第五話「変化の兆し」
太陽が灰色の都市街に完全に隠れた後、部屋は完全に闇に支配された。
光源を捨てた部屋の中で、背中を座椅子に預け、じっと見つめているのは天井に据え付けられた蛍光灯。
外から聞こえる自動車の走行音と、ガソリンの異臭。
何も掴むものがない、このさみしい腕は頭上に突き上げられていた。
その腕は、ここにはない何かを求めているようだった。
瞬きもせずにただ漠然と映す瞳に生命は宿っていない。
ガソリンのツンとした臭いが鼻腔をくすぐる。
天井に突き上げていた腕は次第に落ちていく。ざわりと腰の上に腕が落下する。
力の入らないその腕はひんやりとした冷たい汗が染み出していた。
そんな無機的な部屋に突然キリリと機械音が鳴り響いた。
キカカンッと警告音めいた呼び鈴に意識が移動する。
波紋一つない、固まりきった池の水面が小石一つで変革するように、この停滞していた部屋に変化が訪れた感覚があった。
俺の目に色が戻る。まるであの頃へ戻されるような感覚。長らく忘れていた記憶。
その記憶の断片に染みついた介入者。そいつがこの近くにいるような気がした。
押し戸の奥にいるのは、あの事件から背を向けた裏切り者。
あの日の過ちを正す。それだけのためにやってきたのだろう。俺とお前は。