第十二話
冬の足音が聞こえる頃、ルシェーラはやっと借りれた小さな小屋に移った。
ほとんど家具もない、ぼろぼろの部屋に小さく重いため息をつく。
朽ちた壁は外を伺うことさえ出来そうな有様。
吹き込む風もすきま風というよりは吹きさらしの屋外のようで。
その上、町を出ることも孤児院からく離れることも出来ず、すぐ側に留まることになってしまった。
路銀の不足だけではない。
この町を離れて見知らぬ町へ行けばルシェーラに残るのは精霊の力を全く借りることの出来ない上に、他者の祈願を邪魔するという事実だけ。
この町だからこそ、疎まれこそすれ、迫害だけは受けずにすんでいるのだと……。
ルシェーラを引き留めたのはレイラだった。
どこまでも優しい彼女はかつての友人が苦しむのを見過ごすことが出来なかったのだろう。
人目を忍び、こちらを見ることさえしないままに。それでも忠告をくれた。
思い出の残る町から逃げることばかり考えていたルシェーラが考えようとしなかったこと。
それを突きつけられ、結局ルシェーラは町を出ることを諦めた。
慌ただしく住居を探し……迷惑をかけないことを何度も何度も約束し、それでも周囲にすむ人間の不快感から一室を借りることは不可能で。
独りにもかかわらず小さな小屋を借りることになってしまった。
いくら橋のたもとの小さな小屋とはいえその分賃料も高額になり。
かろうじて隣の町でようやく受けることの出来た仕事だけで生きていくことの困難さが思いやられる。
片道五時間かかる町で、その町の住人でもないのに仕事を探す。
そんな奇妙な見知らぬ人間に仕事を任せてくれるような人がいただけありがたいとしかいいようがないけれど。
はじめの頃は持ち逃げを警戒したのだろう。仕事を受けるのに保証金まで請求される始末だった。
いまは数品をまとめて頼んでもらえる。その分納品日時も長くしてもらえるので毎日のように往復しなくてすむ。
多少値引かれているのは解っているが感謝こそすれ、文句などありはしない。
また小さなため息を漏らし、それでもここで生きていくための準備を始める。
端切れを集めて縫った布を粗末な寝台横の壁にかけ、せめて睡眠時だけでも風が直接当たらないように。
大工仕事が出来るようなら壁自体を直す方がよいのだろうが、この際仕方ない。
壁の隙間から明かりが入って、布がよく見えるから。仕立てはきっとやりやすいはず。
そう、前向きにとらえることにする。
そうでもしないと、泣いてしまいそうだった。
もしここに、ジークがいれば。
あり得ないと解っていても、願うのはいつも同じこと。
独りでは耐えれらないことでも彼さえいてくれれば。
何度も何度も繰り返す夢想。
きっと、彼がここにいたら。
こんな場所にいるのはふさわしくないと。
立ち去ることを望むのだろうけど。
ああ、でも。
一人きりの時間はそう長くないだろう。
この寒さなら。
眠ったまま目覚めなくなる日もきっと遠くない。
彼がくれた命だから、無駄になんてできない。
可能な限りの努力をしたあとなら。
許して、くれるでしょうか。
新居は戦後に橋の下とかに建ってた小屋。(漫画などのイメージで)