第六話「転機雨」
何を話すかと思ったら、バルダークは身の上話を始めた。
…俺「ギル・バルダーク」はアレタルト出身じゃない。
王都から見て南西に位置する街「グァラガ」、それが俺の故郷。
馬車事業を経営する父と手作りの編み物を露店で売ってる母、そして四つ離れた弟がいてな。
弟は先天的に瘴気への免疫が低かったのだ。
だがその変わりか俺よりも数段真面目で頭が良かった、兄として誇らしかった。
弟はアレタルトの王に仕える事を夢見てた、俺にできることは少なかったが精一杯勉強の面倒も見ていた。
…しかし今から九年前、俺が17の頃に
グァラガ周辺に「瘴雨」が訪れた。
俺達兄弟はその時稽古場でチャンバラをしてたのだが、突然強い雨風に呑まれ、必死に走って帰宅した時には弟の呼吸は不自然な程乱れていた。
普通の雨じゃなかったと気づいたのは弟が意識を失った次の日だ。
「…意識不明のまま弟は今年でお前と同じ年齢になった。」
「俺の都合で悪いが、同じ様な結末は辿って欲しくないのだ。」
…
「…マクレ班長は何処まで知ってたんですか?」
「いや、弟さんが意識不明で倒れているとしか聞いてなかった。」
「それにあいつはここに所属していた時割と愉快な奴でさ、俺にふざけ返したりもしてたし。」
「ここに入った理由も、家族の為とだけ言ってた。」
「…それらがまさか、兄としての行いだったとはな。」
…魔法の修得をする気には、もうなれなかった。
「退屈って、やっぱり一番良いのかもな。」
廊下で一人呟いた。
突発的に強い雨風が発生した際、稀に雲の中に混ざっている瘴気を雨が内包する事がある…それが「瘴雨」