表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/193

log128.新たな武器を求めて

 その後、セードーたちを巡って黒曜の騎手ブラック・ストライカーなるギルドと一悶着があったりもしたが、同時に彼らの所属するギルドも正式に決まった。

 闘者組合ギルド・オブ・ファイターズ。武人の、武人による、武人のためにギルド……と、堅苦しく言うほどでもないらしいが、武術を志す者たちが集う憩いの場であるらしい。

 セードーたちにとってはこの上ないギルドだろう。噂を聞いたこともないというのが不安材料ではあったが、一度闘者組合ギルド・オブ・ファイターズのウォルフと言うプレイヤーと拳を交わしたセードーは、その拳の中になにを見出したのか、彼らと共に行くことを決めたようだ。

 武人らしいと言えば、らしい根拠か。セードー自身がそうと決め、キキョウも彼の決定に否がないのであれば、異界探検隊としても文句はなかった。


「――では、またな異界探検隊。次も、味方として会おう」

「オーケー。お前らの無事と、今後の発展を祈らせてもらうぜ」

「またお会いしましょう、二人とも」

「はいです!」

「返せぇ! あたしのぉ! きんぴらぁ!」

「ぬわすー!?」


 サンシターがお土産に渡したきんぴらごぼうのおかげで、なにやら波乱に満ちた出発となったが、ひとまずは問題もなくセードーたちはウォルフたちと共に、潮騒の港町であるヴァナヘイムへとクルソルワープしていった。

 仲間たちの旅路を見送ったリュージは大きく伸びをし、安堵のため息を一つ吐いた。


「いやぁ、よかったよかった。何はともあれあの二人にも、正式なギルドが決まってなー」

「まったくでありますな。やはり寄る辺と言うものは必要でありますな。生きるに一人で過不足はありませんが、潤うには一人では限界がありますからな……」


 どこか遠くを見つめながら呟くサンシター。いやな実感の篭った台詞であるが、リュージはそこに踏み込むことなく軽く肩を鳴らす。


「だな。俺もソロプレイヤーなんつって気取っちゃいたが、結局所属的にゃCNカンパニーの傭兵部門だったし」

「……前から疑問であったでありますが、CNカンパニーの傭兵部門というのはどういう仕組みでありますか?」


 ちょうど良い機会と考え、以前からの疑問をサンシターは口にする。


「CNカンパニーの一員として働くのでありますよね? それは、ギルドの所属がCNカンパニーと言うことでは?」

「んにゃ、違うんだよなー。傭兵部門として所属するってのは、専門の担当者とフレ登録を結ぶってことなんだよ」


 リュージはクルソルを示しながら、サンシターに簡単にCNカンパニーの仕組みを説明する。


「これは他の部門の専門職もそうらしいんだが、CNカンパニーのギルド員として所属する人間は商品を扱う商人だけ。その部門に商品を卸したり傭兵みたいに専門技能を使って働く場合は、部門に所属する商人とフレ登録を結ぶんだよ。んで、商人側が必要な商品を依頼したり、あるいは他のギルドからの依頼をメールとかで斡旋するわけだ」

「……商人側のフレンドはなかなかカオスになってそうでありますな」

「クルソルのフレンド一覧に整理機能がなけりゃ、成り立たねぇ方式だろうなぁ。ともあれ、傭兵や職人の所属はCNカンパニーではないのはわかってくれたか?」

「ええ、まあ。ちなみに、リュージは今、そのフレとなっていた傭兵部門の人間と連絡が取れるでありますか?」

「んにゃ。傭兵雇用契約が切れれば、フレンド契約も当然ばっさりだ。フレンド上限もあるし、その辺はシビアなもんだよ」


 そういうリュージ自身の表情も、非常にドライだ。フレンド登録していると言っても、その間柄は非常に乾いたものだったのかもしれない。

 サンシターは一つ頷くと、話題を変えるべく考えながら口を開いた。


「……ゲーム内でもそんなものでありますかね。ところで、今日は他の皆は来るでありますか?」

「そりゃ来るよ? 俺以外は皆、生徒会に入ってるからちと遅くなるらしいけど」

「生徒会……今の時期だと、なにをやってるでありますか?」

「なーんだっけかねー? 学園祭だっけ? それとも体育祭だったかな? その辺の行事にあまり興味わかねぇんだよなー」

「仮にも学生でありますよな……? その辺り、きちんと参加しているでありますか、リュージ?」


 思わず真剣な声色で問い詰めかけるサンシターであったが、他の皆がログインしてきたことでそれは遮られる事となった。


「男二人で、なに井戸端会議してんのよ?」

「ああ、マコでありますか。セードー殿らが無事出発されたので、その流れで話し込んでしまったでありますよ」

「ああ、やっぱり行っちゃいましたかぁー」

「お見送りしたかったなぁー」


 セードーたちが出立したと聞き、残念そうに肩を落とすコータとレミ。二人に戦い方を学んだ彼らとしては、きちんとした形でお礼もしたかっただろう。

 そんな二人を慰めるように、ソフィアが笑顔でそれぞれの肩を叩く。


「なに、また会えるさ。所属もわかっているし、フレンドにもなったんだ。気軽にこちらから会いに行けばいいさ」

「うん……そうだね」

「そうするよ……」


 二人はまだ残念そうではあったが、ソフィアの言葉も当然だと、気を取り直すように笑顔を作る。

 くよくよしていたって仕方がない。会う機会など、これからいくらでもあるのだ。

 ソフィアは元気を取り戻した二人の背中を叩きながら前へと進み、リュージの方を向いて問いかける。


「……で、これからどうするんだ? いつものように、適当にダンジョンにでも潜るのか?」

「んー……どうすっかねぇ」


 リュージは悩むように上を向き、腕を組む。


「まだレベルも40に届いてねぇから、レベリングに集中ってのもありだよなー」

「SP稼げるクエストってのは、まだ解禁されないの?」

「一応、50レベル超えた辺りから解禁されるはずであります。それ以前のレベルだと、相手にしてもらえなかったかと」

「補助とか、攻撃魔法を探すのはどうかな? それなら、SPなくても使えるのがあると思うし」


 それぞれ、思い思いにやりたいことを口にする異界探検隊のメンバー。

 その中で、押し黙っていたコータはしばらくするとはっきりと皆に聞こえるように声をあげた。


「――武器。新しいのが、欲しいかな」

「ム? 武器、か?」

「うん。武器」


 ソフィアに問い返されたコータははっきり頷くと、長く使い続けている草剣竜のロングソードを取り出す。


「この剣も長く使ってきたけど、そろそろ火力に限界を感じてきてるし……新しい武器の入手時なんじゃないかなー、って思って」

「あー。言われてみりゃ確かに」


 リュージはコータの言葉に頷き、ばつの悪そうな表情で頭を搔いた。


「考えてみりゃ、属性開放どころか、ギア取得の頃からずっと同じ武器使い続けてきたんだもんな。いい加減、新しい武器に乗り換える時期か」

「と言うより、その当時から使い続けられるだけの息の長さと言うのも驚きだがな……」


 ソフィアも草剣竜のレイピアを取り出しながら、恐ろしいものを見る表情でその刀身を撫でる。


「恐るべしは、レアアイテム補正……と言ったところか」

「ディノレックス素材も、そこそこ重いんだけど、レベルとしちゃ20ちょいくらいが適正だもんな。補正による補強、恐るべしかね」


 長く頑張ってくれた草剣竜シリーズの武器たちに感謝しつつ、リュージは新たな目標を定める。


「なら、新しい武器を探すのを当面の目標にするかね。俺もいい加減、新しい武器を手に入れないとだしな」

「そうねー。あたしも、そろそろ新しい銃が欲しかったのよねー」


 マコはリュージの言葉に同意するように頷きながら、グロックを軽く撫でる。


「この子も悪くはないんだけど、やっぱり手に馴染んだ銃ってのがあるしね」

「手に馴染んだ銃があるんだ、マコちゃん……」

「そりゃ、リアルサバゲニストですし? その辺は、コハクにも聞いて確認済みよ。……それなりの値が張るんだろうけど、今なら多少はなんとかなるだろうし」


 マコは自身ありげに頷くが、直ぐにばつの悪そうな表情で視線を逸らす。

 まだ、妖精竜(フェアリードラゴン)の卵を売って得た資金は残っている。それが銃の入手でどのくらい磨り減るのかを考えると、あまり声を大にするのも憚られる様子だ。

 マコの様子からそれをなんとなく察しながらも、レミはそれには触れずに今はギルドハウスの中で留守番をしている妖精竜(フェアリードラゴン)の事を考える。


「それに、シローちゃんの装備……と言うか、何かアクセサリー的なものも欲しいよね? 今は小さいから無理だけど、大きくなったら一緒に冒険できるんだよね?」


 白いので、シロー。平凡と言うか凡庸と言うか。荒れに荒れた名付け会議の結果がこれと考えると微妙に涙が出てくるが、ログイン時間ギリギリまで揉めたことを考えれば、このくらいストレートな方がまだ名前案を出した各人の納得がいくというものだろう。

 まだ子猫くらいの大きさのシローのことを考え、レミは悩むような唸り声を上げる。


「すぐおっきくなると思うから、洋服系は無理でも、何か首輪みたいに大きさの調整が効く物、プレゼントしてあげたいなぁ」

「連れてくことを考える場合は、なんか口にくわえられる武器系でもいいかもな。戦わせられるんなら、乗れないうちからも連れ出せるだろうし」

「ああ、いいねそれ! 一緒に戦うってロマンあるよ!」


 リュージの出した案を聞き、コータが嬉しそうな声をあげる。

 竜にまたがるのはロマンだが、一緒に戦うのもロマンらしい。まあ、どちらにせよもう少し時間が必要だろうが。

 皆の意見を聞き、ソフィアは満足げに一つ頷くとCNカンパニーのビルがあるほうを指差した。


「じゃあ、一度CNカンパニーにいってみるか? この街ならば、あそこを訪ねるのが一番だろう?」

「だな。なにはなくとも、CNカンパニーだ。今なら、コハクもインしてるだろうし」


 頼れる妹のログインを確認し、リュージは一つ頷く。

 なにはなくとも、CNカンパニー。イノセント・ワールド内における、お買い物の常識である。




なお、シローの名付けの親はソフィアである模様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ