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不器用な歌  作者: nito
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第一話

よくあるファミリーレストラン。

そんな中で僕たちは半年ぶりに顔を合わせた。

中学と、高校と、金のない俺らがよく集まった場所だった。

俺とhujiは車を降りて冷たい風に顔をうずめた。

窓の中から手を振っている馬鹿がいる。

それがマサキだ。

馬鹿丸出しでも奴は余裕。

そんなやつだった。



「いや、それにしたって、このメンバーで集まるのはホント久しぶりだね。」

席に着いたとたんそんなことを言ったのはマサキ。

彼のソファーの隣には大きなショルダーバックがあって、また随分と怪しい雰囲気をかもしだしていた。

「確かにな。俺とhujiは結構会ってたけど、マサキとかとはなかなか会う機会がなくってねえ・・・。」

と俺はいった。

「それで、北海道はどんな感じよ??」

「飯が旨い!!」

「言うと思った。」

「それにやっぱり雪は多かったね。馬鹿みたいに寒いし」

「でも楽しいよ。大学は。」

「女関係はどうなんだよ?」

hujiはにやにやと笑いながら聞いた。

「いねえよ。殺すぞ。でもなあ、結構可愛い子はたくさんいるぜ!わはは。雪の似合う女の子とか、息で手を温めているところとか最高じゃね??」

「同じサークルにいる由加古チャンと初詣いったんだけど、そのときに白い息で手を温めていたんだけど可愛かったぜ!」


hujiはひじを突いてあっそというように「へー、そうなんだ。」といった。

「やる気ねえなあ・・・。おいおい!そこ!鼻くそ掘るな!」

マサキは笑いながら指を刺す。

『あいかわらずじゃん?』

俺は目を薄めてhujiをみた。

そう、みんな相変わらず。本人はかわったつもりでも、本当は何も変わっちゃいない。


くだらない雑談。

猥談。

その楽しさは、今までともにしてきたこいつらとしか分り合えないもんだ。

時間が作り出したウィスキーみたいに、

僕たちの関係も幾年も熟成され洗練され、

そして、独特な味を出していた。

もちろん、他人には飲めたもんじゃないという補足がつくけど。



そんな中でhujiがマサキに言った。

「そういえば、お前なんでピアノやめたの??」


「ああ、面倒だったからね・・・。」

マサキは少し考えてやっぱりそういった。


『やっぱり』

そう、僕は彼がなぜひかなくなったのか、大体わかっている。

「何年前だっけ?」

「二年前だよ。」

マサキはぶっきら棒に言った。

「もうそんな経つのか。」

hujiはそう呟いた。

僕は無意識に携帯の画面を見た。

2000/03/02

画面にはそう表示されていた。



二年前。

僕らは何をしていただろうか?

はっきり言って曖昧だ。

多くのことは思い出せない。

たとえ一生懸命思い出そうとしてみたって、

それはいわゆる作られた話でしかない。

ただ、俺の目の前の家から、毎日聞こえてきた鍵盤の音が止んだ。

というのは事実であろう。

そう、僕の前の家のマサキの家のピアノだ。


小学5年の時にここに来て僕とマサキは仲良くなった。

ただ単に家が近かったし、

彼の家からはいつも旨そうな匂いがして、行けば必ずおやつが出たからだ。

彼の家は少しばかり金持ちで教育ママでもあったから、

ピアノも習っていた。

特に中学に入ると同じ部活(剣道)だったから特にマサキの家にお邪魔することが多くなっていった。


マサキは幼稚園の頃からピアノをやっていたのだけれど、

中学に入るとピアノの先生が変わった。

週に2回程度家から100メートルほど離れた菊池さんの家に行くようになったのだ。

菊池さんの家には麻衣子さんという僕と同い年の子供がいて、

僕のあまりに好みであったからついつい舞い上がって声をかけて、

いつの日だか、マサキの家に一緒に集まるようになった。



1998/03/24


僕は終業式が終わって、

写真部の部室ということになる3−Cの教室に向かった。


すでに殆んどの部費を使ってしまった写真部は、

とりあえずという感じで集まって、

暇な話をしていた。

いつも通りマージャンしながらだ。

「あれ、淳じゃねーか!」

「お前、今日は橘(正樹)んとこ行かないんか?」

hujiが言った。

「もうすぐ行くつもり。ちょっとカメラ、

取りに来た。」

「なんだよ〜!マージャンやろうぜ!!」

部長が言った。

「悪い。また今度やるからさ!」

「今日は勘弁してくれ!」

「頼むよ。三人でやってもつまらないんだよ。」

「まま、部長、まあいいじゃん。」

「あいつが入ったらレートさげなきゃならないでしょ?」

「うーん。そうだけどさ」

hujiが止めてくれたおかげでなんとか抜け出すことが出来た。

小走りに階段を下りる。

僕には『わかっていた。』


父親から借りているキャノンの一眼レフのカメラを見ていると、

ファインダー越しに移した麻衣子ちゃんを思い出す。

僕は麻衣子ちゃんの笑顔を見ると本当に自分も笑顔になった。

そして、彼女はいつも笑顔だったから、僕も毎日笑顔でいられたんだと思う。


麻衣子ちゃんが笑顔でマサキと話している姿を撮るとき、

いつも悲しくて切ないけれども、それでも暖かかった。

喜怒哀楽は人の生きる姿だからだ。


麻衣子ちゃんはいつだってマサキと一緒にいる。

それが悲しい。

マサキは彼女のことなどまるで話してくれないから、

いったいどう思ってるか判らない。

わかりたくもなかった。

マサキが菊池さんに好意を持ってる可能性はどれぐらいあるのだろう?

とにかく結果として俺には勝ち目がない。

そんな気がする。


僕はそれでもそれで幸せだと思えた。

いつも三人でピアノを聴いていられたから。

それでくだらない話なんかして笑って入れれば何となく満ち足りていられる。

人生の意義を考えるとき、俺の中心はあの二人だった。

若者代表みたいに『今がよければすべてよし。』

みたいな気分なんだろうと思う。

それは、あまりに寂しいことなのなのだろうか?


何も変わらなくていいんだ。

変わらなくて。


だけど、流されていく。

それが人生だった。


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