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log127.稽古をつけてもらいながら

 セードーとキキョウ。二人の加入は一時的なものであったが、異界探検隊への影響は少なからずあったといえるだろう。

 ミッドガルドの中心である、フェンリル。ギルドメンバーのみで貸切とできる闘技修練場と呼ばれる練習ルームの中で、異界探検隊のメンバーはセードーたちを交えて戦う練習を繰り返していた。


「こ、こうかな?」

「……そんな感じだな。うむ」


 コータが振るう剣筋を見ながらセードーは一つ頷く。

 セードーの修めている流派、外法式無銘空手は名もなき忍術を源流に持つ武術。元々の技術の関係で、ある程度武器に関する知識を有していた。

 そのことを知ったコータが、実戦的な剣術に関するアドバイスをセードーに受けているのである。

 セードーもまた、純粋技量に踏み込み始めている人間の一人であった。そのアドバイスは、今後の糧になるとコータは考えたのだ。


「斬るんじゃなくて、叩きつけるイメージ……なんだよね?」

「ああ、そうだ。実戦において寸止めや、剣道の技ありの概念はない。極論、相手の体をいかに破壊するか、を追及するのが実戦と言えるだろう」


 面を打ち下ろすコータ。剣道の素振り稽古の一環であるが、それとて敵の頭をかち割るための訓練と考えれば、なかなかに物騒なものだ。


「コータの使うロングソード……いわゆる直剣は、重さを利用して骨を割り、肉を裂く武器だ。刀のように斬り裂く用法に用いるには、いささか重い」

「同じように使えるものじゃ、ないんだ?」

「使えなくはないだろう。だが、刀の鋭さは剃刀のそれだ。対し、直剣の鋭さは鉈や斧に近い。もともとの構造が違うから、当然用法も異なるんだ」

「そうなんだー……」


 コータは少し残念そうな顔で、今自分が手にしているロングソードを見つめる。

 愛着のある武器ではあるが、やはりセードーの言葉に気がかりを覚えているようだ。


「うーん……将来的には刀を使ってみたいんだけど、直剣を使い続けるなら、止めた方がいいのかなぁ?」

「ふむ……。ゲームであれば、深く考える必要はないのかもしれないが……」


 自分の言葉が迷いを与えているのを感じ、セードーはばつの悪そうな顔つきになる。

 だが、ここでうそを教えても仕方がないと考え、自分の考えをそのまま告げる。


「コータの太刀筋は剣道のそれ……どちらかと言えば、直剣を振るう方が威力が出るだろう。俺の意見としては、直剣をそのまま使い続けた方が、武器のなじみが早いと思うぞ」

「そっかー……」


 コータはしばらく悩むように唸っていたが、直ぐに気を取り直すように笑顔になった。


「……じゃあ、直剣は使い続けてみるよ。そのうち、余裕が出来たら短めの刀をサブウェポンか二刀流みたいな感じで使ってみるよ」

「……そうか。その場合は、小太刀という刀がいいだろう。刀の盾とも呼ばれる小太刀であれば、取り回しも容易なはずだ」

「小太刀かぁ。覚えておくね」


 セードーの言葉に頷きながら、コータは直剣の素振りを再開する。

 セードーがそのままコータの素振りを見守る向こうでは、レミとキキョウが簡単な立会いを行っていた。

 武器として杖を持つレミは、防御の魔法を持つが他の者たちと比較して接近戦の技量が足りていない。そのことを感じていた彼女は、キキョウに杖を使った攻防の立ち回りを教えてもらっているのだ。


「はい、レミさん、防御!」

「は、はい!」


 キキョウが指示を出しながら棍を振るうと、レミはその棍を受けるように手にしている杖を盾に受ける。

 カンカンと乾いた木の音を立てながら、防御の練習を繰り返すレミであったが、不意にキキョウが体勢を低くする。


「――はい、跳んでください!」

「え、へ、きゃぁ!?」


 そのままレミの足元を払うように蹴りを放つキキョウ。

 いきなりの指示変更に驚いたレミは、跳ぶ間すら持つことができずに合えなくキキョウの足払いに引っかかって転んでしまう。


「……大丈夫ですか、レミさん?」

「な、なんとか……」


 レミは差し伸べられるキキョウの手を掴んで、何とか立ち上がる。

 キキョウに引いてもらいながら杖をつき、立ち上がったレミは一つため息をつく。


「難しいなぁ……。守りながら別の事を考えるって」

「そうですね……。特に目の前に敵がいると、焦っちゃいますよね」


 キキョウはレミの言葉に頷きながら、つとめて明るい声でアドバイスを送る。


「けど、だからこそ冷静にならないと駄目です! レミさんが皆さんの守りの要であるならば、レミさんが崩れてしまうと皆さんの身が危うくなるんです!」

「そうですよね……。うん、私が崩れちゃいけないんですよね!」


 レミは意気を取り戻すようにぐっと拳を握り、杖を構えなおす。


「なら、防御をしながら冷静になるコツを!」

「はい! 棍で受けたら、大体大丈夫です!」

「棍で受けたら大体大丈夫!」

「大丈夫です!」


 二人で大丈夫、と連呼しながら受けの練習を始めるレミとキキョウ。なかなかにシュールな光景である。

 マコはジュース片手にそれを眺めながら、ポツリと呟いた。


「……キキョウのアドバイスって、根本的な解決になってないけどそれは大丈夫なの?」

「まあ、ノリと勢いって大事でありますし」


 いつでも休憩が取れるよう、保存の利く食料を作りつつ返事を返すサンシター。

 アルフヘイム産の根野菜を漬物にする準備をしつつ、サンシターは自分の見解を述べた。


「……それに、後方支援役のレミちゃんにまで接近戦を仕掛けられている時点で、戦線崩壊しているのでは?」

「まあ、その通りよね。支援役が近接振り回すなんざ、策としちゃ下の下だしねぇ」


 サンシターの見解に同意し、マコは静かにジュースで喉を潤す。

 異界探検隊のメンバーで対人戦を行う場合、理想的な陣形は前衛・三の後衛・二となる。サンシターは当然、頭数には含まれない。

 前衛の役割はその時々により変わるが、後衛の役割は火力支援のマコと回復支援のレミとはっきり役割が決まっている。

 火力支援担当となるマコは、場合によっては落ちても問題はない。ギルド内の最大火力は、純粋技量による瞬間超火力を誇るリュージなのだ。なので、魔法や銃撃による支援が有効でない場合はマコが落ちてもなんら問題はない。

 だが、レミが落ちる場合、彼女に代わる回復担当は前衛のコータとなる。マルチプレイヤーを目指しているらしい彼は、初心者僧侶が覚えるタイプの回復魔法や支援魔法を行使できる。前衛の戦士が覚える魔法として、よくお勧めされるタイプのものでもある。

 ……ではあるがこれらの効果は、当然ながら本職のレミと比べて大きく劣る。故に、レミが落ちるような状況においては焼け石に水程度の効果しか望めない。


「対人戦の回数を考えれば、そこまで悩む必要ないかもだけど……この辺の対策は、きっちり取っとかないとねぇ」


 異界探検隊は、純粋にゲームを楽しむためのギルドだ。対人戦もこのゲームの中に含まれる要素なのであれば、その対策も考えるべきだろう。

 マコは一つ頷くと、真剣な表情で思考に埋没し始める。

 サンシターは野菜を切りながらそんなマコを優しい表情で見やり、それからリュージたちの方へと視線を向ける。

 リュージとソフィアはそれぞれの武器を手に、全力で打ち合いに臨んでいる所であった。


「ハァァァァ!」

「どっこいしょぉぉ!!」


 長大な練習用グレートソードと、堅牢な練習用レイピアが空を切り、互いを打倒さんと振るわれる。

 豪速で迫るグレートソードの刃の上を、滑るようにレイピアが駆けてゆく。間合いと破壊力で勝るリュージの一手に、圧倒的に上回る手数と速度で対抗するソフィア。

 どちらも一歩も引かず、真っ向から打ち合っている。時にはグレートソードの上にソフィアが足をかけ、蹴りを放つがリュージは片手でそれをあっさり払いのける。

 普段であれば「ソフィたんの太ももヒャッハー!」くらいは言ってのけそうなリュージであったが、今日は珍しく真面目一辺倒にソフィアとの練習試合に臨んでいるようだ。

 セードーとの戦いに何か影響でも受けたか、あるいはソフィアに何か言われたのか……。いずれにせよ、ソフィアにとっては好ましい展開のようだ。彼女の顔に浮かぶ笑顔を見ればそれが窺える。

 異界探検隊の中に新しい風を感じながら、サンシターは静かに微笑みながら次の野菜の下ごしらえに移る。


「新しい友人に新しい空気……。いつでもかくありたいものでありますなぁ」


 妙に爺臭い物言いをしながら笑顔になるサンシター。

 ……余談ではあるが、セードーたちの稽古を軽く受けたサンシターには上達の見込みはないと、武人二人からやんわりとお墨付きをいただく羽目になったそうな。




なお、サンシターの戦闘能力のなさは、運動神経というよりは本人の人格面に問題があるための模様。

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