鳴沢の曲(第30話)
学校が始まって、2週間経ったのに、鳴沢は学校に来なかった。
クラスでは大学受験に向けた居残り会が連日行われていて、どこにいても勉強のことばかりが頭の中に浮いていた。
私も、曲はできたけど、見直しや歌詞のずれがないかの確認を怠って、勉強に全ての時間を費やしていた。鳴沢のことも、頭の片隅に追いやって、勉強のことで頭を埋めていた。
多分、勉強ばかりで嫌になってしまったからだと思う。
エクスネクの歌をまた聴きたいと思ってしまったのは。
金曜日の夜に流れもしない鳴沢の歌を期待して、久しぶりにアプリを開けた。
夜中の25時。
鳴沢も忙しいのに、配信なんてしているはずがなかった。そう思っていたのに、スマホからは、鳴沢の声が流れていた。
私が鳴沢と作った曲。いつもは1曲しか流れてないのに、何曲も連続で私が書いた歌が鳴沢の声に乗って流れていた。
『次は、一昨日にできたばかりの歌です。題名は「月を眺めて」です』
月を眺めて
ある夜の月を眺めていた
君と同じ空の下
空っぽだった僕の心を
満たしてくれたのは 君だったよ
何気ない言葉で 僕を見つけてくれた
You came and found me
君と出会ったのはある夏のこと
その日も今日みたいな満月で
月を綺麗だと思ったことないけど
君が綺麗だと言うから
僕も初めて綺麗だと思った
君のことを知りたい
僕の中でそんなことばかり考えてるんだよ
生まれ変わってもまた
君と一緒に毎日を過ごしたい
何気ない日常だって
君といれば安定だって
暗闇でうずくまる僕を
解き放してくれたんだ
君はこの日々をどう思っているか
聞いてみたいけど
I don't want to know
君の周りはいつも人だかり
あの日も今日のような満月で
嫉妬なんてしたことないけど
君が他の人と笑うから
僕は笑うことができなくなった
遠く離れて君の声が
頭の中でずっと聞こえてるんだよ
運命のイタズラでも
君と出会えたことが僕の全てで
何もない毎日だって
君のことばかりなんだって
寂しさで潰れてしまいそうな僕を
解き放してよ
この先もずっと君といられる
世界がいいな
君のことを知りたい
頭の中そんなことばかり考えてるんだよ
孤独な夜にだって
照らし続ける月の明るさが
君の笑顔と重なって
もう離れたくないんだって
僕を照らすのはやっぱり
君だけだったんだ
初めて聞いた曲だった。前は鳴沢が一人で作った曲を聴くのは心がモヤモヤしていたけど、今回は違った。
鳴沢の声がスマホから流れる。
『この曲は僕の大切な人への想いを綴った曲です。聴いてくれているかわかりませんが、届いたらいいな。と思ってます。次は、僕が、エクスネクを始めた時から温めていた曲です。ずっと歌詞が書けずに悩んでいましたが、ついこの間書くことができた曲です。題名は、高嶺の花』
高嶺の花
涼しい風が屋上を吹き抜けてゆく
春風とは違う少し暖かい風
流されるように 背中押され
僕は君と出会ったんだ
君が差し出した その笑顔に
踏み込む勇気持てなくて
今はひとりで いいやと思って
自分で扉閉めたんだ
あの日の風に揺れた声だけが
胸の奥で鳴り続けている
近づけば壊れそうで
触れたなら砕けそうで
目を逸らしたよ 僕は
それでも君は関わることをやめなくて
結局僕は君の隣で日々を重ねていた
投げやりに見えて 楽しくて
この日々が続けばいいのにな
君の才能が 眩しすぎて
隣に立つのが怖くなって
諦めたふりして 諦めきれなくて
押しつぶされそうだった
近づくほどに逃げたくなる僕は
言えないことばかり増えて
君の優しさひとつで
揺れている心が
踏み出せないまま 夜が更けてゆく
気づけば君の声も遠ざかり
半端な気持ちの言葉ばかり
僕が閉じた扉の向こう側で
君はもう 別の空を見てる
あの日の風に揺れた声だけが
今も胸で鳴り続けている
届かないと分かっても
君の隣でいたくて
君に届かないまま
春がやってくる
さよならも言えないまま
別れがやってくる
題名が『高嶺の花』とだけあって、どんなものか気になっていたけど、書かれた歌詞は、私と鳴沢の過ごしたここ何ヶ月かの記録のようだった。
配信が終わって、私はすぐに鳴沢に電話をした。そうしなければならないと感じていたから。
配信が終わったばかりなら、鳴沢も電話に出てくれると思っていた。
でも鳴沢は電話に出なかった。メッセージを送っても、既読はつかなかった。
寂しかったのもあった。悲しかったのもあった。気が付けば、頬に涙が伝っていた。
「鳴沢……お願いだから出てよ……」
大した時間も経過していないのに、スマホを見るのが嫌になった。鳴沢から連絡のこないスマホなんて持ってて意味があるのか。受け入れたくない現実に、スマホの電源を切った。そして、頭まで布団を被り泣きたい気持ちを抑え込みながら、眠った。
朝起きると、スマホに鳴沢から電話がかかっていた。だけど、電源を切ってしまっていて、鳴っていることに気が付かなかった。
何で電源を切ってしまったんだ。と後悔した。
♢♢♢
大学受験まであと1週間になった頃。
鳴沢はまだ学校に来ていなかった。
連絡も取れないままで、寂しさばかりが私の中に募っていた。
クラスのみんなは、初めは鳴沢がいないことに疑問をいだいていたけど、次第に存在を忘れたかのように勉強のことで頭がいっぱいになっていた。
私自身も鳴沢のことばかりに気を取られてはいけないと、鳴沢へ連絡するのを一旦やめて、勉強に集中した。
頭の片隅では鳴沢のことを気にしているつもりでいた。でも、歌のことに気を取られすぎて、勉強はギリギリまで迫っていた。
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