人生は計画通りには行かない!!
そして決闘開始の鐘がカーンとなった。
次の瞬間、両者はパッと距離を取った。
土方はすぐに刀を腰に納め、右足を前に出し、右手は体の前にぶら下げ、半身で抜刀構えに入った。
鬼崎も半身に構えたが刀を腰に据え、右手は柄をつかんだままだった。
二人ともそのままじっと動かなかった。
コロシアム全体が緊張感に包まれ、観客のほうからは針を落とす音すら聞こえるほど静かで展開を噛み付くように見守った。
静かな風が会場に吹き、優の長いツヤツヤでサラッとした漆黒の髪を揺らした。整った気品ある彼女の顔には集中力で刻まれていて、優しそうな茶色い眼差しは真剣そのものだった。
一方、炎魔の表情から何も読み取れず、そして眼も一ミリも動かさずまるで石の彫刻のように立っていた。唯一ツンツンした白髪が風に揺れていた。
二人は動かずに時間だけが伸びるようにゆっくり進んでいった。
さらに緊張感がドンドン高まり、あちこちで唾を飲み込む音がかすかに聞こえた。
チロッチロリ~ン
何処かで携帯電話が鳴った。
次の瞬間、土方と鬼崎が飛ぶように走り出した。
そして両者、抜刀した。
数秒後、二人の決闘者は互いに通り過ぎていた。
優の額にある皿と炎魔の胸に付いている皿はどちらとも無事だった。
が炎魔は苦虫を噛んだ顔で左肩を押さえた。
「あーっと、両者の皿は無事ですがどうやら鬼崎選手は一太刀もらってしまったようです。ちなみに解説の学園長先生、一体何が起こったのでしょう?二人とも十六とは思えないくらいに早い上、このコロシアムが広すぎて我々は遠目なのでよく見えません。」
「うむ、」松平は咳払いをして説明し始めた。「まずは風紀委員長土方優視点から語ってみよう。まず彼女は全部で三太刀を振るった。一太刀目は鞘から刀を抜き右薙、つまり右脇を切った。二太刀目は右薙の勢いを利用し、その場で一回転しながら刀を上から下へ切り下ろし、そして三太刀目は相手を飛び越え、空中で後ろから切った。」
「お~、それはすごいですね。」会場も鳳凰光と同じく感服する。
「そうじゃ、さすがは第三最強剣術で謳われる‘令桜撃流‘の道場の長女じゃ。しかしその三太刀を受けても自分の皿を守りきった鬼崎炎魔も中々の手馴れじゃ。」
「まあ、でも当たっちゃったみたいですけどね~。」と司会者は意地悪そうに言い、隣の高橋はガッツポーズを取った。
「ちなみに鬼崎炎魔は土方優の最初の一太刀を同じような右薙で止めた。だが回転して上から来る刀が受け止めることは出来なくて咄嗟に体をずらし、皿への直撃を避けた。そして後ろからの一太刀を鞘で受け止めたのじゃ。」
「あんな遠くから見えんのかよ、すげえ爺だなうちの学園長は。」炎魔は左肩を揉みながら立ち上がり、優の方へと向いた。
「松平学園長を爺呼ばわりするな、一応貴様も生徒会の一部だろうが。」優は呆れながらも炎魔を見下ろす。
「それにこの程度の技でもう当たるとはな、これはまだほんの小手調べだぞ、鬼崎。まあしょせん貴様は男だからな、弱いのは当たり前か。」
「へっ、俺に一発当てられても、皿を割ることも出来ないんじゃあお前の流派も大した事ないな。」
「貴様、そんなに死にたいのか?」と優は目の元が濃くなり、阿修羅のような顔に変形していく。
「やれるもんならやってみろ!」炎魔は挑発的に言うと黒いオーラが発ちはじめた。
「お前に見せてやる、闇の力をな!」
そう宣言した後、炎魔は黒いオーラを纏いながら刀身がない刀を鞘に収め、優へ向って突進した。
優は反射的に刀を鞘に収め、身構えた。
そして猪のように突進してくる炎魔に刀を抜き、切るのではなく突きを放った!
が炎魔はそれを見切っていたかのように大きく跳躍して優を飛び越えた。
彼女はすぐに振り返って、来るであろう斬撃に備え防御の構えに入った。
だがそこには炎魔はいなかった。
辺りをキョロキョロ見渡しても彼はどこにもいなかった。
不安が土方を襲った。さっきまでいた男が急にいなくなったのだから当然ではある。でも何時もと違うことは不安がまるで成長しているようにドンドン大きくなっていくことだった。
その不安の成長は留まることを知らずそれはやがて恐怖に変わった。
優は感情を外を漏らすまいと必死にこらえていた。だが今度は恐怖までもが膨らむ風船のように増していった。
冷や汗が顔から滝のように流れ、恐怖で気が狂いそうだった。
彼女の恐怖が限界を達し、叫び声を上げて勝負を放棄しようと思った。
彼女が固まっている間、後ろに伸びている影の真ん中から白いツンツンした髪が生えてきた。そしてその白髪のあとから頭が続き、全身が続いた。
そこから音も無く現れたのは鬼崎炎魔だった。
会場がおおーと驚きの声を発したが優の耳には何も届かなかった。
炎魔は早く終わらせようと刀の柄に手をやった。
その途端、空から大きなトラックの三倍の大きさがあるようなコンテナが落ちてきてコロシアムの真ん中にバカンッと鉄と地面が衝突する音と共に着陸した。
もう精神的に爆発寸前だった優はおびえた動物のようにビクッと反応した。その際に持っていた鞘が急に上がり、炎魔の股間にクリティカルヒットを達成した。
「っっ~~~~~」
炎魔は声にならない悲鳴を上げて泡を吹き、(?)地面に倒れこんだ。
それに追い討ちをかけるかのように落ちてきたコンテナが爆発し、辺りを一瞬照らした。
光が消えた後、コンテナの壁は地面に落ちておりまるで上手に開けたプレゼント箱のようだ。
そしてその中からは・・・・飛竜が咆哮しながら立っていた。紅く硬い鱗に覆われた体、全長30メートル、野生に満ちた黄色い目、偉大さを感じさせる翼、そして人間を串刺しに出来そうな闘牛のような角が四本。
嘘だろ、と炎魔は心の中で呟いた、今日は命日か?
やっと闇の力を使った主人公!
でもすぐに股間やられるってなんかベタだな、すいません!!