表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25時の音楽  作者: 倉木元貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/33

話し合い(第23話)

 夜。部屋の明かりは天井の小さな照明だけで、白い壁にぼんやりと影が落ちている。

 ベッドの上に横になったまま、私はスマホを手に取り、鳴沢とのトーク画面を開いては閉じる、その動作を何度も繰り返していた。


 ――なんて送ろう。

 ――どんな言葉なら、鳴沢は許してくれるんだろう。


 入力欄にカーソルを置いても、指は動かない。

 言葉を考えれば考えるほど、どれも薄っぺらく感じて、結局何も送れないまま画面を閉じてしまう。


 天井を見つめ、ゆっくり目を閉じても、浮かんでくるのは鳴沢の引き攣った顔ばかりだった。

 あんな表情、今まで一度も見たことがなかった。


 鳴沢と蟠りを抱えて以降、私たちはほとんど言葉を交わさなくなった。

 冬休みに入ると、学校で顔を合わせることすらなくなり、その分、距離だけが静かに、確実に広がっていく。


 冬休みに入って三日目。

 心愛が「新作のケーキを作ったから」と言って、私はエッセンラーデンに呼び出された。


 店内は、いつもと変わらず甘い匂いが漂っていて、外の冷たい空気とはまるで別世界だった。


「莉里は来てないの?」


 店内を見回しながら尋ねると、心愛はカウンター越しに答えた。


「今日は用事でいないんだって」


 差し出された皿の上には、真っ白なレアチーズケーキ。

 新作と呼ぶにはあまりにも王道で、見慣れた見た目だった。


「これ、新作?」


「うん。玲那が好きかなって思って」


「……何? どこが新しいの?」


 説明を聞く前に、私はフォークでケーキの角をすっと刺し、そのまま口に運んだ。


「酸味を、ゆずにしてみたの。それで――玲那、鳴沢君と何かあったの?」


 食べてから言うなんて卑怯だ。

 口の中に広がる爽やかな酸味と同時に、胸の奥がきゅっと締め付けられた。


「別に……」


「何もなかったら、鳴沢君が、玲那と歌を作る前みたいな顔してないよ」


「……知らないよ。鳴沢が勝手に怒ってるだけだよ」


「そんなわけないでしょ。玲那が何かしないと、鳴沢君が怒るわけないよ」


「心愛はどっちの味方なの?」


「私は玲那でも鳴沢君の味方でもある。片方だけの味方じゃないよ。

 話せないことなら無理に話さなくていい。でも、喧嘩したままなのは、私も嫌なの」


 私はフォークを置き、この間、化学室で起きた出来事を、ぽつりぽつりと話した。


「はあ……もう、何してるの? さっさと鳴沢君に謝りなさい!」


「はい……」


 返事をした直後、心愛はスマホを取り出し、鳴沢に電話をかけた。


「鳴沢君、今から来れるって」


「は⁉︎ 今から⁉︎」


「当たり前でしょ。仲直りは早いに越したことないよ」


「だからって……心の準備ができてないよ」


「そうやって先延ばしにして、最終的に仲直りできなくなるんだから。ちゃんと謝れば大丈夫」


「簡単な話じゃないよ……。だって、鳴沢のあんな顔、初めて見たんだもん……」


「学校で会ってるでしょ。合わせる顔もある。大丈夫だって」


 そのとき、店の窓越しに鳴沢の姿が見えた。

 冬の夜気の中で、少し背を丸めて歩いてくる。


 私は反射的に立ち上がり、トイレに逃げようとしたけれど、心愛に腕を掴まれて止められた。

 せめてもと、両手で顔を覆う。


「鳴沢君、いらっしゃい」


 指の隙間から見る鳴沢の表情は、「騙された」とでも言いたげだった。


「こんな大事な時期に、何喧嘩してるの?」


 心愛は、私が目の前にいると分かっていながら、鳴沢から事情を聞いた。

 その声を聞くのが精一杯で、顔を上げることはできなかった。


「玲那が話したいことがあるんだって。ちゃんと聞いてあげて。ほら、玲那」


「やだやだ……心愛ひどいよ。私たち友達だよね」


「友達だから、荒療治も必要なの」


 心愛は私の手を無理やり外そうとする。抵抗しても、力では敵わなかった。


「心愛……最低……もう、ここに食べに来ない……」


「いいから。鳴沢に話があるんでしょ」


 一瞬だけ鳴沢の顔を見た。

 けれど鳴沢も、私の顔を見ることはなく、視線を逸らしていた。


 私はそのまま机に顔を埋めた。


「鳴沢……ごめん……」


 しばらく、沈黙が落ちる。


「鳴沢君も。喧嘩は両成敗だよ」


 促されて、鳴沢が口を開いた。


「僕のほうこそ……勝手に怒ってごめん。

 近藤さんに悪気がないのは分かってたのに、イライラしてて……当たってしまった。ごめんなさい」


 謝られても、顔を上げられなかった。


「お前ら。二人の諍いに私を巻き込むな。

 喧嘩したら、すぐ謝る。いい?」


 私も鳴沢も黙っていると、心愛は私の頬をつねり、そのまま持ち上げた。


「わかった?」


「痛い! 痛い! 心愛! ギブ!」


「わかった?」


「わかった! わかったから! 手離して!」


 赤く腫れた頬を撫でていると、鳴沢も同じように頬を守るように手で覆っていた。


「鳴沢君も、わかった?」


 鳴沢は無言のまま、五回、高速で頷いた。


「私だけっておかしくない?」


「何が?」


 私は赤くなった頬を心愛に突き出した。


「だって、ことの発端は玲那でしょ? 友達として制裁を与えただけだよ」


「喧嘩両成敗どこいった!」


 心愛は聞こえないふりをして、私が食べたレアチーズケーキの皿を持ち、厨房へと逃げていった。

おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ