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log110.敗北を重ねつつ

 妖精竜(フェアリードラゴン)とのエンカウントは割りとうまくいき続けた。

 熱帯雨林を適当に歩いていれば、向こうのほうから寄って来てくれるのだ。むしろ雑魚モンスターのほうがエンカウント率を考えるとレアモンスターみたいな感覚である。

 問題は……その妖精竜(フェアリードラゴン)に勝てる見込みがなかなか見えてこないことであった。


「っだぁー!! なんなのよ、あのクソ竜! ことごとくこっちを見敵必殺してきやがってからにぃー!!」

「いやはや、イベントの目玉だけあって一筋縄ではいかんなぁ……」


 既に五度目のリスポンを終え、異界探検隊はゲートの片隅でゲンナリと肩を落としていた。

 イノセント・ワールドにログインして、そろそろ一時間ほどが経過しようとしていた。

 だが、目に見える成果が一向に上がらず、異界探検隊のメンバーは疲労ばかりが蓄積し、憔悴し始めているようにも見えた。


「これだけ挑んでも、倒しきれた妖精竜(フェアリードラゴン)がいないってなると、さすがに凹むなぁ……」

「強いねー……。他の人たち、妖精竜(フェアリードラゴン)を仲間に出来てるのかなぁ……?」


 暗い表情で陰鬱に呟くコータとレミ。見た目がファンタジーな妖精竜(フェアリードラゴン)を捕まえるイベントと言うことで、彼らの意気込みも一際強かった。それだけに、この状況がやるせないのだろう。

 サンシターが作ってくれたおにぎりをかじりながら、リュージもまた険しい表情で呟いた。


「まさかここまで苦戦するたぁなぁ。久方ぶりの新規モンスターだけあるわ。いやー、手ごわい手ごわい」

「新規だけあり、リュージの知識にもないモンスターでありますしなぁ」


 後方支援担当として遺憾なく力を発揮しながらも、直接手を貸せぬもどかしさを噛み締めるサンシター。

 皆を少しでも励まそうと、つとめて明るい声でリュージへと問いかける。


「そ――そういえば、リュージのフレには、もう妖精竜(フェアリードラゴン)を仲間にしている者もいるのでは?」

「あ? そういやそうか」


 いわれてその可能性に思い当たったリュージは、クルソルを弄り始める。


「この手のイベントでRGSの連中が本気ださねぇわけねぇわな。メールの一本でも……っと、来てたわ」

「「「!!!」」」


 リュージがメール画面を開いてみると、アマテルから一本のメールが送られていた。

 そのメールを開いてみると画像つきで、妖精竜(フェアリードラゴン)の首元に抱きついたアマテルが自慢げな表情でこちらに向かってピースをしているところが映っていた。

 時刻は今から三十分ほど前。掲示板上でも、まだ妖精竜(フェアリードラゴン)の捕獲の報はなかった頃だ。さすがは、最速ギルドといったところだろうか。


「さすがだなぁ、RGSは」

「リュージ! なんか妖精竜(フェアリードラゴン)の攻略法とかは!?」

「なんでもいい! 攻撃法の解釈とか、弱点とか載ってないのか!?」

「見せてリュージ君! アップの妖精竜(フェアリードラゴン)見てみたい!」

「落ち着かんかい、おまいら」


 自身に詰め寄る女性陣をひらりとかわし、リュージはメールの本文を注意深く目で追いかける。

 と、言っても全文はさほど長くはない。妖精竜(フェアリードラゴン)捕獲の報告と、それを自慢するような文面がちらりとのっているだけだった。


「……アマテルも、情報はタダ売りしねぇつもりだな、こりゃ。攻略情報(その辺)はまったくのってねぇわ」

「チッ!! しけてるわね、あのアマ……!」

「口が汚いでありますよ、マコ……」

「リュージ君! ドラゴン! 妖精竜(フェアリードラゴン)!!」

「はいはい、ほらよ」


 人目憚らずアマテルをののしるマコを宥めるサンシター。

 それすら無視して詰め寄ってくるレミに向かってクルソルを放ってやりながら、リュージは腕を組み、改めて考え始める。


「まあ、RGSのやり方がこっちの参考にはならねぇだろ。向こうさん、妖精竜(フェアリードラゴン)を成体でゲットしてる」

「はわわぁ~……!!」

「うわぁ、おっきいねぇ……」

「成体でゲットしてると、どうして参考にならないんだ?」


 きらきらと瞳を輝かせるレミの脇から、妖精竜(フェアリードラゴン)の写真をのぞきこみながら問いかけるソフィアに、リュージはしかめっ面で答える。


「そりゃ、ペットタグ使ってるからだよ。それに、向こうとこっちじゃ錬度も違う。何をしてでもHPを三割まで減らせればいい連中と、限られた手段で妖精竜(フェアリードラゴン)からの卵ドロップを狙う俺たちじゃ、当然やり方も変わってくるもんだろ?」

「それもそうか……」


 食い入るように妖精竜(フェアリードラゴン)の写真を見つめるレミから離れ、ソフィアは冷静な表情でリュージへと問いかける。


「では、単純に分析しよう。今までの敗因は?」

「火力かね。向こうの攻撃に対する、防御手段が欠けてると思う」


 ソフィアの問いに、頭を搔きながら答えるリュージ。

 今まで自分が受けてきた攻撃を思い返しながら、溜息をつく。


「火炎弾に、竜巻に、氷の雨……太陽光レーザーもあったか? 妖精竜(フェアリードラゴン)だけあって、割と何でもありだったよな」

「そして、その全ての攻撃に対し、こちらの防御は何の役にも立たなかった……。魔力属性攻撃、と考えるべきか?」

「だな。妖精の名前を冠するんだ。あれも、魔力由来の攻撃だろうさ」


 リュージが上げた攻撃は全て、魔力による属性攻撃となる。

 イノセント・ワールドにおける攻撃属性は、物理と魔力の二種に大別される。さらに二種の属性には斬撃や熱、あるいは衝撃や冷気などといった細かな属性に細分化されるが、これらに対する防御属性は耐物か耐魔の二種類となっている。この辺りは、非常にわかりやすい作りとなっていた。

 あまり大仰に属性を用意しても、管理しきれないだろうというのがほとんどのプレイヤーの見解だ。実際、複雑すぎる防御属性によって、廃れてしまったVRMMOという実例もあったりする。

 そして、基本的にそれぞれの属性は同一の属性によって防ぐことが可能となっている。物理は物理に対して、魔力は魔力に対して効果が高いというわけだ。

 最終的にプレイヤーは耐物魔装甲を纏うことにより、強力なモンスターの波状攻撃に耐えられるようになるわけだが、属性開放に至ったばかりの異界探検隊にはその準備はない。鎧も装束も、まだ耐魔加工を施していない、普通の装備品だ。


「辛うじて、レミが無効化系のスキルを取得しているんだったか?」

「レミちゃん。無効化系スキルの話だよ?」

「ふえ!? え、ええっと!?」


 ソフィアに話を向けられ、コータがレミの肩を叩く。

 愛くるしい妖精竜(フェアリードラゴン)の姿にすっかり陶酔していたレミは、話の内容を理解できずに一瞬パニックを起こす。


「だから、無効化系のスキルの話だよ?」

「む、無効化? あ、ああ! 無効化の話だね!」


 だが、コータにもう一度ソフィアの言葉を復唱してもらい、何度か頷きながら答える。


「確かに持ってるよ! フォースバリアー! エネルギー系の攻撃を完全遮断できる、無効化系のスキルだよ! エネルギー系なら、物理も魔力も無効化できるの!」

「さすが光属性。いきなり反則くさいのが出てきてんな」


 リュージは軽く呆れながらも、少し楽しそうに笑ってみせる。


「なら、多少は気が楽か? 無効化手段があるなら、それ系攻撃を誘発させりゃいいんだ」

「あ、でも……まだスキルレベルが伴わないから、防げるエネルギーは光系だけなんだ……」

「おん? っつことは、自分の属性だけか、防げるのは」


 リュージの言葉に、申し訳なさそうに頭を垂れるレミ。

 エネルギー系に属するのは、基本的に実体を伴わない攻撃となる。もっとも代表的なものは、炎だろうか。他には、雷や磁力、重力といったものもエネルギー系に属す攻撃属性となる。

 その中で、自分の持つ光属性のエネルギー攻撃しか防げないというレミであったが、それでもリュージは力強く頷いてみせる。


「なに、気にすんなよレミ。そもそも、このレベル帯で無効化系があるだけありがたいんだ。普通、無効化なんてどんだけ速くても50レベル後半にならないと手に入らないんだぜ?」

「単一属性でも、十分ありがたいよ。自信を持ってくれ、レミ」

「うん……」


 リュージとソフィアの言葉に、レミは何とか頷く。

 まだ申し訳なさそうなままであったが、それでも二人の言葉に元気付けられたようだ。

 そんな三人の会話に首を突っ込むように、マコが身を乗り出してきた。


「無効化はいいんだけどさ。あいつら、いつも二頭立てで出てきてない? なんかそれが引っかかるんだけど、あたし」

「……言われてみれば、確かに」


 マコの言葉に、ソフィアが同意する。

 記憶の中での妖精竜(フェアリードラゴン)との遭遇戦では、最初に出会った妖精竜(フェアリードラゴン)が不利になると、必ずもう一頭の妖精竜(フェアリードラゴン)が現れた。

 それが直接の敗因だった戦いばかりではないが、妖精竜(フェアリードラゴン)を二頭同時に相手にするのは荷が勝ちすぎるのは事実だ。


「なんか、条件でもあるのかしら? 例えば……一定人数以上固まって動いてると、ピンチに妖精竜(フェアリードラゴン)が増えるとか」

「リュージ?」

「そういうイベントも当然ある。……可能性として、考慮すべきだな」


 マコの疑問に、リュージは一つ頷いて答える。

 そこまで聞き、何かを思い出したようにサンシターが手を上げた。


「そういえば、火にしろ風にしろ光にしろ、妖精竜(フェアリードラゴン)の攻撃は、全部攻撃してきた相手に対応していたように思うであります」

「攻撃してきた相手?」

「ええ。火であればリュージ、風であればソフィア、光であればコータ……。こんな感じで、自分を攻撃してきた相手の属性を、増幅して返していたような」


 自信なさげなサンシターの言葉を聞き、リュージが小さく舌打ちした。


「なるほど。言われてみりゃそうだ。つまり、妖精竜(フェアリードラゴン)はカウンタータイプか。厄介なはずだ」

「カウンタータイプ?」

「そのままの意味だよ。こっちの攻撃に対して、決まった攻撃をカウンターで返すモンスターの俗称。トリガーが決まってるから、そこが攻略の鍵になったりもするんだが……今回の場合は、カウンターの幅が広すぎるな。この分だと、地属性も水属性もそのまま倍返しだろうし」


 単なる倍返しだろうとも、こちらの攻撃に対する的確なカウンターは脅威的といえる。

 だが、リュージはにやりと笑みを浮かべる。


「まあ、それなら話は単純だよな」

「ああ、だな」

「そうね。もう勝ったも同然だわ」


 ソフィアとマコも、リュージに同意するように頷き、それからコータとレミの方を見る。


「あんたたちが妖精竜(フェアリードラゴン)攻略の鍵よ」

「ああ、わかってるよ」


 マコの言葉を理解し、コータは頷いた。

 コータとレミの光属性。この二人なら、妖精竜(フェアリードラゴン)のカウンターを封殺できるのだ。




なお、無効化系を極めきると、ほぼ全ての攻撃手段を封殺できるらしいが、純粋技量に連なる必殺系の技はかわせない模様。

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