第十一話
病から最初に与えられたのは喜び。
回復したことへの祝福。
そして、次には失望。
契約を交わした大切な精霊を失ったことへ。
元々、大多数の人間にとって孤児が生きていようが、死んでいようがたいした違いなんてない。
私が生き長らえたことを喜んでくれた人も、精霊を失ったことを知れば手のひらを返すように離れていった。
それらは普通に予測出来たことで。
たいした感慨は沸かなかった。
私という個人を見てくれたのはジークと、孤児院の少しの人々だけだったから。
その他の人から’精霊の契約者’として利用するだけの存在と見られていることなんて、はじめから分っていた。
これからは普通に孤児の一人として扱われるだろう。
これからは孤児院の手伝いも増えるだろうし、何より独立への準備を始めないといけない。
ジークが残していったものや贈ってくれた装飾品はすべて大切にしまい込んである。
彼の優しさや二人の思い出を売るようなマネはできないし、使うには喪失の痛みはまだ生々しすぎるから。
クローゼットの中の服でさえ、見るたびに共に過ごした時間が脳裏をよぎり心が痛むのに。
そうして、時は流れていく。
けれど喪失を埋めるよりも早く、さらに失われてしまったものが判明する。
ルシェーラがいると、精霊の力が借りられない。
ルシェーラ自身が力を借りようとした場合はもちろん。
彼女がいれば、他の者もどれだけ祈願しようともささやかな助力さえもらえない。
継続して借りられるはずの力でさえ、緩やかに失われ消え失せる。
精霊に頼んで熾された火を、移した竈の火さえも消えるという有様だ。
彼女がいるだけで、著しい不便が起こる。
最初は戸惑い、驚くばかりだった人々もルシェーラがいることが元凶だと知れば一様に彼女を排斥した。
契約し、加護を与えていた精霊の命を奪って生きながらえたから。
だから他の精霊の怒りをかったのだと。
そして自分たちにも怒りが向けられることを恐れ彼女を排斥する。
実際に彼女がいれば迷惑を被るのだから、庇う者などなく。
迫害されないだけ、マシだと思うしかない。
それに数少なかった友人は、近寄ることこそなくなったが悪意ある振る舞いも見せなかった。
それだけで、十分だ。
だが、この街で独立して生きていくことは不可能だろう。
唯一の救いは、領主の判断で王都には存在を知られていないことだろうか。
精霊の契約者などという貴重な存在を王に知られれば、その力を奮わせるために王都へと連れて行かれていただろう。
それでは自身の利益が乏しいと判断し、存在を秘されていた。
王への貢ぎ物としては良いだろうが、わずかな名誉よりも手元で使う方に価値を見いだしたらしい。
つまり、街から出て他の地へ赴けば誰も彼女を知らない。
それでも旅費などの問題や、精霊の力を全く借りられないことなど問題は山積したままだったが。