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わけありのへや

作者: ももくり

私は、たぶん嫌だったんだ。

あの人が行ってしまうことが嫌で、本当に嫌で。ずっと自分から隠していた気持ちを自覚した瞬間だった。あの人が出て行ってしまったドアを見て、もうどうしようもなかった。後の祭りだった。二人で半年過ごした部屋が、馬鹿みたいにぽかーんとしている。気がつけば其処は思い出だらけで、息をするのも苦しいほどに。バルコニーから二人で見た花火、二人で歯磨きをした洗面所、二人でバターを焦がしたキッチン、二人で眠ったベッド。いつも私たちは二人ばっかりで、二人ばっかりで過ごしてきたから、離れる時にこんなに意味が分からなくなる。だけど不思議なことに、それは私だけの現象であって。あの人はもう何も感じていないから、あんなに素っ気無く背を向けたんだろう。ドアを見つめ続けて、約30分。ここでようやく気がついたんだから、馬鹿としか言いようがない。

後はもう簡単だった。感情に任せるというか、難しいことは考えなくなったというか。涙が落ちて、それは流れるというよりも湧き出た。おまけに声まで止まらなくなって、自分の体が自分じゃないみたい。床に座り込んで、拳を叩きつけて。嫌だ嫌だ嫌だ、と。何回も何回も叫んで、それこそ声が枯れるまで。机の上の二つのマグカップを蹴散らして、緑の鉢植えも叩き割った。髪も顔も全部ぐしゃぐしゃ。こんな姿、あの人に見せたこともなかった。

私はこんなに寂しいのに、あの人はあんなに冷たい。敗北感というか何というか、もうそもそも初めから敵わないっていうか。無理だった。

おもむろにバルコニーに飛び出して、身を投げ出した。恋に破れて命を落とす人の気持ちが分かった。そうして私も幽霊の仲間入り。

みんなこうして、幽霊になるのよ。みんなこうして、訳ありの部屋にしていくのよ。

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