クラスで一番喧嘩が強くてもモテないし、お米券ももらえない。逆にヤバイ人に目を付けられる。
学園の授業は元貴族専用の学校だけあって難しかった。そして四時限めが終わるとようやく昼休みになった。
炎魔は昼休みはどこか日が当たる場所でのんびりおにぎりを食べ、心地よい風を堪能しながら過ごそうと計画していた。
購買に行き、おにぎりを買うことには成功し、任務の三分の一は達成したと見て間違いは無いだろう。
残りの二つ、つまり日が当たる場所と風通しがいい所を見つければミッションは成功とされる。
しかし、世の中すべて計画通りに進むことは少ない。炎魔はそれを全身全霊で思い知らされた。
彼は今東区の体育館の日陰におり、七人のクラスメートに囲まれていた。
一体何故囲まれているのか、そして何故こんな所にいるのかは炎魔も不思議に思った。
いい場所を見つけようと学園中うろついていたらこうなってしまった。
簡単に言えば迷子になり、たどり着いた所がよりにもよって体育館の日陰。
「随分と舐めた自己紹介してくれたじゃねーか。」そのグループのリーダーだろうか、耳に付けているピアスの数は半端なく、鉄砲で撃っても跳ね返ってくるんじゃね?と思うほど大量につけ、さらに短い髪は金髪に染めており不良であることは疑いようも無かった。他にいたっては似たような感じで制服とは合う筈も無いのにキャップを履いていたり、サングラスにタバコを銜えてたり、赤い染みがついたバットを振り回していた。
「なんか用か?」炎魔は何事もないようにしゃけおにぎりを食べ始める。
「随分と舐めた自己紹介してくれたじゃねーか。」と金髪はまた言う。
「いや、それもう聞いたから。それとも自己紹介の仕方でも教えてもらいたいのか?」
「なわけねーだろうが、このカス!」リーダーは怒鳴り始める。「知ってるか?転校生はな、一番強い俺様に従う義務があるんだ、テメーのそのノミのような脳みそでもわかるよな?」
「へー、転校生は大変だな。」とまるで他人事のように呟く炎魔はおにぎりでべとべとになった指をなめている。
「何処までも余裕ブッコキヤガッテ!」不良グループの一人がキレた。「痛い目を合わないとわからないようだな!!」そう言うと手を拳に変えるといきなり手が二倍の大きさ膨れ上がった。そして炎魔に目掛けてパンチを食らわせようとした。
炎魔は足で地面を蹴り上げ、土を相手の目に飛ばした。飛んできた土に視界を遮られ、気をとられたそいつは鳩尾に炎魔の飛び蹴りを食らい、後ろへ吹っ飛んでしまった。
「な、てめえ卑怯だぞ!」と何人か文句を付け始める。
「喧嘩に卑怯もクソもあるか!第一、七人対一で最初っからフェアじゃねーんだよ。大体‘体強化魔術‘、自身のマナで体を強化する魔術使うとお前ら怪我するぞ。」と炎魔は怒鳴る。
魔術師が魔術を使えるのは体内に存在するマナを体力と精神エネルギーと混ぜ、変換することで使うことが出来る。どんな魔術が使えるかは決められているのもあれば決まっていないのもある。
一般的にエレメント魔法が多く、どれを使えるかは遺伝子で決められている。たとえば炎系魔術を扱う夫婦がいればその子供も高い確率で炎系魔術を使うという具合だ。まれに二つやすべての系統のエレメント魔法が使える人もいるがそれは例外。エレメント魔法のほかには体強化、体変化、武器魔法など色々ある。
体内にマナがあるものは全員、魔術陣を使うことが出来る。魔術陣は発動する時、術者である魔術師からマナを吸い取り発動する。魔術を強化する物もあれば封印するものから時空の扉を作り、移動する手段を作るものまである。
「何処までも舐めやがって。おい、こいつやっちまえ!」と命令が下る。
残された六人の不良は炎魔を半円に囲んだ。
炎魔から右の二人はナイフを取り出し、構える。リーダーの金髪の手元が一瞬光った次の瞬間、金属バットが握られていた。そして残りの三人は炎魔にけり倒されて泡を吹いている仲間同様、腕の筋肉を制服の抵抗に逆らい、膨らませた。そして全員炎魔に目掛けて突撃した。
猪の群れみたいに突進してくるクラスメートの単純さに呆れ、炎魔は溜め息をついた。
一瞬、薄い黒いオーラが炎魔を包んだ。
不良たちはいきなり見えないロープで引っ張られたかのように体育館の日陰の空中に持ち上がった。
ぐわ、苦しい。何だこれ。おい、下ろせ。と不良たちは空中で騒ぐ。彼らの首の周りには黒いパイプみたいなものが巻きついていた。
それをお構いなし白髪の少年は目を閉じて、両手を空中に浮いている六人に向け、浮いている皿を下から回すかのような動きを翻弄した。
すると空中に浮いている六人は電子が原子核の周りを回るようにランダムに回り始めた。
普通こんなことされたら相手を罵ったりもがくなり何らかの抵抗を見せるはずだが六人の不良は以上に静かだ。
結構早く回されている上、首も絞められているのだから苦しい&気持ち悪くなるわけで全員こみ上げてくる吐き気を必死で押さえている。何か音を発すれば嘔吐してしまうというほどギリギリなわけである。
炎魔は彼らを数十回まわした後一人ずつ解放した。
絡まってきた不良は一人悶絶、後は息を荒く立て地面に転がっていた。
白髪をかき、心底呆れた顔でその場を去った。東区を出て、本校舎へと通じる道を見つけ、それを頼りに本校舎にいこうとした。
その時に突風に会った。右腕で目を守り、風が過ぎるまで待とうと思っていたら今度は竜巻に襲われた。
炎魔が状況を理解できる前に体が風で宙に浮き始めた。そして竜巻は炎魔を高く飛ばし、本校舎の裏にある南区へと連れ去った。
飛ばされている途中、炎魔は竜巻の影響でめちゃくちゃに振り回されていて一体何処に飛ばされているのかは見えなかった。
しばらく立った後、竜巻が収まり、炎魔は後頭部を強打して地面に落ちた。
「☆∠@~%^&*()」(*&^%)」と訳の分からないことを言いながら後頭部を押さえながらごろごろとのた打ち回った。要するに痛いわけである。
「随分と派手な魔術つかってるわね。」と女の子の声がかかった。
炎魔は後頭部の痛みを無視し、素早く立ち上がった。
どうやら知らない建物の中へと運ばれたらしく、もう外ではなかった。
部屋は広く、丸い形をしていた。上にはシャンデリアがつる下がっており、台所やトイレもあり、ちょっとした豪華な一室アパートという感じだった。さらに小さな木やサボテンも飾ってあり、独特な雰囲気を漂わせていた。部屋の真ん中には丸い形の半径2メートルの机があった。それには六つの背中の部分が王座みたいな椅子があった。
そして北方面の窓には何故かソファーがあり、先ほど炎魔に声をかけた主が座っていた。
それはクラスで炎魔の後ろに座っているちょっと癖毛の金髪ポニーテールの美人だった。
クラスで見せたつまらなさそうな表情はなく、今はまるで新しいおもちゃを発見した子供のように眼を輝やせ、口がニンマリと歪ませていた。そしてその手には望遠鏡が握られていた。
「さっきの喧嘩は一部始終見させてもらったわよ。」彼女はニマニマしながら言う。「ただのそこら辺にいるような雑魚チンピラかと思ったけど転入生にしちゃ中々やるわね、森永クン。」
「誰が森永だ!?俺には鬼崎炎魔って名前があんだよ、嬢ちゃん。」炎魔は少しキレる。
「私の名前は雷神アテネ(らいしん あてね)、龍牙魔術学園生徒会長よ。」とポニーテールは炎魔を無視して自己紹介する。「ちなみに、私のことを雷神とかアテネって呼んだらまたさっきみたいに飛ばすわよ。」
「じゃあ、どう呼べばいいんすか、お・ひ・め・さ・ま。」と炎魔は最後に皮肉を出来るだけ込めて聞く。
「あら、察しがいいわね。」アテネはいっそううれしそうに笑い、ソファーから立ち上がった。「私はこの学校でそのあだ名を貰っているし、気に入っているからあなたもそう呼びなさい。」
ただ教室に戻りたかっただけなのに竜巻に巻き込まれ、知らない場所(とは言ってもまだ初日だから知っている場所のほうが圧倒的に少ないから当たり前と言えば当たり前だ)に放り込まれ、そして傲慢と言っても過言ではない女の子と対峙し、姫呼ばわりするのを要求され、そして何故竜巻を巻き起こし、彼をここへ連れて来たのかの理由も聞かされていない。炎魔が嫌な予感を抱くのも無理も無からぬことであろう。
しかし竜巻を引き起こしたと聞いたときには炎魔は内心、感服した。
何故なら風系の魔術は繊細な動作は恐ろしく難しいとされている。普通の風系の魔術師が竜巻で人を運ぶ時は必ず嘔吐し(運ばれている人が)、関節をすべて折られている。最悪の場合死んでいる。それだけ竜巻の加減は難しいのだ。それをやってのけ、相手は大丈夫だったかも見ない余裕は16歳の少女にしてはかなりの実力を持っている事が伺える。
「で、俺をここまで運んでくれたには大した理由があんのか、姫っち?」と炎魔は聞く。初対面の人を姫と崇めることは炎魔のプライドが許さなかったので他の呼び方を考えていたら姫っちにたどり着いてしまった。
「お姫様と呼びなさい。ここに連れて来られた理由?それはね・・」アテネは一瞬間を置いた。「面白そうだから。」
「は?」
「優ちゃんの聖域を犯してもまだ生きていて、白髪に赤眼で、目付き悪くて、不思議な力を持っていて、まだ一日目なのにもうこんなに騒ぎを起こして最終的に喧嘩までしちゃってる。こんな人を生徒会に加えたら学園生活が楽しくなると思ってここへワザワザ運んであげたのよ。」
「なるほど。が、俺は生徒会には入んないぜ、残念だったな。」炎魔は余裕をかますがそれでは逃げられない気がした。
「あら、もう入れちゃったわよ。」とアテネは炎魔の嫌な予感を的中させ、何処から出したのか申込書をぺらっぺらっと振る。「あんたの自由意志なんて必要ないのよ。」と言い、悪魔のようにニカッと笑う。
「早っ!!しかもひでえ!!!」炎魔はつっこむ。
「今日からあなたは生徒会雑務係に決定するわ。」アテネはさらに続ける。
「しかも最低なポジションじゃねーか!!」炎魔はアテネが持っている紙を奪おうと彼女へ向ってダッと走りだす。
がそれはいきなり巻き上がった突風によって拒まれ、炎魔の視界を一瞬遮る。突風が過ぎるとアテネの後ろにあった窓が開いており、彼女はその窓際に立っていた。
「コレをいまから松平学園長に判子を押してもらえれば鬼崎クンは晴れて私の生徒会の一部よ♥ ちなみに生徒会は途中からは引退出来ないし、出来たとしても‘最後まで成し遂げられない奴‘として学園生活に響くわよ。それじゃあね♥」と言って窓際を蹴り、外へ飛んだ。
何とか捕まえようと炎魔も窓際にジャンプするがアテネはもう風の力で空高く飛んでおり、もう捕まえようが無かった。炎魔は歯軋りしながら昼間飛べないことに悔しんだ。
アテネはその姿を見て子供のように腹を抱えて笑い出した。
その笑い声は青い空に響き渡った。
無理やり生徒会に入れられた炎魔、一日だけでどんだけひどい目にあってんだ?ちょっと多くね?
ま、こんなくだらん話でも読んでくれている人たちがいて、正直うれしいですね。ちょっと表現がへたくそですが大目に見てください。それかコメントでも書いて、間違いを指摘してくれればうれしい限りです。
ちなみに生徒会室の説明があやふやになっちゃってすんません。後にマシなものにするんで。