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25時の音楽  作者: 倉木元貴


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電話と予定(第12話)

 エクスネクの更新は休みだったのに、私はなぜか25時を前にスマホを見つめていた。

 習慣化されていて、簡単に変えることが出来なかった。


 静かな部屋で、居た堪れなくなって窓を開ける。

 窓の外では、カエルが大合唱をしていて、普段なら耳を塞いでいたけど、今日はエクスネクの歌が聞けないから、代わりには十分だった。

 不意にスマホの画面を開けると、通知が一つ。


 エクスネクの配信が始まりました


 なんで? 今日は配信がない日じゃなかった?

 鳴沢に問いただしたかったけど、今は配信中。迷惑になるから終わってからにしよう。

 エクスネク最初の曲が、なんの前触れもなく始まる。これは既存の歌。私が書いた歌詞ではなく、鳴沢が一人で作った曲。


 好きだった歌だけど、今だけはどこか寂しく聞こえる。きっと、その寂しさは、私の歌が流れないからだ。

 どんな拗れ方をしてるんだ。そんな嫉妬しても仕方ないだろ。

 言い聞かせても寂しさは拭えない。


 エクスネクには珍しく、2曲目が始まった。

 この曲は私の知らない曲だった。

 初めて聴いた歌。嬉しい反面、なんで私抜きで歌を作ったのか。とうとう苛立ちが込み上げてきていた。


 鳴沢は何を考えているんだろう。

 布団にくるまり、光を放つスマホの画面をただ眺めていた。

 じっと見ていると、エクスネクの配信は終わっていた。画面を閉じようとしたら、鳴沢からメッセージがきた。


(近藤さん。今から少し電話できますか?)


 さっきまでの苛立ちを覚えていたけど、鳴沢からのメッセージが嬉しすぎて、すぐに返事をした。


(大丈夫だよ!)


 鳴沢とは、メッセージでは何度もやりとりをしていただけで、電話は初めて。ビデオ通話でもないのに、前髪や身なりを整えて、勉強机の前に座った。


 鳴沢から電話がかかってくる。緑色のボタンを押して、応答する。


「も、もしもし……」


 声が少し裏返った。恥ずかしい。何を緊張しているのだか。


「も、もしもし……近藤さんですか……」


 私よりも鳴沢の方が緊張していた。

 鳴沢の緊張している様子を見ていると、落ち着きを取り戻しておかしくて笑い出していた。


「そうだよ。近藤です。どうしたの鳴沢?」


「あ、あの……近藤さんに話したいことがあって、電話をした次第です……」


「前置きはいいから、本題先に」


「あ……は、はい。えーっと……きょ、今日の歌聴いてくれました?」


「うん、聴いたよ」


「それで……率直な感想をお聞きしたくて……」


「本題それであってる?」


「あ、いや、すみません……本当は、今日の放課後に、羽山さんから、近藤さんが怒っているから、話した方がいいって言われてまして……近藤さんだけには信じて欲しいのですけど、今日の歌は……僕が一人で作った歌ですけど、僕一人の歌ではないのです。近藤さんが僕には話しかけてくれた時に作っていた歌で、歌詞に悩んでいました。歌ができなくて、更新できませんでした。近藤さんのおかげで、エクスネクは、前よりもいいものになっています。それは間違いないです。でも、僕は近藤さんに出会う前に作っていた歌を捨てたくなくて、近藤さんと過ごした日々のことを思いながら、書いた歌です。決して、近藤さんを仲間はずれにするつもりがあったわけではないのです。このことも近藤さんに相談しようとしましたけど……」


「長いわ! 言っている言葉の前後関係も曖昧だし、言いたいこと言ってるんだろうけど、一気にそんな言われても、理解できんわ!」


 聞くに耐えられなくなって、ついに言ってしまった。


「ご、ごめんなさい……えっと、つまり何が言いたいのかと言いますと……」


「要は、今日の歌は、私が歌詞を書く前から出来上がっていた歌ってことね」


「そ、そうなりますかね?」


「なんでそっちが疑問系なの」


「ごめんなさい……おっしゃる通りです」


「別に怒ってないよ。最近はさ、ずっと鳴沢と一緒に、歌を作っていたから、急にできなくなって少し寂しかっただけ。でもさ、鳴沢、今日せっかく化学室行ったのに無視しないでよね」


 鳴沢は途端に何も話さなくなった。


「鳴沢?」


「あ、あの、近藤さん……僕、今日、化学室には行ってませんよ。今日はずっと図書室で勉強してました」


「え……でも、物音してたんだけど」


「絶対に、僕じゃないよ」


 スマホをベッドの上に置いて、その上に乗っかるようにベッドに突っ伏した。

 恥ずかしい〜。鳴沢じゃない相手に「いるのだったら開けて欲しい」なんて。中の人怖かっただろうな。突然そんなこと言われて。

 急に私の声が聞こえなくなって、鳴沢は落ち着きを失っていた。


「近藤さん! 大丈夫!」


「……大丈夫だけど、大丈夫じゃない」


「何があったの!」


「恥ずかしいことだから聞かないで」


「あ、はい……すみません」


 窓を開けているから涼しい田舎の夜なのに、体温が暑い。虫の声に耳を傾けようとしても、頭の中で、私の声ばかりが繰り返していた。


「そ、そういえばさ。鳴沢、心愛……羽山が夏祭り一緒に行こうって、言っていたけど、大丈夫?」


「あ、メッセージくれていたやつ?」


「そうそう」


「僕はなんで誘われたの?」


「まあ、事情は色々。みんなの思惑があって……私はないからね。そんなわけで、どう?」


 鳴沢はまた黙った。少し考えてから、答えを出した。


「い……行きたい!」


 私は嬉しかった。言っておきながら、鳴沢に断られたらどうしようかとハラハラしていたから。


「じゃあ、詳しいことは決まったら、また連絡するね」


「わかった」


「それと、普段から私のメッセージちゃんと読んで。いつ化学室にいるのとか、私も知りたいから」


「これからは気を付けます」


「言質とったからな。絶対だよ」


「……はい」


 電話を終えても興奮して眠れなかった私は、少しだけ夜風に当たった。夏はもう目前だというのに、夜はまだ冷える。10秒くらいで切り上げた。

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