三話「謁見」
清掃寮へ戻り、鏡を見て身だしなみを整える。
医務室の医療鑑定士?とやらに検査してもらって分かった事だが、俺は大体20歳前後らしい。
「さて、向かうかな。」
清掃寮から王の居る部屋までのルートは結構あるが、今回は中庭を通って行く事にした。
「っはぁ~やっぱりちょっとだけ中庭浴してこうかなぁ~」
正直めちゃくちゃ緊張してる。
「あの!」
「うぁ」
背後、女の声だ。
…まさか、関係者に謁見をサボろうとしているとでも思われたか。
「いやいや、ちゃぁ~んと向かいますから心配ご無y」
…誰も居ない。
「あの!」
また背後から声。
振り返る…が、居ない!?
「あの!あの!あの!あの!あの!」
四方八方から女の声。
「な、何なんだよ!、用があるならそっちから出てこいよ!」
「あの!あの!あの!あの!あの!」
「クソッ!」
怖くなった俺は逃げるように目的地へ向かった。
中庭には女の笑い声がこだましていた。
さて、大きな扉の前に来た。
「やっぱり震えるな、壮観過ぎて。」
「やぁ、君が謁見予定のボブ君かな?王の近衛のラスタゲインという者だ。」
「はい!そうです。」
「良し!では今から俺と反対側のあいつが扉を開くから、少し下がってて。」
風に圧力を感じる。
…開かれた扉の先には、長い髭を携えた王が座っていた。
─思わず少し、ここに来たことを後悔してしまった。
静かに歩みより、片膝をつく。
「謁見に参りました、ボブです。」
…こんな感じで大丈夫だろうか。
「ンハッハッハッハ!よく来てくれたねぇ、ちゃんと服も着とるなぁ。」
「しかしそんなに堅くされるとかえって申し訳なくなるよ、大分待たせてしまったのだから。」
始めて合った時と同じで、豪胆な人だ。
「本当は俺からこの世界について説明をしよう、と言いたいが。」
「なにせこのような事は始めてだからな、俺も何処から何処まで話せばいいかが分からんのだ。」
「だからこそ聞こう、何が知りたい?」
…何が知りたい?
そんなの沢山ある…けど。
「魔法を使う方法について、知りたいです。」
異世界に来たなら、言ってみたいよ。
「…」
「やはりそう来るか、お前には使えんよ。」
「正確にはお前の体内にある水を媒体とすれば下位の水魔法程度は使えるかもしれんがな、それをしたとて脱水で倒れるだけだ。」
分かっていた、分かっていたがその言葉は想像以上に重くのし掛かった。
…部屋を出て、緊張が解かれる。
「ふうっ」
「緊張したか?ボブ君」
「はい、ラスタゲインさんでしたっけ。」
「そうだ、ンハハッ俺もここに入った後毎回緊張してるんだよ」
あの後他に転移者が居ないかも聞いてみたがアレタルトには居ないらしい。
ただ、この世界の情報網が発達していない事は念頭に置くべきであろう。
今回は比較的長いなと感じたのではないでしょうか。
実は最初の構想では謁見を経た後凄く重いストーリーにするつもりでした。が、明るめで読みやすいストーリーに舵をきることに決めた為、中庭の話を付け加えたり質疑応答の内容をバッサリ変えたという裏話があります。