る手段がないと、時間がかかりがちだし、場合によっちゃ倒せないし」


 床の中から頭を引っこ抜いたリュージが、コータの呟きに答える。


「こういう時に装甲無視の特性持ってるスキルがあると便利なんだけどなー」

「あれぇ? リュージ、君はそのスキル持ってなかったかい?」

「あ、アマテルさん!」


 リュージの呟きに答えたのは、彼の頭の上に突如現れたアマテルだった。

 彼の頭頂部を肘置きにし、上半身を預けるように圧し掛かるアマテル。

 彼女の重さに眉を潜め、リュージは彼女へと質問を返す。


「……いきなり現れて重てぇよ。どうしたんだ?」

「コハクちゃんに聞いたよ。カグツチを取り返したんだって?」

「取り返したっつーか……」

「それを聞いて、居ても立ってもいられなくなってね。誰よりも早く、会いに来たんだよ」


 カグツチを入手した経緯を思い出し言葉を濁すリュージであったが、アマテルはそれに構わず嬉しそうにリュージの頬を突く。


「コハクちゃん、嬉しそうだったねぇ。もちろん、私も嬉しいよ? レベルが下がっても、それがあればリュージは無敵だろう?」

「さすがにそこまで強力じゃねぇよ……。けど、装甲無視スキル前は取ってたな。あれ、何レベルからだったかね……」


 リュージはアマテルを振り払うと、クルソルからスキルブックを呼び出し、今取得できそうなスキルを確認し始める。

 アマテルは振り払われるままに地面にふわりと着地すると、改めてコータたちへと挨拶する。


「や。久しぶりだね、コータ、レミ」

「うん、久しぶり。前のイベントじゃ、お互い別の島にいたしね」

「今日は、手伝ってくれるんですか?」

「うん。お邪魔じゃなければ、ね」

「邪魔どころか大歓迎よ! 圧倒的に火力不足だし……ねぇ?」

「ああ、もちろんだ。アマテルの実力は、よく知っているしな」


 ソフィアは小さく微笑みながら、小さく頷く。

 アマテルも微笑みを返しながら、ソフィアに向かって頷く。


「ありがとう、ソフィア。それで、他の皆は装甲無視スキルを覚えてるのかな?」

「……ごめん。装甲無視スキルって、何?」


 アマテルの質問に、コータが申し訳なさそうな表情で問いかける。

 その質問は想定済みだったのか、アマテルは一つ頷いて装甲無視スキルについて説明を始めた。


「装甲無視スキルは……まあ、聞いての通りだよ。敵の装甲値を無視してダメージを与えることのできるスキルだよ」

「そんなの、あたしらのレベルで取れんの? こう見えて、レベル30後半に届くかどうかってとこなんだけど?」


 マコはえらそうに胸を張りながら、まったく自慢にならないことを口走る。

 そんなマコをおかしそうに見つめながら、アマテルはもう一つ頷く。


「取れるよ? といっても、そのレベルだと、コータたちとリュージだけかなぁ、取れそうなのは」

「属性ごとに、スキルの取得順も変わるのか?」

「うん。特異属性はともかく、こういう攻撃に関わるスキルは火属性が一番図抜けてるからね」

「あ、そうか。防御無視、35レベルで取れたんか。じゃあ、灼火刀ももう作れるんだな」


 リュージは嬉しそうに頷くと、手早く経験値をレベルに変換し、SPを目的のスキルへと割り振る。

 そして生成できたスキルカードをスキルボードにセットし、灼火刀というスキルを自作し終えた。


「おっし完成。これで少し楽になるかねぇ」

「早いね、リュージ……。パワースラッシュに、他のスキルを組み合わせるだけとはいえ」


 リュージのスキルボードを覗き込むコータ。

 彼が手にしているスキルボードには、中心にパワースラッシュのスキルカードが組み込まれ、それを囲うように様々な副次効果を発揮する属性スキルがはめ込まれていた。

 リュージはスキルボードをしまいながら、なんということもないように頷く。


「これが一番楽だからな。いろんなスキルを取った方が戦術広がる、っていう奴もいるが、手札が多すぎるのも問題だと思うんだよな、俺は」

「パワースラッシュほぼ一本で、全ての状況に対応できるリュージもどうかしてると思うよ、私は」


 リュージに突っ込みを入れながら、アマテルはまた笑う。


「スキルの使用後硬直がいやだからって、ホントにそれっきりなんだもの。火力が十分なのは認めるけれど、他のスキルも使った方が楽しいと思うんだけどなぁ」

「これ一本でやってけるってのはわかってんだから、無理に増やす必要もないだろ? 近寄って、ぶった斬る。やることは、単純な方が良いんだよ」

「……普通は、それに対策取られて対抗手段が増えると思うんだけど、リュージはそれを地力でねじ伏せに来るからなぁ」


 いつの日かのリュージの活躍を思い出してか、アマテルは小さく笑う。


「覚えてる、リュージ? いつだったか、うちのギルドマスターと対決した時も――」

「アレはお前、対策っつーよりは――」


 そのまま、しばらく思い出話を始めるアマテルとリュージ。

 サンシターの料理が出来上がるまでの間、他の皆も二人の話を邪魔することなく、彼らの会話に耳を傾ける。


「―――」


 そっと拳を握りしめたままの、ソフィアも静かに二人の話に耳を傾けていた。




ちなみに、三、四のスキルを中心に様々な派生を組み上げていくのが、一般的なイノセント・ワールドプレイヤーのスキルビルドである模様。

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