第六話
結局、私は16になるまでは孤児院に留まることになった。
レイラと同室だった部屋をジークと二人で使うことにはなったけれど、夫婦のようなものなのだから、と説得されてしまった。
何よりレイラが次の日には荷物を抱えて空き部屋に移ってしまったので、引き留め損ねてしまった。
いままでさんざん迷惑をかけたから、やっと開放されると思ったのだろう。
……笑顔で心底嬉しそうにしていたので、心が痛んだ。
ちなみにジークに少女嗜好はないそうだ。疑問は残るけれど、信じることにしている。
……その方が身のためだ。
ジークが来てから、私の生活はずいぶん変わった。
普通の人が精霊に祈願し、借りられる力はそう強くはない。
けれど、ジークなら普通に願うだけでは叶わないことでも叶えてくれる。
病の子供を持つ親や、高価な作物を育てる人はこぞって彼の力を求めた。
ジークは決まって私が望めば、と答える。
いちいち私に言わないで、自分で決めて、といったときにはすべて断るという暴挙にでた為にいつも二人で対応することになってしまった。
そうなれば、孤児院の仕事を手伝う暇がなくなってしまうのも自然な流れだ。
その分、孤児院への寄付とジークへの謝礼が増えていくので、助かってはいる。
二人、手を繋いで歩く。
長い距離を歩くだけの体力のない、私の手を引くためだとそう、自分に言い聞かせる。
そうしないと、手を振りほどいて走って逃げ出したくなるので。
前にやってしまったときは道の半分もいかないうちに倒れてしまった。
どうやって帰ったのかは、思い出せない。
ただ、ジークがむやみに嬉しそうだったので、私にとってはろくでもないことは確かだ。
……思い出したくない記憶ばかり増えてるような気がしてならない。
指を絡めるのはやめて欲しい。切実な願いだけど、見上げたら
「ルシェ、顔赤いよ? お土産に、リンゴでも買ってかえろっかー」
意味不明な言葉で無視された。いい笑顔付き。
ジークはいつでも笑顔だ。私は彼が怒るのをあまり見たことがない。
……最初の頃、私が逃げるたびに笑顔が引きつってたけど。
「ジャガイモとにんじんとタマネギを頼まれてるから……持てないと思う」
だから! 手を離してー。ぶんぶん手を振ってみたら体が浮いた。
「重そうだねぇ。じゃあ、ルシェごと運ぼうー」
意味不明すぎる。そんな笑顔で言う台詞ではないと思うんです。降ろしてー。
でも言わない。言えない。地上から1メートル離れて子供抱きされてたら、恐怖でそれどころではなくなる。
ここで離されたら、地面に真っ逆さま。怖すぎる。
落ちないように全力でしがみついてるうちにジークは野菜を買い込んでいるが、重くないのだろうか。
重そうだと言ったのに私という荷物まで増やしてどうするんだろう。
「荷物持つよ?」
だから降ろして、と言外に含めて見つめるけれど。こういう意志はだいたい伝わらない。
無視してるんじゃないと思いたいけど、どうだろう。
もういいや。肩に頭を置いて寝てやる。一人で荷物運びなんて面白くないことをしてれば飽きて降ろしてくれるだろう。
「ぐー」
寝てますよーとアピールもしてみた。
「はいはい」
妙に楽しそうに放置される。
「ぐーぐーぐー!!」
増量してみたけど、喉が痛くなっただけだった……。
双方向一歩通行な幸せはそろそろおしまいです。




