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紹介

「とまあ、ここまでが現状をまとめたものなんだが……上々だな。君なら中隊の係幹部も勤まる」

富士駐屯地内の富士学校の一室で三宅はスライドショーで解説していた。

「さて、一通り説明もした。今度から君の所属する多脚機教導隊の第1中隊の第五小隊は15式と95式の混成だ」

「教導隊なのに?」

混成編成は運用上の不都合を起こしかねない。性能差故に低い方に寄り添わねばならないのだ。

「15式は試験量産のうえ燃料電池がらみで頭数がまだ足りないからな。試験とノウハウ蓄積のために各小隊に2機ずつだ。まあ、84式C型といっしょよりかはいいだろう」

「そうですが……」

84式C型はアシヘリとも呼ばれたタンデム二人乗りの第一世代、84式の近代化改修機だ。25ミリ機関砲が使用できるようになり、操縦性も改善し一人でも難なく動かせるようにまでなったが、その真価は換装した新型コンピュータとレーザー照射装置、後席にナビゲータ兼火器管制官を載せることによるミサイルの運用能力だ。機動戦重視の15式、対装甲車前提の95式とは違うアンブッシュ運用化の改造は対戦車戦を考えているのだ。電子的手段を使わずに偵察ができるというのは84式シリーズの利点ではあったし、実は最も視野が広いため警戒という点では分がある。

「東富士で明日から始まる演習でスティルウェルがお目見えする」

スティルウェルは2011年から実戦配備が始まったアメリカ軍の最新鋭多脚装甲車LV6の通称だ。先代のLV3ウォーカーシリーズを置き換えると息巻いたそれは、15式と同様の人工筋肉を使用し、十分な装甲に既存の機体を圧倒する軽快な運動性を両立したモデルとして世界中で話題となった。

「95式の大規模改修型のG型もお目見えする上に、マスコミに今回の合同訓練を公開するんだそうだ」

「大規模改修型?」

「ああ。エンジン、駆動系、センサ類、一部装甲を15式のノウハウを反映させた最新のモノに更新したモデルだ。15式ほどではないが、いい機体だよ。アメリカ軍のヘビーウォーカー、スーパーウォーカーの改修案と同等だ」

「そんなに早く?教導隊には?」

「第三小隊の95式がそれだ。彼らが運用試験を行ったからな。彼らが実演するよ」

「なるほど」

「……欲しいのか?第一小隊はE型に準じた改装機だぞ。性能面では初期ロットとは雲泥の差だ」

「出来れば性能差が少ない方がいいので」

「まあ、今年度中にも95式G型も15式も制式量産が始まるよ」

「にしてもそんな出来立ての機体を教導隊より先にアメリカとの合同演習に?」

「多脚装甲車不要論に対する牽制だよ。財務省や国会の特に野党には多脚装甲車どころか戦車すら不要と言い切った連中が山ほどいるっていうから」

「点数稼ぎですか」

「まあ、仕方ないさ。74式も持ち込んでの対戦車戦演習もやるとか」

「それで目指す勝率は?」

「五分五分」

「なるほど」

事情は分かる。財務省などに演習の結果を正直に伝えれば分の悪い方が削られる。両方必要ということが分かっていないのだ。

「スティルウェルとの模擬戦はどう評価するかわからないから非公開だな。95式E型との比較もあるし」

「95式ではどうあがいても分が悪いのでは?」

多くの場合、兵器というのは一つ世代が違えば性能は雲泥の差だ。航空機の世界では第2世代戦闘機で第4世代戦闘機を撃墜判定に持ち込んだパイロットというのがいたらしいが、陸戦兵器では1世代の差は次元の差とでもいうべきものなのだ。

「なら、行ってみるか?」

「え?」

「どうせ明日は戦技研究の時間だ。一緒に見に行こう。そうしよう」

「大丈夫なんですか?」

そう簡単に訓練の見学などできはしないのだ。

「ああ。話を付けさえすればどうにかなる」

「でもまだ自己紹介が」

「そうだったな。さて、挨拶に行こう小隊長以外はもう集まっている」

「小隊長以外?」

責任者不在というのは何とも不安である。

「小隊長は東富士で諸々の準備中だ。だから今私が臨時で小隊長役をやっているわけだ」

「そうなんですか」

「まあ、来い」

そう言われて手を引かれた。


「この間の人事で新しく入ることになったメンバーを紹介する。いろいろ遅れたが、それに関しては陳謝しよう。実機の経験が薄かったから乗せたんだ。すまなかった」

少し頭を下げると三宅は続ける

「そしてこちらが」

「東仁司三尉です」

頭を下げ挨拶をする。

自衛隊でも基本の挨拶はお辞儀である。いわゆる敬礼は頭に何かを被ってる時以外は行わない。

「彼はこの間まで第1多脚機大隊に所属していた。95式での経験は豊富。15式も初めての実機でちゃんと乗りこなしている」

三宅はそう言って東の肩を叩く。

「では君から」

「赤塚康夫曹長。運用支援班長を承っております」

これぞ古参と言わんばかりの白髪交じりのゴツゴツした印象の色黒でシミだらけの男。頑固一徹という雰囲気だ。

「難波栄治三曹です。95式の搭乗員です。コールサインはサンダー22」

どこか優男風の男だ。なんというか、軟派というか、チャラいというか。こちらを舐めているような感じもする。

「渡辺彗。二曹。15式の搭乗員やってます。コールサインはサンダー12。よろしく」

クールな印象の女性。なんとなく硬質な雰囲気で氷を纏っているかのようだ。

「巴岩雄三曹っす!95式の運搬をしています!」

明るい顔をした裏表を感じられない丸坊主の男だ。純粋にこちらに敬意を払っているようだ。

「権田郁美三曹です。オペレータしてます」

柔和な表情を崩さずはきはきと喋る。髪留めをしているのも特徴的だ。

「相田不二男二曹であります。15式の運用支援であります」

古典的な軍隊口調まんまで声を張り上げた大型免許を取るには限界に近い小柄な同年代。気張りすぎというか、なんというか。

「小谷栄治一曹。配置は95式のパイロット。サンダー21のコールサインだ」

なかなかの年齢のいぶし銀の風格が漂う男だ。こちらを探るかのような視線を這わせてくる。

「雄琴陣曹長だ。分析をしている」

しっかり者と言った感じの中肉中背の中年。目の奥にはこれまでの経験が透けて見えるかのようだ。

「佐々応挙二曹っ!配置は15式の運用支援ですっ!」

野球部のような言い方をする少し年上の男。相田二曹と同じくらい気を張って声は裏返り身体は若干震えている。

「に、似鳥真奈華三曹。オ、オペレータです」

気弱そうな眼鏡の女性だ。自衛隊では珍しいかもしれない。こちらにどこか恐れを抱いた視線を向けている。

「山田太郎一曹。95式の運搬をしています」

一転、どこか落ち着いた30代後半みたいな中年男性がいる。要領よく仕事をするのが得意といった雰囲気を漂わせている。

「穂積洋征二曹。分析担当です」

太めの体格の男だ。腕も胴もパンパンといった感じだ。人懐っこそうな顔を精一杯険しくしている。

「まあこんな感じだ」

「女性比率が高いですね」

自衛隊の女性比率は全体で6%程度。事務方での比率が23%越えをしていると考えると前線職種にいる女性自衛官はほぼいないと言っても過言ではない。これは前線配置に関して「母性の保護」「プライバシーの問題」で行政側が、「女性を戦地へ送る行為を好まない」フェミニズム団体の行動などが関わっていた。

「オペレータには女性が向いてるんだ。声の問題でな。普通音声ガイダンスは女の声だろ?」

「ああ、なるほど」

合点が行った。

「飲み会はまた今度、小隊長が来てからだ。これから、明日の予定について再度確認しようと思う」

三宅の声が響いた。

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