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25時の音楽  作者: 倉木元貴


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勉強会(第31話)

 毎日欠かさず、鳴沢に一報を入れることだけはやめなかった。だけど、どうしても鳴沢とのタイミングが合わない。

 鳴沢からもたまに電話がかかってくるが、その時は私が出られない。誰かが意図的に仕組んでいるかのようなすれ違いが起きていた。

 心のどこかで思っていた。

 もう二度と鳴沢に会えなくなるのではと。

 鳴沢に会えないことは分かりながら、私は放課後に神社に向かった。

 鳴沢の家はすぐ近く。

 まだ、誰も帰ってきていないようで、窓は夕陽だけを反射していた。

 

 マリちゃん先生でもいいから会いたい。誰かいないかな。

 

 しばらく、鳴沢の家の前で待っていたけど、誰も帰ってくることはなかった。

 夕陽も沈みかけ、街が青黒く染まっていく中、神社の賽銭箱に百十五円を入れて、手を合わせ願った。

 

 最後でいいから、もう一度鳴沢に会えますように。

 

 太い縄で結ばれた鈴は、古くなっていることもあって、音は綺麗にならなかった。

 もう少しここにいれば、鳴沢に会えるかもしれない。そんなことを頭の片隅で思っていたけど、陽が沈んでも、鳴沢だけでなく、マリちゃん先生さえも帰ってこなかった。

 帰りは、階段を降りる足が重かった。まるで、誰かに引っ張られているかのようだった。

 

 家に帰り、夕食を食べた後、私は布団に入って、何もせず、ただ天井を見つめていた。

 何も模様のない、真っ白な天井。変化も何もなく、時間だけが過ぎていくのがわかった。

 少しでも勉強をしないと、もったいないとも思いながらも、身体は動かしたくないし、今だけは何も考えたくない。

 でも本当は、このまま待っていれば、鳴沢から連絡が来るのではと、どこかで期待していた。配信が始まるんじゃないかって。電話でもしてくれるんじゃないかって。

 

 待てど待てど、私のスマホは鳴らなかった。

 なのに、今なら鳴沢にも引けを取らないくらいの歌詞が書けそうな気がしていた。

 勉強に集中しなくちゃならない時期なのに、鳴沢と作った音楽のことが忘れられなかった。

 やる気が起きた。

 ベッドから身体を起こして、机に向かって、1冊のノートを広げた。

 鳴沢と紡いできた歌詞のノート。

 殴り書きで、思ったことを言葉にして紡いでいく。

 今までに、ここまで書けたことはなかった。こんな短時間で、大量の歌詞を。

 もはや、歌詞の暴力のような、そんな量。

 

 鳴沢が連絡をくれないのだったら、私だって、歌詞を書けることを証明して、鳴沢には私が必要だって……って、何を考えているんだろう。

 こんなただの歌詞にも満たない言葉なんて、鳴沢は必要ない。

 私がいなくても鳴沢は、歌を作れるのだから。

 仕上がった歌詞は、鳴沢に一つも送らないまま私は眠りについた。

 

 ♢♢♢

 

 朝、目が覚めて歌詞ノートを見返した。

 率直に思ったことは、なんだこの恥ずかしい歌詞の数々は。こんなのを鳴沢に送ろうとしていたのか。

 送るのをやめて正解だった。

 

 中学生の頃から何も変わっていない。ポエムは封印したはずなのに、鳴沢と音楽を作るときには、どうしても中学生の時のような感覚に陥ってしまう。

 もう、子供の年齢ではなくなるのだから、恥ずかしいことは終わりにしないと。

 

 歌詞ノートを捨てる勇気はなかった。だから、押入れのクッキーが入っていた缶に入れて、不意に蓋が開かないように、包装用のリボンで固く結んだ。

 

 これで誰に見られることもない。

 封印は成功した。

 

 ♢♢♢

 

 休日。

 私の家に心愛と莉里が集まって、3人で勉強会を開いた。心愛は進学先が決まっているから、邪魔だけはしていなかったけど、勉強に集中はしていなかった。

 

「ねえ、玲那」

 

「何? 勉強で忙しいから、つまらないことなら後にして」

 

「ごめん。つまらないことではないけど、勉強が止まりそうだから、やっぱりやめておく」

 

 なんだそれ。と思ったけど、心愛も心愛でどこか気を遣っているだろうか。

 

「お手洗い借りるね」

 

「何度も来ているんだから、言わなくていいよ」

 

「ごめん、ごめん」

 

 ため息を吐いて、勉強に集中した。

 心愛とは反対に、莉里は、何もされても気づかないくらいに集中していた。

 集中し過ぎて、小さくぶつぶつと何か独り言が漏れていた。

 そこまで集中できる自信はないが、莉里の姿勢だけは見習いたい。

 苦手な教科に差し掛かった。集中しなければと思いながらも、頭を悩ませるたびに集中が途切れる。

 ふと、押入れの方に視線を向けた。

 そこには、押入れの扉を勝手に開けて、四つん這いに尻をこちらに向けている、心愛がいた。

 

「何してるの?」

 

「いや〜、玲那も莉里もめっちゃ集中しているからさ、どこまでだったらバレるかなって。思って?」

 

「邪魔したいのなら、帰ってよ」

 

「そんなつもりじゃないって、少し休憩にしない。ケーキ持ってきたんだけど」

 

 確かにケーキの入っていそうな箱も持っていたが、それよりも、もう片手に持っていたのは、私が封印したはずの歌詞ノートだった。

 

「心愛! それだけはだめ!」

 

 言った時にはもう遅かった。

 心愛は、押し入れに潜り込んで、歌詞ノートを見ていた。

 

「あの夏をずっと探している。これいい歌詞だと思うよ。なんで鳴沢君に送らないの?」

 

「勝手に見るとか最低」

 

「ごめん。時間を持て余していたから」

 

「もう、邪魔するなら帰ってって言ったのに」

 

「お詫びにケーキを持ってきたから、これをどうぞ」

 

「そんなので許せるわけないでしょ。まあ、食べるけど」

 

 机の上に広げていた参考書を、シャーペンを挟んで閉じ、床に置いた。

 

「莉里も食べる?」

 

「うん。頭が割れそうだから、一旦休憩する」

 

「わかった。じゃあ、私お皿取ってくるね」

 

 少し嫌な予感がしながらも、階段を駆け降りて、人数分のお皿とフォークを調達した。

 部屋に戻ると、案の定。

 心愛と莉里は、私の歌詞ノートを勝手に閲覧していた。

 

「ケーキ冷蔵庫に片付けようか?」

 

「私のせいじゃない。心愛が音読を始めたから、気になって見ていただけで……主犯は心愛です」

 

 莉里の見苦しい言い訳は置いといて。

 

「心愛。勝手に見ないでよ」

 

「でも、これすごくいい歌詞だと思う。素人の私が言っても、説得力はないけど、鳴沢君に送るべきだよ。玲那だって鳴沢君に送ろうか悩んでいるんでしょ。だったら、鳴沢君に否定されてもいいから、全部送るべきだよ」

 

「そんなこと言われても簡単にできないよ。だって、心愛は最近の鳴沢の歌聞いてないでしょ。鳴沢は、私なんかいなくても、いい歌を書けるんだよ」

 

「聞いたよ。鳴沢君の歌。すごく良かった。でも、何かが足りないと思った。多分だけど、鳴沢君も同じことを思っていたと思うよ」

 

「そんなことない。鳴沢の歌は完成していた。私には完璧に聞こえた」

 

「玲那がそこまでいうのだったら、私だって、玲那のことを尊重するよ。大事な時期に面倒ごとを起こしたくないから」

 

 心愛は手をパンっと鳴らした。

 

「さ、ケーキ食べよう」

 

 頷いたけど、私の心の中では、灰色の雲が世界を覆っていた。

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