面倒事は群れでやってくる。
翌朝、炎魔は精神的に疲れていたにもかかわらず遅刻フラグを無視して早起きして学園へ向った。というよりハンモックの紐が肌に食い込んでグッスリ眠れなくて早起きしてしまっただけである。
そんなわけでホームルームが始まる20分前にもう教室にいた。
教室には誰も居らず、初めて静かな時間を過ごすことが出来た。
二十分後
「え~ではホームルームをはじめます。」と土方先生は今日は豚の仮面を被り、そう宣言した。怖いおっさんが豚のマスクをするとシュールだがなぜかチェーンソーで誰かを斬った後の返り血を浴びた赤い模様が右頬に描かれているので怖い、合わしてシュール怖い。
「今日は今週末行われる二日一泊の遠足について話し合おうと思います。これは一年全員が参加する行事です、まだたがいに馴れ合っていない君たちが遠足で友達を作ったりすることが目的です。詳しいことは五時限目のロングホームルームで話し合いますがそれまでに五人一組の班を作っといてください。あまった人たちは余った人たち同士で僕が組み合わせるんで。あと鬼崎君、ちょっと来てくれるかな?」土方先生は教室を出て行こうとすると炎魔を手招きした。
炎魔は三回回ってワンと吼え、お経を唱えながら震える足で土方先生と廊下へと出た。
「実は君に頼みがあるんだ。」と土方先生は真剣に言うが怖さが増しただけ。しかも不気味な仮面を炎魔の顔に近づけ、炎魔は失神してしまいそうだった。
怖い!!豚さん怖い!!!頼むからお肉屋さん来てくれ!!!そしてこいつを裁いて地球の反対側で売り飛ばしてくれ!!頼む!!三百円あげるから!!!と炎魔は心の中で叫んでいた。
「今日のロングホームルーム、君がクラス委員長のかわりに遠足の件を纏めてくれ。」と先生は言った。
なんで俺が?!まだ二日めだぞ!!!
「何故このわたくしめがクラス委員長の務めを果たすことが許される立場なのですか?」炎魔は知っている限りの敬語を使い、たずねる。
「雷神アテネさんが委員長なんだけどあの子‘凡人の仕切りをするのはいや‘と言ってやらないんだ。」
だったらなんのために委員長になったんだ?ってか生徒会長なんだろ、アレ!!
「それがどうつながればこのわたくしめがそのようなことを?」
「君は昨日の喧嘩で一応一目置かれているからクラスも一応言うこと聞くと思うし、もう一日で生徒会の一員になるほど雷神さんに見込まれているからだよ。それに僕のことを怖がらずに接してくれたからだよ。」と土方先生は仮面の後ろでニッコリ(見えません)笑った。
何言ってんだ?!!?こえええええーよ!!!360度あらゆる角度から見ても怖ええぇ―――よ!!怖すぎるから三回回ってわんと吼える真似までしちゃったじゃねーか!!
一目置かれてるって、それただ警戒されてるだけだろうが!!というよりあの喧嘩、誰かチクッたのか?!しかも生徒会には強引に入れられただけだ!!!あんたに世界がどう見えてんだ?! と炎魔は是非突っ込みたかったが体は言うことを聞かず。「任せてください。」と引き受けてしまったのだ。
ということがあった。世界には‘文句が言えない立場‘にいる人の仲間入りしてしまった炎魔。そんなわけで五時限目のロングホームルームが近づくたびにテンションが下がりつつある白髪の少年は昼休みになると購買に行ってゴマおにぎりを買う所で残っていた気力(昨日の件での精神ダメージはまだ完全回復していない)が窓から小鳥達と一緒に飛んで行ってしまい自分の席に戻るとぐで~っと倒れこんでしばらくの間その状態のままだった。
「あの、鬼崎君?」とふと声がかかった。
「返事がない、ただの蝋人形のようだ」と炎魔はかん高い声で返事する。ネタ間違ってるけど。
「一緒に座って食べても良いかな?」
鬼崎はここでやっと見上げる。そこには雪白鈴奈が照れた風に立っていた。
「いいけど・・・ちょっと待ち。」炎魔は座りながら隣にある机を自分の前に合わせ、椅子を足で釣り向かいで座れるようにした。
「あ、あ、ありがとう。」とお礼を呟く鈴奈。
鈴奈が弁当箱の包みを解いている間、炎魔はゴマおにぎりを頬張りながら彼女を眺める。
地味なオサゲに眼鏡が目立ちすぎて一見地味に見えるが良く見ればスタイルはかなり高レベルだった。そして眼鏡の奥に光る蒼い眼は大人しそうな雰囲気を出しながらも強いなにかを感じることが出来た。
炎魔の視線に気づいた鈴奈は少し頬を染めた。
「と、ところで鬼崎君は昨日、どうして私の事を助けてくれたの?」見つめられて恥ずかしいのか炎魔との会話を始めようとした。質問の内容も少しはずい分類に入るが。
「随分損な性格しているからさ。」炎魔はぶっきらぼうに言う。「あまりにも一方的に私刑されている人を見ると誰だろうが助けっちまうという面倒な性分でね。ま、これも何かの縁だろう、もし困った事があったら問題解決、とまでは行かんがアドバイスぐらいならやれる。」
「あ、ありがとう、鬼崎君。所で君の事で聞いていい?」雪白は聞く。
「この白髪と紅眼は本物だ。」と炎魔は会う人99%が必ず聞く質問ナンバーワンを質問される前の答えた。
今、髪を染める方法は大きく分かれて二つ。
一つは原始的に髪に直接色をつけるタイプともう一つは薬を飲み、文字通りに生えてくる髪の色を変えるという方法だ。だが後者はまだ最近可能になった方法でまだ欠点も多い。一番の欠点はその薬は生えてくる髪のみ有効で普通に髪を染めた人たちの逆、髪が生えるまで待たなければいけない。もう一つは眼の色が染めた髪の色と同じ色になってしまうことだった、これの原因はいまだに解決されていない。ただ健康に害するものではないし、視力にも全く影響がないため販売は許されている。
炎魔の場合、髪の色は染めたとしても紅い眼は珍しいため、人々を混乱させ、結局最初の質問はそこにに来るのである。
「いや、それじゃなくててね。」どうやら炎魔の早ちとりだったらしく、両手を振って否定する。「ただどんな魔術を使って隠れてたの?私、鬼崎君がそこにいるなんてぜんぜん気がつかなかった。」
昨晩、炎魔が現れた時に地面に倒れていたにも関わらず飛び上がったのだから相当驚いたのだろう。そのシーンを思い出してしまい、炎魔はプッと吹いてしまう。
「俺の魔術‘闇の力‘はちょっと例外でね、一体なんなのかは俺もわからない。ただわかるのは暗闇の中で色々出来ることだけだ。昨日の夜、俺は闇と・・・まあ一体化していたと言えば一番適切かな?その状態だと誰も俺をみつけることは出来ない。」
「へ~、そうなんだ。あれ?」雪白は何か思いついたようだ。「じゃあ、何で女子寮の屋上にいたの?そこじゃあ誰も除けないよ?」
「いや、もういいもん拝ませたてもらった後だったからクールダウンが必要だったのさ。」炎魔は到底自慢できないことを爽やか過ぎる声で言った。
「つっこみ所がちがうだろ、貴様!!」突然炎魔の後ろからピシッと鞭を撃つような鋭い声が響いた。
振り向くとそこには額に青筋を立てた土方優とテュラエル・エンジェルダストが立っていた。
「よう。」炎魔は挨拶する。「雪白さんになんか用か?」
「もしそうだったらなんで貴様が聞いている?!」土方優は答える。
「まあ、確かにヤンキーよりそちらの麗しきレディーに用件があれば僕もうれしい限りですが今日はあなたで我慢しなければいけません。」テュラエルは皮肉を込めてコメントする。
「聞きたくないが、何のようだ?」炎魔はため息をつく。
「昨日の君の暴行の件についてです。」とテュラエルは説明する。
「君は昨日、昼休みに自分のクラスメート七人をおもちゃのように弄びました。」
「そして昨晩、貴様は女子生徒の顔に膝蹴りを食らわせたそうだな。」今度は土方も参加する。
「ちょっと、それは・・」雪白は炎魔を庇おうと、事情を説明しようとしたがその庇う本人にさえぎられてしまう。
「だからどうした?」炎魔は挑戦的に聞く。
「普通の生徒であれば体罰を与える権利が我々生徒会執行部員にはある。が、君も生徒会の一員である以上、そう簡単にはいかない。」と優は説明する。
「で、俺はどうなるんだ?」炎魔は内心、このまま免除されると期待し、生徒会長のアテネに感謝した。
「貴様は生徒会の看板に泥を塗った。それにより、三日後、遠足に行く前日だが、全生徒の前で貴様と我々生徒会執行部員及び会長が決闘を行う。」
前言撤回。最低最悪の状況に炎魔は陥ってしまった。
さて、ドSな作者のせいで委員長の務めに決闘まですることになった炎魔。
果たしてすべて裁ききれるか?
次回にはまた新たなヒロインでるかな?