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log125.新しい仲間の産声

 その後、ためしにリュージが卵を抱いてみる事になったのだが、妖精竜(フェアリードラゴン)が顔を出すことはなかった。


「……キキョウででる。コータででる。リュージででない……。これが意味するところはなんだ?」

「キキョウが出たのは、アクセサリーのおかげだろうと推測できるが、その次はどうなのだ? コータとリュージの違いはなんだ」


 今はちゃぶ台の上で静かに佇んでいる卵を睨みつけ、一同はうんうんと唸り声をあげる。


「つーか、卵抱いてる時に気が付いたんだが、中で動いてるな、妖精竜(フェアリードラゴン)。しかも、割と元気に。卵の中身は完全に子竜になってんな……」


 胡乱げな眼差しで卵を睨みつけるリュージ。耳をくっつけて音を聞いていたので、彼の言葉には一定の信が置けるだろう。

 セードーたちの話からも、妖精竜(フェアリードラゴン)は卵生ではない。つまり、ドロップした卵の中から妖精竜(フェアリードラゴン)の子どもを引っ張り出すのが、妖精竜(フェアリードラゴン)の孵化……というより育成開始の方法になるのだろう。

 となると割るのも一つの手かもしれないが……。


「……リュージ? 騎乗ペットの子どもの孵化に失敗することはあるのか? その場合のリスクはどうなる?」

「もちろん、失敗することも稀にある。中身が生まれる前に卵が壊れたりするとアウトだったと思う。その場合、リスクは卵一個の損失だな。基本的にアイテムが無駄になる以外のロストはねぇぞ」

「ねぇぞ……っていうけど、まだイベントでしか手に入らない妖精竜(フェアリードラゴン)の卵だからなぁ……」


 コータの言うとおり、妖精竜(フェアリードラゴン)の卵は現在入手できない。先行実装であれば、本実装を待てばいいだけの話かもしれないが、それがいつなのか分からない以上、ここで卵を無駄にするわけにはいくまい。

 瞳を閉じ、静かに何かを考えていたマコが小さく呟く。


「……コータとリュージの差。男女や体格差でないとするなら、ステータス?」

「ステータス?」

「ええ……。魔力が増えると、個体が増えるのが妖精竜(フェアリードラゴン)なんでしょう? なら、魔法に関わるステータスに差があると考えるのが筋じゃないかしら?」

「ああ、なるほど」


 マコの言葉に、ソフィアが納得したように頷く。

 基本的に騎乗用ペットの卵の孵化方法は、その世界におけるペットたちの生態に沿う。卵という庇護から妖精竜(フェアリードラゴン)が出てくるのに魔力がいるというのであれば、リュージとコータで妖精竜(フェアリードラゴン)が顔を出すかどうかに差があるのかは納得できるかもしれない。


「コータ。今は、どんなステフリをしているんだ?」

「えーっと……実は、割とバランス取ってる感じなんだよね。光属性のスキルって魔法属性が多いらしいから、INTとPOWを大目に……他のステータスとの割合を4:3くらいな感じで」

「なんだそりゃ? つまり、全部のステにちょいちょい振ってんのか? 効率悪いぞ?」


 コータのステ振りを聞き、リュージが眉根を潜める。

 このゲームにおいて有利なステ振りは、2・3点特化振りとされている。ステヘキと呼ばれる画像がとんがっていればとんがっているほど、ゲームとしてのキャラが強くなるという寸法だ。

 だが、コータがやっているのは限りなく六角形に近いステータスの振り方。どこにも尖らず、何にも特化せずという形だ。

 何でもできるといえば聞こえはいいが、このゲームにおいては魔法の選択肢や武器の装備できる範囲が狭まるばかりでよいことはあまり無い。

 コータはリュージの批判を聞き、申し訳なさそうな表情になりながら頭を搔いた。


「いやー、確かに特化型の方が強いのは理解してるんだけど……。あれも欲しい、これも欲しいってつい欲張っちゃって……。気付いたら、なんか六角形になっちゃうんだよね」

「魔法剣士を目指すんなら最終的にゃ六角形に近づくけど……まあ、好きにしたらいいさ」


 リュージは呆れたように呟きながら、軽く肩をすくめる。

 一応イノセント・ワールドには累積経験値を保持したままのレベルリセットもある。最悪はそれを使えばよかろう。

 ともあれ、妖精竜(フェアリードラゴン)が顔を出す条件に、魔法関係のステータスであるINTとPOWが関わっているのがわかった。後は実践すればよかろう。


「えーっと、魔法係はレミとマコ……。どっちがどっちに特化してんだっけか?」

「私がPOW! 魔法の威力よりも、魔法の回転効率を上げようと思って」

「あたしがINTね。魔法一発の威力をあげる場合、魔法スキルの消費そのものを削れるINT特化の方が都合はいいし」


 どちらも、らしいといえばらしい選択だ。魔法の使用回数をあげる場合、MPの自動回復率が上がるPOWの方が相性はいいし、威力が欲しいなら単純にINTを上げればいい。

 あとは妖精竜(フェアリードラゴン)の繁殖条件を満たす方が卵を抱けばいいわけだ。

 ソフィアがリュージへと問いかける。


「で、どっちの方が魔力が多い事になるんだ、リュージ?」

「この場合は……レミかね? INTって賢さをさすが、精神力はささねぇらしいし」

「じゃあ、私が抱いてみるね!」

「はいはい。じゃあ、レミで駄目なら、あたしが試すわね」


 わくわくとした表情で、妖精竜(フェアリードラゴン)の卵を抱き上げるレミ。

 想像していた以上の重さにびっくりしつつも、体全体で暖めるように妖精竜(フェアリードラゴン)の卵を抱きしめた。


「………っ」


 固唾を飲み込み、卵を見つめるレミ。

 他の皆もジッと見守る中、程なくしてにゅっと鼻面を伸ばして妖精竜(フェアリードラゴン)の子どもが顔を覗かせた。


「わぁ……!」


 ふわふわの鼻面を押し付けてくる妖精竜(フェアリードラゴン)の子どもを見て感動したように顔を綻ばせるレミ。彼女は、感動のままに、ギュッとさらに強く卵を抱きしめる。

 妖精竜(フェアリードラゴン)はしばらく鼻面をレミに押し付けるようにしながら彼女の匂いを嗅いでいたが、やがてレミに敵意がないのを察したように人懐っこい様子で鳴き声をあげながら、さらに身を乗り出してくる。


「「おぉ……!」」

「落ち着きなさい、あんたらも」


 もうじき妖精竜(フェアリードラゴン)が出てきそうな雰囲気を察し、ソフィアとコータまで身を乗り出そうとし、マコによって首根っこを押さえ込まれる。

 リュージたちも、妖精竜(フェアリードラゴン)に不要な刺激を与えないように息を潜める。

 妖精竜(フェアリードラゴン)はそんな周りの様子などお構いなしに身を乗り出し、レミの頬を一舐めする。


「あはっ。くすぐったいよ~」


 レミは頬を舐めてくれた妖精竜(フェアリードラゴン)に嬉しそうに笑いかけながら、前足が引っ掛けられるような感じで人差し指を差し出す。

 妖精竜(フェアリードラゴン)はレミの意図を察したように、前足を差し出しレミの人差し指に乗せる。

 レミはそのままゆっくりと人差し指を引き、妖精竜(フェアリードラゴン)を導くように卵からゆっくりと引っ張り始めた。

 妖精竜(フェアリードラゴン)はレミの導きのままにゆっくりと卵からその体を引っ張り出してゆき――。


「「……おおぉぉぉぉぉぉ!!!」」

「だからうるさいっつーの!!」


 その、子猫ほどの大きさの体を、ついに卵の中から現してくれるようになった。

 そのままレミの肩の上に乗った妖精竜(フェアリードラゴン)は、くるりと彼女の首を回りこむと、子猫が甘えるようにレミの頬に体を擦り始めた。


「アハ……アハハ! くすぐったいってばー」

「レミさん……! わた、わたしにも! 私にも抱かせてくださいー!」

「いやキキョウ。君は、この間のイベントで埋もれるほど妖精竜(フェアリードラゴン)と接していたじゃないか」


 興奮状態でレミに詰め寄るキキョウ。セードーの裏手ツッコミも聞こえない様子で、レミと一緒に小さな妖精竜(フェアリードラゴン)を愛で始めた。


「聞こえていないようでありますな……。まあ、理解できるでありますけれど」

「さんざんっぱらじらし続けてあの見た目だもんなー。実際に乗れるようになるまでドンだけかかるかしらねぇけど、もう愛玩ペットでいいよな」

「いや、乗ってみたい! 僕は妖精竜(フェアリードラゴン)の背中に乗ってみたいよ!?」


 興奮したように叫ぶコータ。やはり一男の子としては、ドラゴンの背中に乗って空を飛ぶのは果たすべきロマンの一つなのだろう。

 その一方で、じっとりとした眼差しで部屋の片隅に積み上げられた孵化器という名のゴミを睨み付けるマコ。


「それに、あれだけ腐るほど孵化器買って、全部無駄だったわけなのよ……? あれの元を取るくらいの働きは期待したいわね……」


 もう一つ手に入っていた卵を売って手に入れた孵化器の金額、およそ100万ほど。妖精竜(フェアリードラゴン)の孵化方法が“POW高めの人間が抱きしめること”だったと考えると、到底忘れることのできない出費だろう。

 少しずつ膨れ上がってゆくマコの怒りに怯えつつ、ソフィアが妖精竜(フェアリードラゴン)の育成方法に関して不安そうに呟く。


「……そうなると、妖精竜(フェアリードラゴン)を成竜に育て上げる必要があるわけだが、どのくらい時間がかかるものなんだ?」

「それは俺も気になるな。どうなのだ?」

「いやー、個体によりけりとしか……。そもそも、生まれてすぐに乗れるようになるヒポグリフなんてモンスターもいるし、完全成長するまで乗ることが許されないオロチってモンスターもいるわけで……。まあ、大体は見た目の大きさと頑丈さが大丈夫そうなら乗れると思うぞ?」


 子猫ほどの大きさの妖精竜(フェアリードラゴン)は、レミとキキョウの肩の上を行ったりきたりして遊んでいる。

 頬をくすぐる妖精竜(フェアリードラゴン)の毛の心地よさに歓声をあげる少女たちの姿を眺めながら、セードーは一つため息をついた。


「猫が成長しきるまでにもそうとう時間がかかるぞ。あのサイズの生き物が、騎乗可能なほどとなると、途方もない時間を要するわけだが……」

「そこはゲーム的省略がまかり通らないか……?」

「まあ、通るっしょ。ひとまずは、何を食うか。それを調べつつ、セードーたちの所属するギルドも探しつつ、でいいんじゃねぇの?」


 妖精竜(フェアリードラゴン)の育成スレに生まれた妖精竜(フェアリードラゴン)のスクショとその孵化方法を投下しつつ、リュージは肩をすくめた。


妖精竜(フェアリードラゴン)だって生まれたわけだ。育たねぇわけはねぇだろうさ」

「あんたは気楽でいいわよね……」


 完全に無駄となった出費を思い、ギルドの金庫番も務めているマコは陰鬱な溜息を一つ吐くのであった。




「名前、なににしようかなー?」

「ドラゴンなら、かっこいい名前にしようよ!」

「えー? こんなにかわいいんだから、かわいい名前がいいなー」


 妖精竜(フェアリードラゴン)の名付けに関しては、若干の意見割れが発生している模様。

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