女の子の噂話は陰湿のが多いし、早く広がる
「随分と手酷くやられましたね、鬼崎さん。」林さんはゲルに包まれた炎魔に言う。
「他人事みたいに言ってんじゃねえ。」炎魔は抑え殺した怒りで満ちた声で文句を言う。
炎魔はバズーカで撃たれた後、全身火傷を負い、向かいの壁に壁画同然に埋まっていた。少女は赤くなりながらタオルを巻いて隣の部屋へと逃げ込んだ。
林さんは炎魔の状況をじっくりカメラで撮り、彼の白髪を引っ張って壁から抜き出し、悲鳴を上げているのも関わらず部屋へズルズル引きずりハンモックの上に乗せた。そしてエプロンから黄色く薄い玉を取り出し炎魔の鼻の押し付けた。すると玉は溶け、体表面に広がり、ゲルとなって包み込んだ。
「ま、その‘癒しジェル‘包まれていれば明後日には直りますよ。」林さんは炎魔のコメントを無視してそう告げた。
「こんなん、一日で直る。」炎魔は歯軋りに言う。「というか何で俺の部屋にあんな女の子の形をした化物いんだよ?!」
「彼女のシャワーは壊れていて、私がこの部屋のシャワーを使うのを許可したからです。」
「ひょっとしてこんなことが起きることを期待していたのか?」炎魔は口元を引きつらせながら聞いた。
「はい、そうで・・・滅相もありません。」
「いや、今‘はい、そうです‘って言いかけたよな?!!」
「ちなみにさっきの娘は土方優、一年であなたと同い年です。」寮母は説明する。
「聞いてねーよ!!大体何でハンモック?!」
「前に住んでいた女子がベッドを壊してしまいまして、何も無いよりハンモックでも置いとこうかと・・・・」
「ベッドを壊したんだ、壊れたんじゃなくて。ある意味すげーな。」
「まあとにかく、私は厨房に行かないといけませんのでここで失礼させていただきます。明日、朝食は七時から、そして八時半に職員室で土方先生を呼び出してもらいなさい、以上。」
そう言うと林さんはさっさと部屋から出て行ってしまった。
次の日の朝。
炎魔は昨晩、夕食にありつく事が出来なかった。癒しジェルは怪我人再生力を以上にまで早めることが出来るが、その代わりに体の自由を奪う。そんなわけで悲惨な目にあった上、飯抜きにされた炎魔のご機嫌が斜めなのは無理も無かった。彼は制服を着て、昨日紹介してもらった食堂へと出向いた。女子寮だけで在って、女の子にしか出くわさなかったというか炎魔以外の異性がいたらいたで大騒ぎになる。
女子は全員、龍牙魔術学園の紅いセーラー服を着ており、古い形の制服でも時代遅れの雰囲気は全く無かった。
食堂は広く、長い机に椅子が並び、質素な雰囲気を漂わせた。
がしかしその雰囲気も炎魔が食堂に足を踏み入れたとたん消え去った。しばしの沈黙が訪れた後、その場はヒソヒソ話でいっぱいになった。時には炎魔に指を指すものがいれば真ん中指を見せる者もいた。だがそれよりも女子の視線が異様なほどに禍々しいものがあった。
ヒソヒソ話しがあまりにも多く、炎魔には彼女らが何を話しているのかは判らなかったが自分の事であることは疑いようも無かった。
彼は嫌な目をしている当番の娘から食事プレートを受け取り、一番奥の人気が薄い席に着いた。ちなみに朝食は味噌汁にご飯に本来なら魚なのだろうが、今は煮干が二個置いてあるだけだった。腹ペコでこんなに酷い扱いで機嫌が直る人間は少なかろう、が事を荒立てれば面倒なことになると思ったため炎魔は黙って食べた。
「ほう、本当に直っていますね。」後ろから声をかけられる。
振り向くと寮母の林さんが立っていた。
「今日はまだ火傷に苦しんでると思って新しい‘癒しジェル球‘を持ってきたけど無駄のようでしたね。」
「ま、でもこんだけ殺意が漂ってればまだ俺に使うチャンスはあるんじゃないんすか?」炎魔は不機嫌に言う。「まだ一日しか立ってないのに何すか、コレ?」
「ああ、これはですね。私が昨日の爆発の件で質問攻めに合っちゃってね、君が土方優さんのシャワーシーンをケダモノのように覗いて君の鼻血があの爆発を引き起こしたと言ったら皆さん顔色を悪くされて緊張していましたね。」寮母は手をポンと打ちながら説明した。
「おいいいぃっぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!フザケンナ!!!何嘘を教えてんだぁぁぁぁぁ?!?!?一㌫も合ってねーじゃねーか!!!そんな嘘教えりゃ誰だって俺に敵意を抱くだろうよ!!!つーか何でそんな陰湿な嫌がらせをするんだ?!俺に恨みでもあんのか?」炎魔は大きな、爆発的な声で怒鳴った。バズーカで撃たれて、変態ケダモノ扱いになる羽目になった炎魔の憎悪の炎は激しく燃え上がった。
「実は私、男性が嫌いでしてここの可愛いお嬢さん方が騙される前に釘でも刺しておこうと思っての行動でしたので。」林さんはにっこりと炎魔に笑いかけた。
しばらくの間、炎魔は林さんを睨みつけていた。彼の影が波立ち、眼も猫のように細長くなった。が何もせずに席を立ち、食堂を去っていった。