協力関係(第6話)
今日は店休日で、店内には誰もいなかった。
ここ、エッセン・ラーデンは、私たちの溜まり場でもある。洋風な店内は木の温もりがあって、いつ来ても落ち着く。
「皆様お集まりいただき、誠にありがとうございます。心よりのお礼を申し上げますとともに、当店自慢のプリンをご用意しておりますので、どうぞご賞味ください――という長い台詞は置いといて」
「言い終わってから言うなよ。それで、話って何?」
「私、わかってしまったんだ」
「何が?」
「ふっふっふっ。名探偵・羽山心愛の前に謎なんて、塵も同じことよ」
「さっさと本題に入って。そんなに悠長にしている時間なんてないのだから」
スプーンをマイク代わりにしていた心愛は、それを置いてこう言った。
「つまり、鳴沢君がエクスネクってことだよね」
何もしていなかった鳴沢が、机で膝をぶつけた。
「な、何言ってるの? そ、そんなわけないじゃん」
フォローを入れたが、私も動揺を隠しきれていなかった。
「え? エクスネクってなんだっけ?」
莉里は大丈夫そうだ。
「急にどうしたの心愛。何がどうなって、そうなったの?」
「悠長に話している時間がないから簡潔に言うとね。あれだけの会話を聞かされたら、誰だってそう思うって」
「? 待って、私何もわかってない……」
莉里が言ったが、心愛はプリンで口を塞いでいた。
「で、当たっているか外れているか、答えを簡潔に聞かせてほしいな」
私は鳴沢に視線を送った。
流石に私の一存で正解を言うわけにはいかない。全ては本人次第だ。
「えっと、羽山さん……」
「心愛でいいよ」
「……羽山さんの言っていることで合ってます。でも、どうしてそれを?」
「隣のファンがうるさくてね。まだ玲那に言われて聴いたことしかないけど、それならそれで応援するよ。同級生が頑張っているのは、見てて嬉しいから」
「なんかわからないけど、何かしているのなら頑張れ」
「あ、ありがとう……」
この2人なら、みんなに広めることはしないと思うけど、念のため釘を刺しておこう。
「ま、そういうことだから、このことは黙ってて。鳴沢も目立ちたくはないからさ」
「わかってるって。私もそこまではしないよ」
「心愛、口軽いから心配だな」
「口軽くないし! 聞かれたから答えているだけだし!」
それを口が軽いと言うのだけど、心愛はこんなキャラだから責めるに責められない。
「心愛らしいからいいけど」
心愛のことは変わらず心配だけど、エクスネクの存在を知っているクラスメイトが何人いるかも問題になる。まあ、マイナーな歌い手を知っている人は少ないだろうから、少しは安心できる。これから布教をすれば、バレる心配も増えるから、ほどほどにしておかないと。
エクスネクにも鳴沢にも迷惑はかけたくない。
「それはそうとさ。鳴沢君、スランプなの?」
心愛が言った瞬間、鳴沢はプリンを詰まらせた。数秒むせて水を飲み干した鳴沢は、恥ずかしそうに答えた。
「あ、いや、それは少し大袈裟に言っただけで、深い意味はないというか……こんな僕がスランプなんておこがましいだけで、作れない言い訳をしているだけです……はい」
「なるほど。それは困ったね」
どこか他人事のように心愛が言う。
興味がないなら話を広げなければいいのに。
「困ってはいるけど、僕なんて所詮そんなものだから、悩んだりはしてないよ」
「でも、歌は作りたいんでしょ?」
「まあ……うん。作りたいのは作りたいよ」
「じゃあさ、ウチの玲那を使ってみない?」
ん?
プリンを食べる手が止まった。
「え? 何で近藤さんの名前が出るんですか?」
心愛は机の上に置いてあったスマホを触り出した。
「だって、玲那と言えば『時計の針は進むのに』……」
「心愛!!!」
心愛の口を両手で塞いだ。本当は食べているプリンを顔面に投げつけたかった。
「『風が顔を撫でるたび、君の名前が』……」
「莉里!!!」
莉里の口を塞ぐと、今度はまた心愛が口を開く。
「『星は輝き続けるのに、私の願いは届かず、永遠に孤独を照らす』――玲那が中学生の頃にハマってよく作っていたポエム。懐かしいね」
心愛が悪い顔をしている。
ニヤニヤと、何かを企んでいる。
「鳴沢君。他にも聞きたい?」
「もうやめて! そんな昔のもの、なんで持っているの? せっかくスマホから全部消したのに……」
恥ずかしくて、手で目を覆った。蒸し暑さとは別の暑さも1人感じていた。
「これ近藤さんが書いたの? すごいよ! どれもいい詩ばかりだよ!」
「やめて、そう言われるのが一番恥ずかしい」
「隠すこともないよ。僕も近藤さんの詩すごく気に入った!」
「本当?」
「いい詩に嘘はつかないよ」
鳴沢の目は本気だった。私を嘲笑っているのではなく、羨望の眼差しだった。
「まあ……そう言ってくれるのなら……ありがとう」
恥ずかしさから、何かしていないと落ち着かなくて、残りのプリンを全部食べ干した。
それでも落ち着かず、鳴沢の顔が見えないように店内の壁ばかり見つめていた。
「そういうことだから、頼んだよ鳴沢君!」
「もちろんです! まさか近藤さんにここまでのものが書けるとは。いや、僕もまだまだ勉強が足りないな」
「は、何が?」
「『何が?』って、鳴沢の歌に玲那が詩をつけるんだよ」
「羽山さんが、近藤さんは暇しているからいいって……」
そんな急に言われても……私だって恥ずかしい気持ちはある。エクスネクの歌に私が詩をつける? そんなこと本当にしてもいいの?
でも……私の詩がエクスネクの声で聴けるのなら、聴いてみたい。
「ま、まあ……鳴沢がどうしてもって言うのなら……いいけど」
「はい、決定!」
心愛と鳴沢はハイタッチするほど喜んでいた。
そんなに嬉しいことなのか? でも、まあ、私も楽しみではある。
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