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精霊と彼女  作者: 白夜
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第三話


なぜ青年の手に自分が今まで抱えていた野菜があるのか。

目にもとまらない早業で奪い取っていった? 無理がある。

精霊の力を借りても無理だろう。いや、使い手と呼ばれるほど精霊の力を借りることに長けた人なら可能なのかもしれない。

その場合、なんでそんな人間がこんなところにいるかの方が問題だが。

精霊への祈願の声が聞こえなかったのも気のせい、ということにしたい。

「返してください」

心底関わりたくなかったが、まさか手ぶらで厨房に行くわけにもいかない。

なぜかわたわたと変な踊りをしているレイラに任せたいけど、恨まれそうだし。

「いいよ。代わりにお嬢さんの名前、教えてくれる?」

にっこりと笑って野菜をこちらに差し出している。

せっかく運んだ距離は0になるらしい。重かったのに。

絶対、教えないっ。

無言でずんずん近寄り、野菜を奪う。


至近距離で、視線が合う。彼の、金色の瞳と。

「ねぇ、名前は?」

……金色の髪と、金色の瞳。

同色の髪と瞳。

私の髪は黒い。だから、瞳に黒の色はあり得ない。青だ。

同色の髪と瞳は、精霊の証なのだから。

レイラを見る、彼女の髪は青い。瞳は赤だ。

青年を見る。金色の髪、金色の瞳。

……うん。私の目はちょっとおかしくなってるらしい。

こんなところに実体化出来るような力の強い精霊がいるはずないし。

誰かの守護だったらなおさら、精霊一人でいるはずはない。

そもそも国に数名しかいない重要人物がこんな孤児院の、しかも畑にいると思うこと自体が間違ってる。

最近暑かったからね、幻覚も見えるよね。

「ねぇねぇ、聞こえてるー? なーまーえー」

幻聴も聞こえてる。休んだ方が良いよね。

せっかく野菜も奪い返したことだし、急ごう。

現実逃避しつつ、結論を出すと少し前と同じように背を向けようとした。

精霊の姿を見、言葉を交わすと言うことは冷静に考えればこの上ない栄誉ではあったのだけれど、このときの私はどこまでも混乱していた。

彼を精霊として崇めるには、最初の言葉があまりにもひどかったので。



後ろから伸ばされる手を無視し、言葉も聞こえないふりをする。

レイラも何か言ってたけど、精霊様に失礼はーとか認めたくない台詞だったので聞こえないことに決定。

立て付けの悪い裏口の扉に苦戦しているとまた手の中から野菜が消える。

またっ? ムッとなって嫌みなくらい高いところにある顔を睨むとなぜか彼はうれしそうに笑った。

なぜそこで笑われるのか分らなくて首を傾げるとさらにうれしそうになる。

睨まれるのが好き、とかそう言う性癖なのだろうか。

精霊について深く疑問を抱きつつ、関わってはいけないという決心を新たにした。


「荷物抱えたままじゃ、難しいでしょう? 持ってあげる」

にこにこと笑顔の大盤振る舞いで告げられた言葉は正直助かったが、ここまで無視してきたのに都合の良いところだけ頼るのはどうだろう?

少し悩むけど、野菜はすでに彼の手の中だ。

とりあえず扉を開けてから奪い返そう。

そう決めて、とりあえず扉を開けることにする。

まずは蝶番の位置を直しドアノブを持って扉全体を少し上に押し上げる。

そうしておいて、力一杯引く。

ちょっと力余って転けそうになりつつ、無事扉を開けることに成功した。

荷物を持ったままだとこうはいかない。

「ありがとうございます」

ぺこん、と頭を下げて手を伸ばす。

「どういたしまして」

やっぱり笑顔のままの青年から野菜を受け取る。……小さいのを、1個だけ。

残りの野菜はがっちり抱え込まれている。

「返してください」

やっぱり性格悪い。さっきの反応を鑑みるに効果はなさそうだけど、それでも視線は険しくなる。

「どこに置くの?」

帰ってきた返事は意外なものだった。運んでくれるつもりらしい。

精霊に荷物運びをさせるのはさすがに良くないような気がするけど、ここでもめるよりはすぐ目の前の台に降ろしてもらう方が早そうだ。

そう判断してブリュッセ婦人の側の台においてもらう。

あ、婦人が固まってる。

金髪金目は目立つらしい……。そうですよね、一生見かけることもなさそうな精霊様ですものね。

でも変な人です。見なかったことにする方が良いと思うくらいには。

それに浮きまくってる。煤けた壁や軋む床が似合わないにもほどがある。

とりあえずお礼をいいつつ、途方に暮れる。

畑に戻っても着いてきそうだ。何をしたいのか分らない。でも聞いたら不味い気がする。

聞いたら最後、逃げれないような気が。

……すでに手遅れのような気もするけど。



手遅れです。

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