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転校生って謎めいた存在だけど結局お前らと同じなんだよ!!

「チクショー、痛ってー。」炎魔は頬を押さえながら呟く。

先ほどの吹き荒れる風で捲れてしまったスカート。

その下にある男の夢を跡形もなく潰すスパッツ。

そしてそれに続く回し蹴り。

人間とはやれば短時間で途轍もない被害を出せる生き物であると同時にそれと同じくらいに被害に合うことが出来る。前者は十分な悪意があれば成し遂げることが出来る、だが後者は悪人だろうが善人だろうが関係なく運によって降り注ぐ。

昨晩、バズーカ被害に会い、悪い噂が流され、そして今朝はボコられる羽目に合った炎魔は不運を通り越して呪われている感じだった。

「まだ学園のチャイムの一つも聞いちゃいないのにもうこの様だと先が思いやられる。」彼は深いため息をついた。

「そうですね。」先ほど土方優を止めていたゲル金髪の少年が同意する。

土方優のスカートの中身スパッツを目撃した炎魔を回し蹴りした彼女はそのまま表情一つも変えずに学園の校門へ向った。

もう暴力的行為に飽きてしまった炎魔は、その蹴りが無かったように振る舞い、彼に職員室への案内を頼んだ。

すんなりひきうけてくれたので内心、拒否の予知をしていた炎魔を驚かせた。

というわけで二人で職員室へと向っていた。

「ところでよ」炎魔は尋ねる。

「何でしょう?」前を歩くゲル金髪少年は返す。

「お前、なんていうの?」

「おお、これは申し送れました。近頃人とのコミュニケーションは最低限にしかしてなかったので、つい忘れてしまいました。僕は一年A組、テュラエル・エンジェルダストです。以後、よろしくお願いします。それで君は?」

「俺は鬼崎炎魔、クラスはまだ知らない。師匠と山篭りしてたから少し常識がなっちゃあいないからよろしく。」炎魔は内心、普通の会話が成立しているのを感動した。

「すごい名前ですね。」テュラエルは苦笑した。「その上山篭りとは・・・さすが一夜で悪評が立つだけありますね。」

「いや、俺ただバズーカで撃たれただけだから。」

「でもあの土方優さんに半殺しにされ、ワザワザ追いかけてくる所を見ますと禁断の実を食べる行為に勝ることをしたことは明白です。」テュラエルは面白そうに唇を歪めた。

「う、・・まあ、いい物を拝ませていただいた。」炎魔は小さく言う。

「やれやれ、初日であのお嬢に目を付けられてしまうとは・・・」テュラエルはクックックと笑う。

「何かまずいか?」炎魔は胸に広がる不安を飲み込み、尋ねた。

「まずくはありません。」まだ笑いながらテュラエルは答える。「はっきり言えばヤバイです。今まで彼女を相手にしてただで済んだ人は今のところ君だけです。」

あそこまでやられて‘ただで済んだ‘ということ、土方優は普段何をしているのだろうか?というより何故炎魔はその程度で済んだのか。

「本来なら男を病院送りにするまでやめませんが、君はプライドを捨て、土下座で謝罪したためその程度で済んだのでしょう。」テュラエルは分析する。「ちなみに、あのお嬢に手を出さないほうがいいですよ。絶対、君には落とせませんから。」

「うん、て言うか何の話?」と炎魔は突っ込む。

「そしてここが待ちに待った職員室です。」

彼らは引き戸の前に着いた。‘職員室‘と達筆で書かれたプレートがその上にぶら下がっていた。それ以外は別に何の変哲も無いところで案内がなければ確実に迷う。職員室は校舎の最上階の左端にあり、他の三年のの引き戸と同じで知っていなければ見つけることは出来ない。

「では、僕はこれで生徒会の仕事がありますので、失礼させていただきます。また縁があれば会いましょう。」テュラエルはそういい残し、去っていった。

炎魔は呼吸を整え、緊張している自分自身を落ち着かせ、引き戸をノックして開けた。

そこで見たというか見えた光景は炎魔の心臓を一瞬止めた。

雲を突くような大男がそこに立っていた。服装はジャージだが視線を顔に上げるとアイスホッケーで使われる仮面をかぶっており、その後ろから生える髪はまるでベ○―タのように天井を突いた。

今職員室から出ようとしたのか、引き戸を潜ろうと背中を曲げさらに怖さを増していた。

「おはよう、職員室に何か用かな?」と大男は低いが穏やかな口調で挨拶をし、要件を尋ねてきた。

「お、おは、おはようございます。」声を震わせながらも挨拶を返す炎魔。「え、ええと、実はお、俺、転入生の鬼崎炎魔と、と申しまして、と申しまして、ひ、ひじか、土方先生はおりま、ままっま、ませんか?」

こ、怖ええぇぇぇぇぇぇえええっぇぇぇぇぇえ!!!!何なんだよ、なんで先生が仮面かぶってるんだよ!!!しかもその髪型とセットだとさらに怖ええええぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!と炎魔は叫びたがったが声にならなかった。

「おお、君が鬼崎炎魔君か!話は学園長から聞いているよ。私が一年B組の担任、土方兇路ひじかた きょうじだ。そしてこれから君の担任となる者だ。まだ新米教師だがよろしく。」と土方先生は喜んで炎魔の手を取り握手をした。

手を振られながら炎魔は絶望の淵に落ちていった。気分的には口から魂をだして三隋の川を渡れそうな気がした。

師匠、飛竜の卵を盗むのも難しいですが・・・・人と付き合うって残酷ですね・・・・というかコノ人こそに俺の名前が合うんじゃね?




炎魔は引き戸の前に力なく突っ立ていた。凶相巨漢の土方先生に教室へ案内され呼ばれるまで外で待てと命令・・・もとい指示に従い、彼は立っていた。

体中から危険信号が張り裂けるほど鳴り、緊急撤退体制に移行するように体が悲鳴を上げていたが炎魔は逃げなかった。というより逃げられなかった。

ただでさえ怖い土方先生なのに、追いかけられたらさらに怖さを増すだろう。そうすれば体の緊急避難命令は取り下げることが出来なくなり、挙句の果て、炎魔は追い詰められ崖から飛び降りてしまうかもしれない!

教室ではホームルームで先生が連絡事項を告げている間、一年B組は生きているのかを疑わせるほど静かだった。無理も無いと言うか、当たり前と言うべきか。

そして「では今日、皆さんに新しい仲間を紹介したいと思います。入ってきなさい。」と中から低い、土方先生の声が炎魔の胸を矢のように射抜いた。

ひっひっふ~、ひっひっふ~と間違えた呼吸法をしながら炎魔は教室に足を踏み入れた。

教室は凶相巨漢の土方先生をぬけば何も変哲も無い学園ドラマでよく見る教室とほぼ一致していた。

クラスは25人程度で顔から判断すれば大半は性悪の顔にそれに似合ったアクセサリー、たとえばピアスやリーゼント、を装着していたが土方先生に恐れをなしてきちんと座っている。皆、先生を怖がっていると思いきや、二人だけ他のクラスメートの様に怖がっていなかった。一人は廃校寸前の学校にいそうなおさげでベタに厚いメガネをつけていた。そしてもう一人は窓際の一番後ろの席に座っており、ありえようか外を眺めていた。かなりの美人で男ならだれでも見とれてしまうような美しさがあった。金髪をポニーテールに縛り、眼はなんと右がエメラルドに匹敵する鮮やかな緑色でもう片方は深い海のような蒼だった。彼女の光景はさきほどから怖い土方先生しか見ていなかった炎魔の眼を癒すオアシスのようだった。

その癒しを糧に彼は土方先生の隣まで堂々と歩いた、これが後に厄介ごとを招くことを知らずに。

「自己紹介をお願いしようか。」土方先生は何故か喜んで頼んだ。恐らく炎魔があまりビクビクせずに近づいてくれたのがうれしいのかもしれない。

「みなさん、始めまして。俺は北地方から来ました鬼崎炎魔です。」と炎魔は自己紹介し、名前を黒板に書いた。「田舎モンで迷惑懸けるかもしれませんがどうぞよろしくお願いします。ちなみに喧嘩に自信があるので俺に挑まないほうがいいです。」

クラスの空気が最後の方で一瞬変わったがすぐに正常に戻った。だが金髪ポニーテールの娘は夏の景色から目を背け、今度は炎魔を捉えた。彼の心臓がドキッと高鳴った。

「はいよろしく、鬼崎君。皆さん、拍手。」炎魔は自分の自己紹介なのにクラスと一緒に拍手してしまった。土方先生の声で頭が現実に戻ってきてしまい、ついでに背中に冷たく張り付いた恐怖心も一緒に。

「では君の席はあそこだ。」先生が指差したのは窓際の最後の列の前の席、つまりあの金髪美人の前だ。

炎魔はすり足でその席に着いた。

「ではホームルームを終わります。また帰りのホームルームで会いましょう。」そういい残して土方先生は教室から去っていった。

一分後、全員が同時にプハッと息を吐き、それまで支配していた沈黙が破られた。


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