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星命 〜太陽と共に輝く〜

掲載日:2025/12/27

星と神獣をめぐる、静かな物語です。

最後まで、お付き合いいただけたら嬉しいです。

淡い紅に輝く星、サンスティア。

星の煌めく夜空の下、ティアール帝国の城では、ダンスパーティが開かれていた。


招かれたのは、ティトゥーラ帝国の者たち。

長らく争っていた両国は、ついに同盟を結んだ。

今日の夜会は、それを祝して行われる。


弾むようなリズムと、漂う美味しそうな香り。

光と笑い声が混ざり合い、人々は舞い踊る。


「お母さま・・・」


ティアールの幼き王女ティエラは、母の手を握る。

初めて見る光景に、少し手を震わせた。

母である王妃は、優しく抱きしめる。


「ほら、星が綺麗に輝いているわ」


王妃の示す空には、無数の星が輝く。

ティエラは幼い笑みを浮かべ、母のひざに座った。


この場にいる誰もが、この良き日を祝っていた。

そのはずだったのにーー。


ドオォォン!!


轟音が鳴り響き、城全体が軽く揺れた。

誰かの悲鳴、何かが倒れる音、低い声。


幼いティエラには、何が起きたのかわからなかった。

ただ恐ろしくて、怖いことだけはわかった。

母の手が暖かくて、必死にそれに縋った。


その瞬間、扉が音を立てて開かれた。


「お逃げください!!」


1人の侍女が倒れながらも、そう叫んだ。

その後ろから、銀色の鎧に身を包んだ者たちが、足音を大にして入ってくる。


ティエラが母の手を、強く握った瞬間。

母はティエラを、抱き上げた。

そして父が腕を広げ、立ち塞がる。


「逃げなさい、ティエラ」

「お母さま・・・!」

「忘れないで。あなたは、独りじゃないわ」


必死に伸ばす手は、届かなかった。

母の姿は闇に消え、ティエラは瞳を潤わせる。


冷たい石の通路に、小さな灯りが点く。

小さな体がよろめき、転びそうになる。

それでも振り返らずに、足を前に動かした。


冷たい涙が、頬を伝うのがわかる。

息も切れて、足も痛いのに、まだ暗い通路。

そのとき、胸元で小さな重みが揺れた。


ーー独りじゃ、ない。


母から託された、たったひとつのペンダント。

それに手を当てると、ほのかな暖かさを感じる。

まるで母が、そばにいるかのように。


どれほど走ったのか、わからない。

足がもつれ、息が詰まって、視界が歪む。

着飾ったドレスの裾が、何度も引っかかる。


転びそうになった瞬間、風が吹きつけた。

焦げた灰のような匂いがして、思わず足を止めた。

だが止まった瞬間、それまでの疲れが一気に押し寄せてきた。


炎なのか、朝焼けなのかーー。

紅く染まった空が、ぼやけていく。

意識を手放す直前、静かな声だけが聞こえた。


「・・・1人にはできない」


なぜか暖かくて、心がふっと軽くなった。

そしていつの間にか、眠りについてしまった。




            ◇




次に目を覚ましたのは、温もりの中だった。

城の暖炉でもない、母の手でもなかった。

まるで日向ぼっこしている時のような、暖かさ。


ティエラはそっと、まぶたを開けた。

眩いほどの陽の光が、頬を撫でた。

まだ涙の跡が残る目をこする。


その瞬間、自分に触れる何かが揺れた。


「やっと起きたか」

「・・・えっ?」


飛び起きようとしたが、体が思うように動かない。

前のめりになった体を、支えるもの。


ふわりとした感触に、心地よさを覚える。

金と紅の重なり合う、大きな翼だった。

羽の1枚1枚が、柔らかい熱を帯びる。


ゆっくり振り返ると、そこにいたのは大きな鳥。

母に読んでもらった、絵本に出た姿にそっくり。

ティエラはふと、言葉を発した。


「フェニックス・・・?」


母から聞いた、太陽の神獣。

かっこよくて、綺麗で、憧れていた。

だが目の前にいるのは、絵本の中に描かれた存在よりずっと、大きくて、かっこいい。


「ああ。知っていたか」


その声は、低くて、冷たい。

けれど怖くはなくて、ひとつぶの涙が落ちた。

誰かがそばに、いてくれたからーー。


「独りじゃ、ない・・・?」


少し震えた、小さな声だった。

まるで確かめるような、そんな問いだった。


太陽の神獣は、すぐには答えなかった。

紅い瞳がティエラを見つめ、翼が少しだけ寄り添う。

静かに、けれどまっすぐに、答えた。


「ここにいる」


その答えだけで、十分だった。

胸のペンダントを、そっと握る。

それは淡く、小さく光を放っていた。


ティエラは翼に、体をそっと寄せた。

フェニックスは、つぶやく。


「名は、なんという?」

「わたしは、ティエラだよ」

「・・・そうか」


太陽の神獣はただ、頷いただけだった。

けれど、自分で呼んだその名が、独りじゃないことを証明するかのようだった。


ティエラは、大きな瞳を見上げる。


「ねぇ、フェニって呼んでいい?」


太陽の神獣は、答えなかった。

否定も、肯定もしなかった。

でもその翼が、少しだけ背を押したように感じた。


フェニックスは少し、ティエラに休む間を与えた。

近くの井戸から、水を汲み上げてくれた。

それを飲むと、少し疲れが癒やされた。


その様子を見たフェニックスは、体を少し伏せた。

まるで背に乗れ、と言うかのよう。

ティエラは幼いながらの好奇心に負け、背に乗った。


「ふわふわだね」

「しっかり掴まれ」


大きな翼が、1回、2回と上下に動く。

羽ばたくたび、暖かい光が舞った。

そしてティエラを乗せて、宙へと浮かび上がる。


フェニックスはゆっくりと、空を飛ぶ。

ティエラが落ちないように、気遣っているよう。


「フェニ、もうちょっと速くてもいいよ?」


そう言っても、ゆっくりなままだった。

ティエラは思わず、微笑みを浮かべた。


柔らかな風と、暖かい光に包まれる。

地上は見えないが、遠くの山が見えた。

空と山の境目が、今は繋がっているように見えた。


少し空を散歩し、ゆっくりと地上に舞い降りた。

そこにあったのは、天をも貫くような大樹。

雲に隠れて、天辺は見えない。


「おおきい・・・」

「ここが“フェニックスの巣”だ」


フェニックスの声は静かで、ただ真実を告げるような言葉だった。


城の中央塔ほどの太さがある幹。

空を抱くように広がる枝葉から、木漏れ日が差す。

地面には小さな花が咲き、まるで星空のよう。


木の根元には、扉がついていた。

フェニックスの翼が、トンと背を押す。


「ここが、わたしの・・・?」

「ああ。これからお前が住む場所だ」


扉を開けると、そこには部屋があった。

思ったよりも明るく、暖かな光が中を満たす。

小さな寝台、簡素な机と椅子、数冊の絵本。


それらはまるで、大樹の一部かのように自然に存在していた。

そして、ティエラのための部屋だった。


城の部屋と違って、豪華で大きなベッドはないし、侍女もいない。

けれど床は冷たくないし、柔らかかった。


「フェニ、ありがとう」


フェニックスは相変わらず、答えない。

それでも、尾羽が少し揺れただけで伝わる。


部屋の窓からは、空を眺めることができた。

ティエラはそっと、窓の外を見る。

木が揺らめき、花が踊った。


時が経つほど、空が紅く染まっていく。

たったひとつだけ、星が輝いて見えた。

フェニックスが言う。


「こちらへ来い」


フェニックスついていくと、果物が置いてある。

食べやすいサイズに切られていて、水も置いてある。

ティエラは目を輝かせ、さっそく果物にがっついた。


瑞々しくて、香ばしい。

甘くてとても美味しかった。


フェニックスは、ただそばで見ているだけだった。

太陽の神獣であるフェニックスは、太陽光があれば、食事が必要ないらしい。

ティエラは少し寂しくも感じたが、そばにいてくれるだけで顔が綻んだ。


「ごちそうさま」

「・・・もう夜だ。寝るといい」


フェニックスが静かに、そう言った。

空を見上げると、幾つもの星が煌めき、辺りは暗闇に包まれていた。

ティエラは少し、身震いする。


怖いな、と少し思った。

母と離れ、ひた走った冷たい通路を思い出す。

先の見えない、たった独りの暗闇だった。


その時、フェニックスの羽が揺れた。

大きな翼から、1枚の羽が舞い降りた。

それは風もないのに、ティエラの目の前で浮く。


「フェニ・・・?」

「それを持って寝るといい。少なくとも、体が冷えることはないだろう」

「・・・ありがとう」


ティエラは、その1枚の羽を持つ。

手のひらより大きな羽だが、とても軽かった。


大樹の中に入り、寝台に横になる。

フェニックスの羽は暖かく、少し明るかった。

心がふっと軽くなるのを感じ、眠りについた。



            ◇



まだ太陽が、地平線の下に隠れている頃。

風がざわめく音が聞こえ、ティエラは目を覚ました。

腕に抱える羽は、まだ温もりを持っていた。


扉を開き、そっと外に出る。

フェニックスは眠らず、どこかを見つめていた。


「フェニ、どうしたの?」

「・・・後ろに隠れろ」


フェニックスが翼を広げ、ティエラはその背後に姿を隠す。

風の中に、何かの音が混ざっていた。


重くて、乱れた足音だった。

ティエラは思わず、羽をぎゅっと抱きしめた。

夜会の日も聞いた、何かを奪う足音。


ーーまた、奪われる?


目の前に立ち塞がる、大きな温もり。

その存在と、離れたくなかった。

その翼にそっと触れた瞬間、声が聞こえた。


「我はここにいる」


ティエラはその声に、縋りたくなってしまった。

その時、小枝を踏む音が、近くで響いた。

木と花の奥から、声が聞こえる。


「確かここのあたりだ」

「ああ。あいつが嘘をついてなければな」


その声が、少しずつそばに来る。

何かを捜すような、言葉だった。

ティエラには、それはまるで自分に向けられているように聞こえた。


その瞬間、草を踏む音と共に、金の輝きが覆った。


「邪なる者よ、ここを立ち去れ」


低く、重い言葉が響いた。

けれどそれは、ティエラにはとても暖かく感じた。


森に踏み入った人間たちは、言葉を失っていた。

それでも人間たちは、前へ踏み出す。

恐怖が沈黙を作り、欲が言葉を紡いだ。


「・・・太陽の神獣だ」

「だが、ペンダントを・・・」


その言葉は続かなかった。

フェニックスの紅い瞳が、強く光る。

その瞬間、人間たちを熱風が襲う。


攻撃ではなく、警告だった。

地面も木も、燃えてはいない。

フェニックスはもう一度、低くつぶやく。


「森を去れ。さもなくば、骨も残らず灰と化そう」

「ひっ・・・!」


たったそれだけで、人間たちは退いた。

いくつもの足音が、慌ただしく遠ざかる。

森にまた、静かさが戻った。


フェニックスは少しの間、森を見つめていた。

そして何かを確かめたあと、翼をそっとたたむ。

翼から、ティエラが覗く。


その小さな姿を見下ろした時、翼が動いた。


「・・・怖かったか」


初めて聞いた、問いかけるような言葉だった。

フェニックスも、少し戸惑っているように見えた。

母とは違う、隠された優しさ。


ティエラは少し微笑んで、答えた。


「フェニが、いたから」


フェニックスは、安心したように翼をたたむ。

何も返さなかったけれど、一歩近づいてくれた。


2人の間で、ペンダントが淡く輝いた。


その瞬間、木々の隙間から光が差し込む。

夜の黒が、太陽の赤に溶かされていった。

星がひとつ、またひとつと呑まれていく。


ティエラは小さく、つぶやいた。


「わたしは、ここが好き。フェニが大好き」


フェニックスは羽を揺らし、幼い言葉を心に留めた。

小さな手に握られた羽が、寄り添うように見えた。

まるで、フェニックス自身の想いを表すように。


「・・・ティエラ」


灰の中で、ひとつの命が、星のように瞬いていた。

その輝きを、見過ごしてはならないと、感じた。


けれど今は、別の想いが胸にあった。


幼き心を奪われないように、守りたい。

フェニックスは、つぶやいた。


「星の輝く限り、家族も友も、そなたを見捨てない」


ティエラは目を見開いたあと、小さく笑った。

幼なさの残る笑みは、失ったものを忘れはしない。

それでも、星の輝きだけは失わなかった。


その瞬間ーー

空から光でできた、ひとつぶの雫が、静かに落ちた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


独りになりたくない、誰かと共にいたい。

そんな願いを込めて、書きました。


「これは私の夢物語」のひとつの星として、心に残ってくれたら嬉しいです。

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