男の子みたいな女の子って現実にいるの?
第二十一章
「‘若手芸人の浮気率は95パーセント。政府は浮気を罰即にするか検討‘だって?そんな下らねえこと検討してる暇あんなら仕事しろってんだよ。もしくは高層ビルの階段をうさぎ跳びで上ってろってんだ。」
鬼崎炎魔は新聞を読みながらあさっぱから政府に文句をブツブツ言う。
彼は龍牙魔術学園病院施設を担当している林さんが持ってきた朝ごはんを食べ終え、その人が読み終えて置いていった新聞を読んでいた。
他にも大国メリケンが不況に陥った話や新しい義手の誕生、病院に怪しい黒い影の出現、墓があらされた、とある会社の牛のひき肉は実はワニのひき肉だった等々、どうでもいいことが書いてあった。
しばらく経った後、「失礼します」という声と共に引き戸が開かれた。
「お、雪白おはよ…う?」声の主が雪白だと思っていた炎魔の挨拶は途中で疑問系に変わってしまった。
三つ編みオサゲで眼鏡の地味な姿がトレードマークだった雪白。
今はその姿は見間違えるように変わり果てていた。
髪は肩の上ぐらいまでに短くカットされ、頭の両サイドに髪の毛の一部が束ねられていた。
そして眼鏡はもうかけておらず、こちらのほうをうつむいていた。
スッピンだった顔に薄く化粧を施しており、素の良さを有り得ないくらいに引き出していた。
髪と眼鏡と少しの化粧を施した結果、雪白は地味子から美少女に進化した。
「グッジョッブだ、ヒメッチ!!」炎魔のテンションは高ぶった。
「鬼崎君までそんなこと言わないでよ、も~。」
どうやら炎魔みたいなリアクションにはもう遭遇済みらしい。
足をモジモジして真っ赤になって照れている。
その可愛い仕草はレーザー光線の如く、炎魔の胸を貫いた!
「いや、だってお前、変わりすぎだろ! 学級委員長タイプの地味な子が、あ、地味って言っちゃったよ、まあいいか、地味な子が学園のマドンナ候補に入ってもおかしくないくらいに変わっちまったんだぞ!男として高ぶらなかったらおしまいだろうが!」と炎魔は暑く語る。
「うう~、でもお。」雪白は涙目になる。「そのかわり生徒会長さんにセクハラされるし、鳳凰さんにも写真を撮られて‘生徒会新聞でグラビアページを追加するぜ‘なんて言い出すし…」
「何?!よし、ちょっと買いに行ってくる!!」転入以来、最高の高ぶりを見せる炎魔だった。
「そういうと思って持ってきたぜ!」と待っていましたと言わんばかりに引き戸が開き、満面の笑顔で鳳凰光が入ってきた。
「‘生徒会長と優等生の熱くてイ・ケ・ナ・イ・恋!♡‘ 今日を持って発売だぜ!」
「でかした!!」炎魔は興奮して赤毛の少女が差し出してくる生徒会新聞を掴もうとする。
「ダメエエエェェェ~~!!!」雪白は顔を真赤に絶叫を上げ、炎魔がつかめる前にそれを奪い去った。
そして掌からバスケットボールぐらいの大きさの水球が現れた。どうやら彼女は水系のエレメント魔術を扱うらしい。
生徒会新聞はその水球に放り込まれた。その中で回され、潰され、そして最終的に破れた。
「もう、鬼崎君のバカ!!」捨て台詞と共に新聞の残骸を丁寧にゴミ箱に捨て、病棟から走り去っていく。
「ちょっとイタズラが過ぎちゃったね。」鳳凰光はそう言いながらもクヒヒと笑ってるところを見ると反省はしていないようだ。
「本当はグラビアページなんて無かったんだろう?」
「鋭いね、君。ちょっとハレンチ過ぎて学園長からダメだしされちゃったぜ、鼻血出しながら。でもレイレイの写真が載っていることは本当だぜ。」
「レイレイ?」炎魔は首を傾げる。
「雪白さんのこと。生徒会に入る皆、ニックネームを付けられるんだぜ。」
「へー…っていうか雪白は生徒会役員だったのか?」
「うん、つい昨日から生徒会書記、元書記のエルを会計に回してね。」
「ふーん、ところでお前も生徒会役員なのか?」
まだ紹介されていないが昨日からアテネ達と一緒にいる。
「そ、生徒会新聞記者、鳳凰光とはこのアタシだぜ。」
自慢げに胸を張る。
しゃべり方のとおりにかんぱつそうな女の子だ。土方優のスラッとした体付きとは反対に少ししっかりとした肉つきだがフェロモンの分泌量が多いのか、女性らしくしなやかな感じのスタイルだ。外で行動していることが多いためか少し肌が日焼けている。
だが何よりも目立つのは子供のような純粋な、そして周りを照らすような笑顔に水色のカチューシャをつけた肩まで伸びている燃え上がるような赤い髪。アテネや優を‘綺麗‘の分類に入れるとすればこちらは雪白と同じ‘可愛い‘に入る。
「一ヶ月に一度発行される新聞で学園での出来事とか新事項に生徒が書くエッセイとか載せるモンだ。一部五十円だからいっぱいじゃないけど結構売れてるんだぜ。」
「へ~、そして今月のにはあの決闘の事と飛竜のネタがあるから売れ行きが良いと予測出来ると?」
「絶好調になるは間違いないぜ!」鳳凰は親指をグッと立てる。
「そしてさり気なくに今の生徒会のアピールして支持率を高めるという魂胆か。」
「ギクッ」鳳凰に視線は泳ぎ始めた。
「生徒選挙で決まった生徒会じゃないから大方、支持率はそこまで無かったんだろう?というか前生徒会長の計画がバレて生徒会そのものの信頼が落ちちまったからそれを盛り返すためにこういうイベントを定期的にやって、現生徒会の実力を見せ付ければ支持率を地味にアップするってとこか?」
実は炎魔は何時も薄い布団や野宿だったのでベッドは今回で初体験なのだ。
それに何故か緊張してしまい、昨晩眠れなくなってしまったのだ。
眠る時に寝ようとすればするほど目が覚めていくという現象に炎魔は陥ってしまい、色んなことを考えていたら決闘の矛盾さに気付き、推理と仮説を立て、その結論にたどり着いたわけである。
生徒会役員として暴力を振るって問題になるのは当たり前だ。
だから罰せられる覚悟をしていたが、それが決闘になるのはあまりにも変というかバカらしい。
それだから炎魔も最初指定された場所には行かなかったのである、そしていくつもりも無かった。
しかし電話(生徒手帳)で土方先生を使って脅されてしまっては行かねばならなかった。
炎魔は前に土方先生に生徒指導室へ連れて行かれたときがあったが何をされたかは覚えていない。
思い出そうとすれば体が震え始め、冷や汗が体全体から滝のように流れ始め、屋上に行き、鳥になろうと思ってしまう。
何かとんでもないことをされたのは明らかでそれで脅されて結局行ってしまった。
そして決闘では炎魔は一勝さえすれば彼の勝利、どう考えても生徒会にとって不利なルール。
そこで転入早々、悪名が響き渡っている炎魔に全勝すれば支持率はアップに繋がる。
「バレちゃあ、しょうがないね。」鳳凰はぺろっと舌を出す。
「いやあ、君の言うとおりこの生徒会ってまだ結成されてから日が浅いんだよ。今は六月の真ん中だから出来てから一ヶ月がたったころかな?」
「おいおい、お前らこの学園に来て二ヶ月で前生徒会を粉砕して、新しく一年で構成されている生徒会を作ったのか?ある意味スゲーな、おい。」炎魔は呆れながらも感心する。
「まあ、はっきり言えばあの姫が全部一人でやってのけたんだ。入学する前から色々調べてたらしいぜ。それで持ち前の美貌で前生徒会長がスケベ心をくすぐってそいつの生徒会に入って蹴落としたんだってさ。アタシや優とかは後からスカウトされて入ったってわけ。どうだ、すごいだろ!」
「何故そこで鳳凰さんが自慢げなんだ?」炎魔は冷ややかに突っ込む。
「ところでこの週末、一年は遠足じゃなかったのか?」
「ああ、それ、昨日の騒ぎでキャンセルになったぜ。ま、アタシ達、生徒会は元々行けなかったからどうでもいいんだけどな。」
「は?何で?」
「二週間後に体育祭があるからに決まってるからだぜ。」ここで鳳凰の口調に熱がこもる。
「体育祭、別名‘龍牙体育武道際‘はこの学園の三大伝統イベントの一つだぜ!そこでは普通の学校ではやらない競技や魔術対決、そしてなんて言ったってラストを飾るルール無しのガチンコ対決!!あぁぁ~、話してるだけで燃えてきたぜ!!」
鳳凰は目を輝かせながら熱く語る。
「もちろん、炎魔も出るよな?!あの決闘で見たぜ、三年生さえ余裕に撃退できる優と互角に渡り合えるなんて姫以外初めて見たぜ!!お前なら優勝も夢じゃないぜ!!」
「鳳凰さん、とりあえず、少し落ち着け。」炎魔は彼女を宥める。「ベッドカバーが焦げ始めてるから落ち着け。」
彼女は熱く語る内に炎魔のベッドに近寄っていた。
それだけなら問題ないが何故か彼女の周りから蜃気楼が見え始めた。それに布と触れている部分が少し茶色になっていき、煙が出始めている。
「あ、わりい。」彼女はそう詫びると纏っていた熱気と蜃気楼が消えた。
「アタシって興奮すると周りを燃やしちゃうんだよな~。アタシの一族、鳳凰家って昔からの家柄で別名、燃える家系って呼ばれてて一代目頭首は文字通り、‘鳳凰の化身‘だったんだ。だからいまのように無意識に炎の魔術を使っちゃってる時もあるから、普段リミッターをつけてんだけど、役にたたねえなこれ。」
そう説明するとカチューシャを外し、不満そうに見る。
「それも結構だが病棟は燃やすな。何が引火するかわかんねーだろうが。」
炎魔は頭を掻きながら言う。
「気にするな~、その時はアタシが守ってあげるぜ。アタシの一族は全員‘炎の加護‘があるから火じゃあアタシ達を傷一つも付けられないぜ!」えっへんと鳳凰は威張る。
「さてと、アタシはそろそろ帰るぜ。ちなみに‘エンエン‘と‘エンみゃん‘、どっちがいい?」
「は?」炎魔は豆鉄砲を食らった顔になる。
「いや~、君のニックネームを何にするか今、生徒会で大議論中なんだ。アタシは‘エンエン‘がいいと思うんだが姫は‘下僕‘、優は‘ウジムシ‘、エル(ちなみにテュラエルのことね)は‘ローションの素晴らしさがわからない神に呪われるべし忌むべき存在‘がいいと言ってるんだけど君はどうなんだ?」
「わあ~、素敵なニックネーム候補だね、どれにするか迷っちゃう、なんて言うかああ!!」と炎魔は突っ込む。
「どう考えてもただの嫌がらせじゃあねえかあ!!最後の野郎はもはやニックネームですらねーし!」
「まあまあ気にすんな。」鳳凰は今度はニシシと笑う。「お互い、生徒会役員としてがんばろうじゃねーか。あ、後アタシのことは‘ヒカリ‘って呼んでいいぜ!、それじゃあな!」そういい残して鳳凰光はスタスタと病棟を去った。
「ふん、太陽の如く輝いてやがるぜ」そう言って炎魔は昨晩取れなかった睡眠を取るべく眠りに陥った。