第一話 導入〜「死神は姿を表さず、人を殺める」
一話は現実世界。
妹、母親との幸せな三人暮らしが…。
暴風警報、絶賛発令中、夜中11時、屋外。
レジ袋片手に俺、母、妹は、帰路についていた。
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暴風がシュバアンッと、何度も俺の顔面を叩きつける。
「いてぇ。何これ、最悪だろ、いてぇよ。」
そんな俺の魂の反抗に気にすることなく妹が声を出した。
「お兄ちゃん!先に行っちゃうよ!」
「いじらしい、もどかしい、うませたい、ときめいちゃう、略して、( い も う と )。」
目の前を、ルンルンとかける、『妹』がいるなら俺は無敵だ。
煌々と輝く月を台風が隠していた。
けれど愛らしい妹のマバユキが隠れることはない。
母親のそば、天使のステップで飛び跳ねる妹は光り輝いていた。
右手に持ったイモウトの好きな果物が入ったビニール袋がザラザラと騒いでいる。
そして地上を覆って、ザザザッと爆発をしているのは、街を覆う、雨の粒たち。
そんな環境音に紛れて、俺の喉元からは、本音が漏れ出た。
「俺の妹、超可愛いんですけど。」
茶色いロングヘアーをポニーテールで結び、ゆらゆらと左右に靡かせる女神の髪。
華奢だけれど出るところは出ているモデル型の体型。
清涼感あふれる風鈴の声に、沖縄の海のように透き通った青い瞳。
「俺の妹、超可愛いんですけど。」
その声は心臓の中を反響して肥大化する。
俺の妹への愛情は何度もビックバンしていた。
「お兄ちゃん。信号緑になっちゃうよ、ボケーっとした顔してないで、ほら、さっさと行くよ。」
妹の可愛さを語ってしまっていたせいで、随分と時間を食ったようだ。
俺はグシャリと右手を力ませ、ビニール袋を持ちあげる。
肩にかけて、足に袋が擦れないようになったのを確認して、走り出す。
「今から行く。ユイのためならお兄ちゃんは、死んでも死なんぞぉ!」
前方で、信号待ちをする母と妹。二人は和気藹々と楽しそうに会話をしている。
「お母さん!家まで競争だよ!」
「はいはい、わかりましたよ、ユイ。お母さんも負けてられないんだからね!ふふっ」
典型的な仲睦まじい家族のやり取り。
ザザザッと勢いを増す雨から、俺も家族のもとにズンズン走っていく。
肩に背負い直した果物の袋がぐわんぐわんと弧を描いて振動する。
二人の仲のよい様子に少し羨ましがりながらも、微笑ましい微笑で後をついていった。
「幸せだなぁ、俺。」
ざんざんと吹き荒れる風はその勢いを増す。
楽しかった世界が、目の前で…
異常に勢いが増した突風は3秒後、俺たち家族を襲った。
その突風はまるで、幸せ者を粛清する死神のようだった。