十三話「羊」
「犯人の目星とかはついてたりするんですか…?」
「いーや、しかし気になる点があってだな。」
「それは降り始めから終わりまでの風雨の強さが一定であった且つ、何の前触れも無く発生した点だ。」
「雨はまだ分かるが、風まで強さが一定であるとおかしいとしか思えん。」
「確かに…そうですね。」
「だが魔法を使ったならあり得るという訳だ。」
「…なぁ、今度はこちらから質問していいか?」
「どうぞ。」
「君は、どこから来たんだ?」
「えっ。」
「顔つきを見りゃ分かる、単純に興味を持っただけだ。」
「実は…」
これまでの事を話した。
「…ん、にわかには信じがたいが。」
「?、では何故ここの言葉が理解できる。」
「凄く似てるんです、文法とか発音が。」
アルファベットを崩したような文字ではあったが、この世界の言語は根本的にパソコンのかな入力と遜色が無く意味も通っていた。
「そうか…後、その胸元の魔晶についてだが。」
コンッコンッ
「…砂はさほど落ちていない、依頼人じゃないな。」
バルダークさんは扉に近づいたが、警戒しているのか扉越しに客人と会話を始めた。
「誰だ。」
「ギルドの者です、貴方の事を聞き回る不審者が居ると聞いたのですが。」
「…彼におかしい所は無かった、心配いらないですよ。」
「話されたんですか、家に入れたりはしていませんか?」
「今まさに家で話していたんだ。」
「そうですか、なら彼に一度外に出るよう伝えてくれませんか?」
「君、聞いていたな?」
「分かりました。」
扉を開く。
━危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険
俺は本能のままに前方へ倒れ込んだ。
バチッ
振り返ると扉の死角に羊の頭骨を被った人間?が立っていた。
羊頭はダガーの先端を俺に向けている。
「ッ!?」
横に転がる。
バチッ
音の正体はダガーから放たれた電撃だった。
こいつ、確実に俺を狙ってる。
羊頭は再度ダガーを向け直す。
「貴様ァ!何してやがる!」
バルダークさんは背後から羊頭を羽交い締めにしようとしたが、右腿を刺されてしまった。
状況を理解した周囲の人々がぽつぽつと恐怖を声に出し始める。
「俺が狙いなんだろ!羊頭!」
「…俺は今から全速力で逃げるからな。」
対抗手段の無い俺はアデルの元へ駆け出した。
振り返ると、奴がこちらに向かって歩き始めるのが見えた。
「あれ絶対雷魔法だよな!」
「何で使えてんだよ!」
魔法について勉強していた際に知った事だが魔法の中には一般使用禁止属性があるらしい。
それこそが雷魔法、理由は単純に普段使いには危険すぎるからなんだと。
しかし、さっきから電撃が襲ってくる気配がない。
「何故だ?」
瞬間、髪を後ろから掴まれる。
「あっ!」
俺は体勢を崩し仰向けに倒れてしまった。
「お前、どこから来たか答えろ。」
「…そんなん聞いてどうすんだよ。」
「本人確認さ、本当に対象がお前なのか。」
「…対象って何だよ、誰かの駒なのか?」
羊頭は俺の頭を持ち上げ、ダガーを近づける。
「いいから言え、お前はこの世界の住人なのか?」
「言わなかったらさっきの男を。」
「…あぁそうだよ、俺はこの世界の住人じゃない。」
そう言い終えると、羊頭は乱暴に手を離した。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!」
「雑魚じゃんコイツ。」
憤った羊頭は周囲に電撃を放ち始めた。
「俺の何が目的なんだよ!」
「もういい、永遠に黙っとけお前は。」
羊頭はダガーを持った手を振り上げる。
「…ウィアトル・ゴナ!」
つむじ風が羊頭を襲う。
「門まで逃げて、全力で。」
「…あぁ、ありがとな!」
今のアデルからは少しの軽薄さも感じなかった。
「随分と奇抜な格好してるね、ちなみにセンス無いよ?」
「いや、離反者達の感性が貧相なのは想像に難くないけどさ。」
「羊の頭骨なんて被っちゃって、きっと臆病な自分を最大限大きく…」
レイピアの様に細く鋭い稲妻が放たれる。
が、アデルが杖を円を描くように回すと杖の前で霧散した。
「私は才女なの、皆とレベルが違うんだよ。」
「…ごめんね?鼻を折るような真似しちゃって♪」
羊頭はただ佇んでいる。
…正直、風も重力も周りの事を考えると使いにくいな。
羊頭はすぐ目の前まで迫って来ていた。
「速っ!?」
咄嗟に杖を胸に寄せる。
突きは杖で流し運良く入らず、続く左斜め上からの攻撃は身を捩って回避。
流れるまま右脇に潜り込まれたが、刺される直前に杖で守れた。
「ウィアトル!」
羊頭は地面を蹴って後退しようとした。
「ラズィ!」
しかし魔法により羊頭の体がふわりと浮かび上がり。
「ゴナ!!」
風を受け上空へ飛んでいった。
一方、ボブは体の異変を感じていた。
「…ハァッ、ハッ、はっ、はぁ。」
何だ、おかしい、息を吸う度肺が重くなってる。
それに、胸郭を何かが押し広げている様な不快感もある。
「逃げないとっ、はぁっ折角あいつが…時間稼いでんだから。」
しかし堪らず俺は民家の陰に隠れてしまった。
「はぁっ、まじでほんと~にっ、何なんだっ。」
「手は痺れてきてるし、リンパも腫れてきてる。」
ふと胸元の魔晶に目を向けると、白っぽかった色の半分程が黒色に染まっていた。
こんなのを見て良い妄想が膨らむ訳が無い。
「魔物だぁ!」
誰かが叫んだ。
「空だ!空を見ろ!」
空には大きな鷲が数体飛んでおり、皆俺が来た方へ飛び去っていった。