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log100.賞金首、討伐

「アンタそれマジで言ってんの……?」

「マンイーターの核を見定めるのに、思いついたのがコレだった。コレが駄目なら別の策だ」


 ソフィアはそう言い放つと、カレンから手を離しリュージに向かって駆け出す。


「タイミングは好きにしろ! こちらでそれに合わせる!」

「合わせるって……! ソフィア!?」


 カレンはソフィアの背中に手を伸ばすが、彼女は振り返ることなく一直線にリュージの元へ向かう。

 彼女の背中をつかめなかった手を彷徨わせたカレンは、諦めたように矢を握り締める。


「ったく……。こんなんでホントにいけるんだろうね……!?」


 どう考えても無理だろう。そんな思いを何とかねじ伏せ、カレンはドームの天井に向かって一気に矢を解き放った。


「曲射・千鳴ッ!!」


 瞬く間に放たれた大量の矢は一気にドーム天井へと向かっていくが、その勢いは途中で萎む。

 飛ばなくなった矢はそのまま重力に従うように、矢じりを下に向けドーム内にさながら雨のように降り注ぎ始める。――ソフィアやカレンたちはもちろん、フードマンイーターたちや大蛇を為したマンイーターたちの下へと。

 ソフィアはそれを見上げながら、リュージに向かって思いっきり叫んだ。


「リュージッ!! 私をマンイーターの頭の上へと跳ね飛ばせッ!」

「あいよー」

「え、ちょ、二人とも!?」


 唐突過ぎる命令に、軽すぎる了承。

 驚きの声を上げるレミを無視して、リュージの振るうバスタードソードの上にソフィアの足がかかる。


「高度を上げろ! 大蛇の全容が見れるように!」

「おっけぃ!」


 リュージは満面の笑みでソフィアの命令に頷くと、彼女を乗せたままバスタードソードを思いっきり振り回す。

 ギシリといやな音を立てるが、それをかき消す勢いでリュージは彼女を天高くへと飛ばさんと力を入れる。


「いよいぃぃぃぃぃしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「―――!!」


 風を切る音が響き、ソフィアの体が大きく回る。不安定な足場の上に乗せられたソフィアは、全力でその足場に体を張り付ける。

 さながらハンマー投げのごとく振り回されたソフィアの体は、そのままの勢いで矢の降り注ぐドーム上空へと投げ飛ばされた。

 体を小さく丸め、回転しながら跳ね上げられたソフィアは、最も高くまで飛び上がったあたりで両手を広げ、目を見開く。

 自身の頭上を通り過ぎ、地面へと降り注ぐ大量の矢。その真下にさらされた大蛇たちは一旦動くのを止め、頭上から降り注ぐ大量の矢を懸命に捌き始めた。


「―――!」


 自由落下に身を任せながら、ソフィアはしっかりそれを見る。

 頭を構成する剣士たちの剣が。体の辺りを構成する戦士たちの槍が。降り注ぐ猛威を弾き飛ばしてゆく。

 一見すれば全体を保護するように動く防御の動き。……ソフィアはその中に微かに見つける。

 絶対に傷つけて欲しくない場所を守るように動く、戦士たちの動きを。


「――そこかぁ!!」


 確証はない。どこまでいってもただの勘働き。これをしくじれば、ソフィアは確実にここで倒されてしまう。

 だが、ここで一矢報いなければ。ここで“マンイーター”の鼻を明かしてやらなければ。――恐らく、一生“マンイーター”に接近する機会は得られないだろう。

 逃すわけにはいかない。ここで、必ず一矢報いる。

 リュージを狙った代償を、僅かにでも払わせる。

 その一心でソフィアはレイピアを抜き払い、大蛇の体――頭の部分。ちょうど脳みそが収まっているであろう場所に向かって、彼女は舞い降りてゆく。


「ヤァァァァァ!!!」


 降り注ぐ矢に混じり、強襲を仕掛けるソフィア。防御に徹した大蛇の動きは止まっている。タイミングは絶好に見えた。

 ――だが、空中で動くスキルをもたぬソフィアは、敵にとっても絶好の的だ。

 ソフィアのレイピアが攻撃可能な範囲にまで目標に近づいた、次の瞬間。

 その周囲から、無数に伸びる長槍。


「ッ!?」


 まるで、その槍の元にいる人物を守るように放たれた決死の槍撃はソフィアの体へと殺到した。

 槍の穂先が何かを突き破る鈍い音が、辺りに木霊する。


「ソフィアさんッ!!」


 自分も降り注ぐ槍から身を守っていたコータが悲鳴を上げる。

 その光景を見た多くの者が息を呑み、ソフィアの無残な姿を目に焼きつけ、彼女の無謀を嘆こうとした。

 だが、攻撃に成功したはずの大蛇の中から驚きの声が漏れる。


「―――嘘、でしょう?」


 聞こえてきた声の主は“マンイーター”。大蛇を構成する一片となり、その中で頭脳として働いていた人喰いの主は、己に影差す少女を見上げ目を見開く。


「――この程度では届かんぞ、人喰い」


 己を突き刺さんとする無数の槍の穂先。その一つを掴んだソフィアはそれを手繰り寄せるように、槍撃の着地地点の手前に己の体を滑り込ませていたのだ。

 マンイーターたちの槍が貫いたのは、彼女の着ていた鎧の肩の部分。鉄でできていたはずのそれは容易く破られ、その勢いでソフィアの体からは鎧が完全に外れてしまっていた。


「次は……こちらの番だッ!!」


 故に、鎧の重さ、不自由さから解き放たれたソフィアの動きはマンイーターの目を超える。

 握った槍を足場代わりに。腕の力のみで加速したソフィアは瞬く間にマンイーターの頭上を捉える。


「ソードピアスッ!!!」


 今、己に放てる渾身の一撃で持ってマンイーターの体を貫かんとするソフィア。

 だがすんでのところでそれは叶わない。

 ソフィアの無事を確認した瞬間に、“マンイーター”の傍に立っていた一人のマンイーターが彼女を庇うように動き、その脳天にソフィアのレイピアを受ける。


「ッ!」

「残念……だけど、ここはもう駄目ね」


 ソフィアの一撃をかわした“マンイーター”は自らの立ち居地に見切りを付け、素早くその場から離脱する。

 マンイーターの構成員を一人倒したのと引き換えに、ソフィアは大蛇の腹の中へと降り立ってしまう。


「……けれど、代わりに貴女を頂きましょうか? フフ、フフフ」


 “マンイーター”の欠けた大蛇は人の姿を取り戻し、バラバラと動き始める。

 “マンイーター”をカバーするべく動き出す者と、大蛇の腹の中に降り立ったソフィアを打倒するために動く者。

 あっという間に敵に囲まれたソフィアは、レイピア片手に覚悟を決める。


「……来い。ただで散るつもりはないぞ」


 周囲を睥睨するその眼差しは、手負いの獣のそれであった。

 組し易いと考えたマンイーターたちが、一斉に武器を振り上げ、ソフィアに叩きつけようとする。


「ショットガンレーザー!」


 だがそれは届かない。ドームの天頂を突き破り、ソフィアの体を守るように降り注いだ無数の光線によってマンイーターたちの攻撃が阻まれた。


「ッ! アマテルか!」

「やっほー」


 ソフィアが見上げると、ドームに空いた大穴からアマテルがゆっくりと舞い降りてくるところであった。

 彼女はそのままゆっくり下降しながら、ソフィアの近くに立っているマンイーターたちをレーザーにて撃ち抜いてゆく。


「動かないでねー。私、射撃は下手だからー」

「怖いこというなよ!?」

「……アマテル。また、邪魔を……」


 “マンイーター”はアマテルの姿を見上げ、忌々しげに呟く。

 リュージと並び、ギルドを半壊させられた恨みは深いようだ。だが、今はそれを晴らす時ではない。

 “マンイーター”の動きをカバーするように、五人のフードマンイーターたちがその傍に駆け寄ろうとする。“マンイーター”はフードを取り出し、五人の中に紛れ込もうとする。

 しかし、“マンイーター”がフードたちの中に混じるより早く、目印でもつけるかのようにフードたちの脳天に矢が次々と突き刺さっていく。


「鋭矢の速度舐めんじゃないよ!」

「ガオウ君!」

「十狼陣ンンンン!!!」


 カレンの矢の援護と共に、十人に増えたガオウがマンイーターたちに襲い掛かる。

 “マンイーター”はガオウの襲撃を何とかかわすと、自分のほうに向かってリュージとコータが駆け寄ってくるのを見つけた。


「マンイーター! ここで!」

「フフ、フフフ……! まだまだよ……!」


 “マンイーター”は微かに声に焦りを滲ませながら、小さな球体をあたりにばら撒く。

 ビー玉程度の大きさの球体は、地面に落下すると小さな破裂音と共に無数の人形へと姿を変える。

 全長二メートル台の人形の影にかくれようとする“マンイーター”。それを逃さぬと、コータが技を振るう。


「パワースラッシュ!!」


 コータの振るった刃が人形の体を斬り裂き、彼らの背後から駆け寄ってきたマコの魔法がその奥に立っていた人形の体を吹き飛ばす。


「ファイアボール!!」


 魔力をチャージされたファイアボールは人形の上半身を消し飛ばすことに成功したが、湧き出た人形全てを焼き払うのには火力が足りない。

 現れた人形たちの間に、僅かな隙間が出来るので精一杯であった。

 隙間の向こう側に、“マンイーター”の姿が見える。

 コータは“マンイーター”の姿を追って駆け出そうとするが、人形たちがその行く手を阻み、マコの魔法も射線が通らない。

 “マンイーター”はそのまま後退し、姿を晦まそうとする。

 ――だが、“マンイーター”の目の前にある間隙を縫う影が一つ。


「―――ッ!」


 リュージだ。

 さながら砲弾のような勢いで人形の間を抜け、リュージがまっすぐ跳んできたのだ。

 人形たちの反応すら許さぬ速度。地面スレスレを飛んでいると表現できる勢い。

 自身の目の前に迫るリュージの姿を見て、“マンイーター”はかつて彼と戦った時のことを思い出す。

 ――人に体格で劣る獣たちが、人より遥かに優れた身体能力を有すのは何故か?

 答えは単純。人が道具の代わりに捨てた、四本の足を動物たちは持っているのだ。

 二本足で立つ人と、四本足で駆ける獣。その身体能力に明確な差が生まれるのは自明の理。

 ならば、他者に身体能力で勝るには? 多くの武道家、剣術家が様々な方法でその命題に取り組んだ。

 ……そして、とある剣術流派が、一つの答えを見出した。

 二本で足りぬなら、増やせばいいのだ。もう一本、己の足となるものを。

 手にした刃を地に突きたて、三本目の足とする特殊な歩法。


「――神宮派形象剣術・飛豹」


 かつて名を聞いた事のある技が、今一度自らに牙を向いた。


「――フフ、フフフ。今回は、私の負けね」


 小さくこぼす“マンイーター”。その言葉を無視し、リュージは刃を二度振り切った。


「パワークロスッ!!!」

「ッ!!」


 それ以上あげられる声もなく、“マンイーター”の胴体は見事に泣き別れることとなった。

 一撃で0になるHP。クリティカル音にも似た轟音がドーム内に響き渡り、その場にいた全ての人間の動きが止まる。彼らの視線の先には、折れた草剣竜のバスタードソードを携えたリュージの姿があった。

 主を失った人形たちの形が崩れてゆく中、リュージの手の中に一枚の羊皮紙が現れる。


「………」


 表面がこげる音を立て、その羊皮紙にかかれた人物の顔に大きなバツが書かれてゆく。

 目深にフードを被った、誰とも知れぬ人の手配書。そこに書かれた名前は“マンイーター”。


「……“マンイーター”。確かに、討ち取ったぜ」


 静かにリュージが告げた勝利宣言はドームにいる全ての人間の耳に届き。

 次の瞬間、歓声と悲鳴がドームの中に満ちたのであった。




なお、神宮派形象剣術は唯一の継承者がお嫁にいってしまった関係で完全に流派が途絶えてしまったと噂されている。

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