表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/23

決闘の末に…

龍牙魔術学園は魔術師の少年少女が学び、鍛錬し、魔術を極める場所である。

それに故、事故や怪我は普通の学校の医務室では手に負えないため、龍牙魔術学園は医務室というよりも小さな病院みたいな施設がある。そこの設備は万端で必要とあらば手術も可能である。


「何で龍女(龍牙魔術学園の女子寮の略)の林さんがここで俺の治療してんですか?」と炎魔は躊躇いも無く不満をたれる。

あの決闘の後、やっと警察が来て、墨の塊と化した飛竜を収集し、捜索を始めていた。そして唯一、大怪我を負った炎魔は学園の病院施設に運ばれ、超強力の癒しジェルを塗られた。

奇跡的に内臓は無事だったから手術する必要も無く、担当の保健の先生とやらに手当てされることになった。

そこで現れたのが寮母の林さんだった。

「私も元々、ここの担当だったんですけど、前任の寮母が引退したんです。それで学園長がクジを引いて、この私に白羽の槍が刺さったんです。」と林さんがブルーなノリで炎魔の不満をそり流す。


「大丈夫ですよ、腕は保障しますし、変なこともしませんよ。」

「肋骨が折れてるってのに俺を強制する一歩手前だったじゃねーか! 何が『腕は保障します』だ、それに変なことしないって、もう動けない俺の腹に猫の絵描いてんじゃねーか、飲み会じゃねえんだよ!!」

「あら、でも素敵ですよ。」

「嘘つくんじゃねえ!! おまけにヘタクソすぎだろ、コレ!! どこの世界に翼生えてる猫いんだよ!!」

「一々文句多いですねー。そんなんじゃ女の子に嫌われますよ?」

「こんな事する女の子いねえよ!!」


「取り込み中、失礼する。」

二人の不毛なやり取りに終止符を打ったのは松平学園長だ、炎魔のベッドを囲んでいるカーテンを空け入ってきた。

「大丈夫か、鬼崎君?」と松平は尋ねてくる。

「はい、まあ、なんとかなりますよ。それより学園長こそ大丈夫ですか、なんか左頬が赤いんすけど…」

「いや、これは気にするでない」学園長は慌てて答えた。「要するに君が無事だって事じゃ。では鷲は失礼する!」

いきなり入ってきたように去る松平学園長。何しにきた?


「はい、とりあえず治療はこれでおしまいです。完全回復には最低でも四日かかります…がくそむ・・・糞虫の場合は明日には治ってるでしょう。」

手当てを終えた林さんは近くの洗面器で手を洗い、炎魔にそう告げる。

「言い直した割には糞虫のままかよ、おい。」

炎魔は静かなる怒りを燃やしながらつっこむ。

「ではまた明日。」

林さんは炎魔の怒りを物ともせずに白衣を椅子にかけ、病棟を去った。

一瞬呼び止めようと思った炎魔だが意味がないことを悟り、やめた。


夕日で赤く染まる病棟に炎魔はため息をついた。

変な決闘に巻き込まれ、飛竜が現れ、そしてあまつさえ肋骨を十本も折るという大怪我を負ってしまった。

ここまで理不尽に事が進むと炎魔が不機嫌になるのは無理もないことだ。

それにこの怪我で遠足には行けないことは明白だ。

炎魔も一応、一年全員とまではいかないが他のクラスの人と触れ合う機会を楽しみにしていた。

山で修行中には同年代の子とは殆どつるんだことが無い、だからこそ遠足とは言えどもわくわくしていた。


炎魔が赤い夕日に浸っている病棟で暇を持て余して向かい側の戸棚に入っている容器を数えていると「失礼します。」と言うと共に雪白鈴奈が入ってきた。

「お~、雪白か。元気だったか?」

「鬼崎君の方は大丈夫なの?飛竜に踏み潰されてすごい悲鳴上げてたけど…」と雪白は心配そうに訊ねてくる。

「ああ、なんとかな」炎魔は余裕そうに答える。「肋骨十本もやられたけど、明日の夕方には治る。内臓に怪我無くて助かった。」

「ええ?十本も?!」と雪白は驚く。

「ああ、綺麗に両側五本ずつ。まあ、飛竜相手に踏み潰されそうになってこの程度で済んだんだから奇跡的に運が良いな、俺。」

「そうなんだ… でもそれじゃあ明日の遠足は無理だね。」と雪白は言う。

「そういうことになるな…」「お見舞いに来たよー!!」

病棟の引き戸が勢い良く開き、元気ででかい声が響き渡った。

そして足を踏み入れたのは生徒会の決闘を実況をしていた紅いセミロングの鳳凰光に生徒会メンバー全員、つまり雷神アテネ、土方優にテュラエル・エンジェルダストだ。


「ビビッたー、ノックしてから入れ!!」

突如の乱入に心臓が止まるほどビックリした炎魔は怒鳴る。

そして嫌な予感が炎魔の脳内を横切った。

炎魔も一応、生徒会の一員なのだが生徒会に関わる度に悪いことばかり起こっている。

それにアテネがお見舞いなんて可愛いことをするような女ではない、と炎魔は確信している。無理も無いことだけど。

さらに男嫌いの土方優が加わると不気味さを増し、炎魔の不安を駆り立てる。


「聞いたわよ、肋骨十本しか折れてないんですって?」挨拶もせずにアテネは隣の患者ベッドに座り、不満そうに言う。

「十本もだ!言っとくけど、超いてえんだぞ!!」炎魔は早速つっこむ。

「では、僕が君の足にローションを塗ってあげましょう!」テュラエルの手にローションチューブ(1450円)が現れた。

「俺の足にローション塗って、なにが解決するんだ?!つーかマジでやめろ! てめえの鼻に突っ込むぞ!!!」

「お願いします!! ローションを鼻に突っ込むと知能が上昇する効果があります!!」

テュラエルは興奮した顔つきで炎魔にローションチューブを手渡す。

「ローションにそんな効果があってたまるか!! お前は知能以前に常識を学べ!!」と炎魔は怒鳴り、手渡されたものをテュラエルという変態に投げつけようとしたが外れて向かい側に立っていた骸骨の目の穴にはまった。


「そういえば鬼崎クン」テュラエルが飛んでいったチューブを骸骨から取り出している間にアテネが思い出した風に言う。「責任、取ってもらうわよ。」

「は?なんの?」

「あなたのせいで私の『優ちゃんブラブラ計画』が台無しになっちゃったのよ! あともう少しで成功しそうだったのに!!」アテネはよほど悔しいのか、歯軋りする。

「知るかそんな計画!! ってか何で俺のせいで台無しなんだ?!」

「せっかく堅物を絵に描いたような優ちゃんが、サラシ派からブラジャー派に切り替えたのにあんたが優ちゃんの胸を揉みまくったから、また戻っちゃったじゃない!!」

「そんな… 鬼崎君がそんなことを…」雪白がショックを隠せずに言う。

「ほんと、最低だよね。」鳳凰光は呆れながら肩をすくめる。

「いや、ちょっと待てえ!!」 炎魔は首筋に血管を浮かべて叫ぶ。

「確かに土方の胸を触っちまったかもしれねえけど、それは不可抗力だ!! おまけにそれも一回だけだ!! 土方、頼むから何か言ってくれ!」


炎魔は優に話を振ったが、優はただ虚ろに炎魔も見ているだけだった。

今更気付くが彼女は先ほどから一言も喋らず、虚ろな目でそこに突っ立っているだけだった。まるで生きる希望を失ってしまったかのように…

そしてどうでもいいことだが彼女の包容力の塊である胸が小さくなっていた。


「一回だけって何よ! 私はまだ一回も触ってないのよ!!何時もはサラシが邪魔だったし。」とアテネはブーイングを飛ばしてくる。

「お前はとりあえず同性愛から卒業しろ!!」

「僕だってまだ触らしていただいてませんよ?」今度はテュラエルまで参加する。

「当たり前だろ! お前が触ったら変態として警察に連行されるからだろうが!」

「アタシだって優の友人を長年やらせてもらってるけど今の優の胸揉んだことないんだよ!」

「おい、お前らいい加減にしろ! 同性愛が今流行りなのか?! つーか俺の見舞で何で土方の胸の話に火がついてんだ?」

「むむっ、鬼崎クンの隣に良い素材の青髪の子、誰?」とアテネはいきなり話の流れを無視し、雪白をロックオンした。

雪白は身に危険を感じたのか体を強張らせる。

「雪白鈴奈だろーが、お前のクラスメートでもあんだから覚えておいてやれよ。」炎魔はため息交じりに告げる。

「ほほーう、」アテネはニヤニヤし始めた。「プロデュースしがいがあるわね。」

「あのぉ…私、もう帰るね。じゃあね鬼崎クン。」

雪白は急いで椅子から立ち上がり、病棟から出ようとする。

が引き戸の所でアテネに肩を摑まれる。

「逃・が・さ・な・い・わ・よハート。必殺‘女神誘拐‘!」と言いながらアテネは雪白を小脇に抱える。


そして雪白の悲鳴が遠のいた。何故かテュラエルと鳳凰も『プロデュース開始』なんて言いながらアテネの後を追った。

病棟には炎魔と未だに虚ろな目をしている優は肩を落としたまま突っ立っていた。


「どうした、そんなしけたツラしやがって。決闘の時の潔さは何処に行っちまったんだ?」

「貴様にはどうでもいいことだろう。」とつれない答えが返ってくる。

どうやら優は精神的にノイローゼ状態のようだ。ネガティブ思考が口から吹き出てもおかしくないくらいに暗い。

炎魔に対しては何時も敵対的な態度でつかかってくるのが彼女の性。

まあ、初めての出会いがあまりにも過剰だったから当たり前といえば当たり前だ。

全裸を不覚に見られて良く思う女の子はそんなにいるまい。そして鼻血をたらしながら「ナイスバディー」と賞されたらなおさらだ。

炎魔は優とはそこまで話をしていないが、こんなブルーなノリは彼は大嫌いなのだ。まあ、炎魔も愚痴を滝のように零している時点で人の事は全く言えないが…


「おい、ちょっとそこに座れ。」炎魔は何か思いついたのか、命令口調でベッドの隣にある椅子に指差した。先ほどまで雪白が座っていたが今は退場中。

優は黙って従い、その椅子に腰掛けた。

ベッドの隣には椅子だけではなく、患者の小さな物が置けるようにちょっとした机がある。炎魔はそれを自分と優の間に来るように引っ張った。

「よし、腕相撲やろうぜ!」

炎魔は腕をめくり、肘を乗せる。

「は?」

いきなり腕相撲を挑まれて、優は困惑した顔で返す。

「何を言っているのだ、貴様は? 病人相手に腕相撲など出来るわけないだろう。」

「ほ~う、負けるのが怖いのか?」

口元をゆがませ、挑発的にニヤニヤする炎魔。

「そういう意味ではなくでだな、貴様は安静してなきゃいけないだろ…」

「そうだよな~、」炎魔は優をさえぎる。「病人相手に負けたら本当にはじだもんな~。」

言い方。声のトーン。そして哀れなものを見ている表情。すべてが優の神経を逆撫でする。

「貴様には肋骨が折れただけは足りないようだな、」拳をポキポキ鳴らしながら紅いセーラー服の袖をめくり上げ、炎魔同様に肘をその小さなテーブルに乗せる。「その腕の骨を粉末にしてやろう。」

「こえーよ! 腕相撲でどんだけやるつもりだよ?」炎魔は鼻白む。


二人は互いの手をつかむ。

優は怒っているせいか、炎魔の手を握りつぶそうとしているのかのような握力だ。

だが以外にもやわらかく、そして優しい感触が炎魔に伝わり、不覚にもドキドキしてしまった。

そして「レディ、ファイ!」と炎魔は号令をかけた。


数分後

つかみ合っている手はまだどちらにも倒れかけてはいなかったが震えており、場を緊張感で満たした。

が、いきなりプツンと紐が切れたように炎魔の腕が倒れ、大きな音と共にテーブルの上に叩きつけられてしまった。

元々炎魔には勝ち目は無かった、優の言うとおり怪我人だからだ。

肋骨を折られて全力を出せる人間はいない、さらに炎魔は骨折を治すために強力な癒しジェルを使われている。

前に使ったのと同様、縫って広がったジェルは筋肉をゆるませ、拘束する。

そんなわけで寝た姿勢で、しかも腹筋を使えず殆ど腕だけで挑んだのである。勝てるわけがない。


「どうした?その程度でおしまいか?」

今度は優が炎魔を挑発す始める。どうやら先ほどまで憂鬱は吹き飛んでしまったらしい。

「うるせい、」炎魔は返す。「こっちは怪我人なんだ、少しは自重しろ。」

「勝負を挑んできたのは貴様の方だろうが。」

「まあ、それもそうだけど…まあいいや、これでおあいこにしようや。」

「なんの話だ?」優は首を傾げる。「言っておくが私は負けていないぞ、今日の決闘も、そしてこの腕相撲も。」

「いや、それじゃねえ。」炎魔は首を振る。「俺が闇の力を使っちまって、お前をあんな風にしたことだよ。」

「貴様!私に何かしたのか!?」声を荒げ、優は椅子から立ち上がった。

「いや、何もしてねえよ。闇の力を使うと必ず副作用が出ちまうんだよ。」

「やっぱりしているではないか!!今日は見逃してやろうと思ったが、やはり貴様には今日、引導を渡してやろう!」

そんなことを言いながら彼女の右手にチェーンソーが現れた。

「ちょっと待てえ!!それやられたら流石に俺も死ぬ!!とりあえず落ち着いて俺の言い分を聞いてくれ!!」

炎魔は涙目で必死になる。動けない状態でチェーンソーはもはや死亡フラグの粋を超えている。というか普通に死にます、皆さん真似しないように。

「ふんっ、いいだろう。貴様の言い分を聞いてやろう。もし私が納得したら見逃してやろう、だがそうでなければ…」

今度は優の左手にブンゼン・バーナーが現れる。

「俺の闇の力は暗いところで姿を消す、夜になると身体能力が上がる、と暗いところで闇を実体化させることが出来る、この能力が基本だ。そして今日のお前との勝負で俺は闇の力を応用して、お前の影の中に潜ませてもらった。だが闇の力には副作用がある、それは近くにいる人間のネガティブ心情、まあ強いて言えば心の闇かな、を増幅させることだ。お前は恐らく、いきなり俺が消えたことに少し不安になっちまったんだろうよ、そしてその不安が増幅して恐怖に進化しちまった。」

炎魔の説明を優は無言で聞いていた、そして彼が終えるとしばらくその沈黙を続けた。

「つまり…」二つの武器が優の手から消えた。「私はお前に負けたのではなく、自分自身に負けてしまったということだな。」

「まあ、そういう見方も出来るがあまり自分を責めるなよ?大抵の人はあんな恐怖を耐えられずに精神崩壊の寸前の状態に陥る。恐怖のあまりにその場を掻け走って泡を吹かなかったのはお前が初めてだ。」

優はため息をつき、まだ黙り込んでしまった。


「そういえば今日、貴様は負けた。」

優が藪から棒のように切り出してきた言葉に炎魔は「は?」と首を傾げるしかなかった。

「皿が割れたから貴様の負けだろう?」

思い出してみればあの飛竜が墨の塊と化したあと、炎魔の皿は割れていた。

「まあ、確かにあの決闘のルール上では俺の負けだが…それがどうした?」

この会話が一体何処へ繋がるのか炎魔にはわからなかった。

というより今更それが何の意味をもたらすのか?

「敗者は勝者に従う義務がある。」と優は勝手に続ける。

「えっ、」炎魔は絶句する。「マジでトイレ掃除やれと?」

そういえば決闘が始まる前にそんなことを話していたな。

「違う、そんな事は貴様にはやらせん。よくよく考えてみれば盗撮カメラを搭載するかもしれないから却下だ。」

「でも俺エンジニアじゃねえからシャワーも直せいないんだが…」

「そして私の部屋に入るなど言語道断!私の部屋に男など絶対に入れん!!」

「じゃあ、何をしろと?」

「そうだな、とりあえず貴様のこと、全部洗いざらい吐いてもらおうか。一体何故こんな時に転校して来た?今は五月末だから新学期が始まって殆どたったの二ヶ月だ。新学期にちゃんと入学出来なかった理由はなんだ?そして貴様そのものは何だ?未知の力を駆使し、白髪に紅眼という漫画でしか存在しないふざけた設定の上に飛竜相手に引けを取らないその戦闘能力。そんな怪しい輩をこの風紀委員長、土方優がすこすこと見逃すとでも思ったか?!」

「出来れば恥ずかしくもじもじしながら『君の事、もっと教えて。』というような感じを期待していたんだが、流石にこれは傷つく…」

「何か言ったか?」優は炎魔にアイアンクローを食らわせた。


「え~、実は俺、北の天狗山という昔、天狗が祭られていた地域から来た。」炎魔は鼻血を垂らしながら説明し始める。「今は天狗を敬う人がいないからその神社は空っぽで誰も来ないから俺と師匠が勝手ながら住まいにしている。そこで鳥やキノコを集めて自給自足をしながら残酷な修業をして、山をおりてちょっとした町でバイトをしながら図書館で強制的勉強を強いられてた。そして今年、師匠が俺を学校へ送ろうと決心した、なぜかはしらんが。でも残念ながら魔術師学校は全部高いからバイトやってても賄えないなんてレベルじゃなかった。そこで年に一度行われる‘全国才児コンテスト‘が偶然、天狗山のふもとにある町で行われることを耳に挟んだ。参加には制限がない上に上位の五人が国によって学費が援助される。俺はこの地獄から這いずるチャンスだと思って図書館で猛勉強して挑んだら七位にまえなれたけど上位五人には当初入れなかった。が、採点のミスと上位の一人がカンペ使ってたのがばれて俺が上位五人に仲間入りした。」

「ずいぶん殺伐とした過去だな。」優はつっこむ。「だがそのコンテストは二月に行われた、そして採点結果が出るのは三月だ。ちゃんと入学に間に合うはずだ。」

「問題は俺、戸籍が無かったんすよ。まさか今時戸籍がない人がコンテストで出場するどころか上位五人の一人になるとは思わなかったらしい。だからその手続きが思った以上に時間がかかって俺は転入という形でこの学園に入ることになった。これでいいか?」

「まだ貴様自身のことがあまりわからなかったが、怪我人だから今日はこのくらいで勘弁してやろう。」

優は立ち上った。

「そういえば雪白があのお姫様にさらわれっちまったけど、風紀委員としてほっといていいのか?」炎魔は尋ねる。

「校則に同姓の誘拐は禁じられていない、それに悪魔への生贄にでもされるわけではない。」

「でもなんか変な風にプロデュースされてたらどうすんだ?」

「安心しろ、姫は可愛い女の子が大好きだ、絶対に悪いようにはしない。それにプロデュースはあれが初めてではない。プロデュースされた女子は全員、姫に感謝しているくらいだ。唯一、プロデュース最中に姫のセクハラが過剰らしい、まあそれくらいは我慢してもらうしかないがな。」

「まあ、害がないならいいか。」炎魔は安心した。一応、友達っぽい関係なのでとんでもないことになったら後味が悪くなる。

「後一つ、貴様に聞きたいことがある。」

「何だ?」

「飛竜が動けない私に火玉を放ったときに何故私を助けようとした?お前の古い消防隊の制服の羽織が無ければお前は焼け死んだかもしれんのだぞ?」

「はあ、」大きな溜め息が炎魔の口から開放した。「姫もお前も、どうしてそんなことを聞くのがわからんな。」

「いいから答えろ。」

「お前がやられりゃ、大勢の人が悲しむ。だからお前を死なせたくなかった。ただ、それだけだ。」

「そうか。」優はそう短く返し、引き戸へ向かった。

「ではまた明日、お見舞いに来てやるとしよう。」

「出来ればメイド服でおねがいする。」と炎魔はリクエストする。

「そんな服は持っていない!」そう怒鳴ると引き戸をピシャッと閉めた。




日がとっぷり暮れたころに土方優は龍女の最上階の十階に着いた。

そして自分の部屋である112番のドアの前に着くと不意に113番の‘鬼崎炎魔‘と書かれたプレートが見えた。

「鬼崎炎魔…悩ましいな」そう呟きながらカードキーで部屋のロックを外し、入った。

入る際、顔が嬉しそうに微笑んでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ