惨殺現場の霊視
昔は夏になると、怪談とか心霊モノとかいろいろと
怖い話がテレビで放送されていました。それ以前に
当時の東〇12チャンネル=今のテレビ〇京では毎週
「び〇くり大集合」というヤバいホラーネタ全開の、
胡散臭い、もとい、刺激的な番組が放送されており、
再現VTR はもちろん、実際に現場でロケして映った
超常現象(とされる映像)をバンバン流していました。
日〇レ朝の情報番組「ルックルックこ〇にちは」が
受刑者の生き血で描かれたという晒し首の掛け軸を
紹介したら閉じてるはずの目が開いていて、視聴者
から電話が殺到したとか本当にいろいろありました。
おそらくはどれもあざとく視聴率を狙ったテレビ局
スタッフのやらせであり、何らかの加工であろう……
というのが私の意見(※意見には個人差があります)
ですが、万が一、もしも、これがガチだったら……
という、ドリフでいうところの【もしもシリーズ】
を意識して書いた(←ガチで? )のがこれです。
何とぞ読んで、くんなましー♪
ゆめゆめ、疑うことなかれ~ (=人=)ナムナム…
私は、TVの制作会社でディレクターをしています。
数年前、夏向けの怖い話特集のひとつで、迷宮入り
した殺人事件の現場を霊能者が訪れ、霊視によって
真相に迫る企画を立ち上げました。類型的ですが、
この時期には、確実な視聴率が見込める内容です。
ところが、結局この企画は放送されませんでした。
いいえ、放送できなかったのです。
× × × × ×
「…… ついこの間も同じような事がありましたじゃろ?
わしゃ、胸を衝かれましたわい」
小柄な老人が、静かに語っていました。この老人は
十年前、同居していた息子夫婦と生まれたばかりの
孫を何者かに惨殺されたのです。警察の必死の捜査
にも拘わらず、犯人は見つからないまま先日時効を
迎えてしまいました。
「なんであんな酷い真似ができるんかのう…… 」
老人はそっと目頭を拭いました。気の毒でしたが、
私は内心で、しめしめとほくそ笑んでいました。
「夜の十時過ぎ、老人会から帰ってきたら、倅と嫁が
血まみれで倒れとった……ここに」
老人は、今は廃屋となって畳もない部屋に立って、
その一角を、手振りで示しました。惨劇があった、
まさにその現場で、当時の状況を振り返る、被害者
のたった一人の、年老いた遺族……
「孫は…… 孫はちょうど、あんたが立っとる辺りに……」
老人は悲し気に鼻を啜り上げました。素晴らしい!
演出では、ここまで効果的に視聴者の涙を引き絞る
絵は撮れません。出演依頼をして正解でした。これ
で数字も二桁は間違いないぞ…… 私は顔がにやけて
くるのを必死でこらえていました。
さあ、いよいよ霊能者の登場です。不安そうな老人
の前に、黒ずくめの衣装に身を包んだ怪しい女性が
姿を現しました。水晶占い師にして、稀有の霊能力
を誇るという通称マダムB。雰囲気が俄に胡散臭い
ものに変わります。老人は戸惑い、目が点になって
いましたが、マダムBは構わずお馴染みの口上を、
声も高らかに述べ始めました。
「はいいい! 当たるも八卦当たらぬも八卦。OK?」
「はあ…… 」
「信じる者は救われます! されど、信じなかったら
足元を掬われます! ゆめゆめ疑うことなかれぇ!」
マダムBはいつもの段取りに従い、仰々しく懐から、
二個の水晶玉を取り出しました。
「さあさあ私のタマタマちゃん…… 殺された可哀想な
人たちと、お話をさせてちょうだいな!」
そして水晶玉を摩りながらいつものように目を薄く
閉じて、トランス状態に…… 息を呑んで様子を窺う
老人の手をさりげなく握ったら、このあとは白目を
剥いてうんと唸り、泡を吹いてぶっ倒れることに……
「ちょっと…… ごめーん!」
マダムBが、いきなり素の表情に戻りました。
「ディレクター、ちょっと段取りを確認させて!」
そういうと私の手を引いて、そそくさと廃屋の外へ
連れ出しました。
「あんた…… 一体、何を考えてるのよ?」
マダムBは、顔色を変えて私を難詰し始めました。
「どうしてよりによってあの爺さんを出演させるの?」
「いやまあ、悪趣味だとは思ったんだがね…… 家族を
殺されたご遺族本人が出演するとなれば、テレビ的
には間違いなく盛り上がるし、数字的にも…… 」
マダムBは私の言い訳がましい言葉を遮りました。
「違う! 違う違う! 遺族じゃない…… あの助平爺
が殺したのよ! 息子の嫁に懸想して、手を出そう
としたけど突っぱねられたから、逆上して嫁だけで
なく、嫁を庇った実の息子や初孫まで切り刻んだ!」
「え…… しかしどうして、そんなことが分かるんだ?」
「ちょっと…… もしかしてあんたも私のこと、やらせ
のインチキな偽霊能者だとでも思ってるの?」
答えに窮しているとマダムBは震える手で私の腕を
掴んで、涙目で懸命に訴えました。
「見えたのよ! 爺の後ろに首のない赤ん坊を抱いた、
血まみれの若夫婦が立ってて、血の涙を流しながら、
爺を指差してたの…… こいつに殺されたって!」
私は慌ててマダムBの口を塞ぎました。
「しぃーっ! 中に聞こえちゃうだろ!」
「構うもんか! 警察を呼んだ方がいい! あの爺は
血も涙もない、サイコパスの兇悪殺人犯なのよ!」
「しかし、証拠がない…… それにもう時効だし…… 」
「時効が何よ? 真犯人を野放しにする気? 」
「いや、真犯人かどうかは、今のこの時点では…… 」
「あんた! 私に何度同じことを言わせ…… ひっ!」
マダムBがひゅっと息を吸って言葉を飲み込むと、
紙のような顔色になって小刻みに震え始めました。
あの老人が、いつのまにか、私たちの背後に立って
いました。そして好々爺然とした微笑みを浮かべて、
マダムBに、穏やかな声でこう言ったのです。
「おほう、すごいのう…… あんた、本物じゃったか!」
【ネタバレ含みます。本編を読んでから閲覧してね!】
これを書いたのはもう二十年以上前…… しかしその後、
例のあまりに有名なあの古典名作シリーズを読んだら、
〇〇〇の〇〇が〇〇に○○されたと〇〇に〇〇 する話
があって正直ちょっと焦りました。誓って言いますが
不勉強な私がその話を読んだのは21世紀になってから
で、この話を書いた20世紀の時点では、本当にガチで
全く知りませんでした。信じて信じて! 今となって
はスタンダードでありがち?なネタかも知れませんが、
少なくとも誓ってパクリではないのです、ないのです!
そこんとこよろしくメカドックわんわん。
それはそうと(←何が「そうと」か?) 依頼を受けて
これを朗読劇に潤色したとき、ラストがちょっと弱い
かもだと感じて、最後に爺が息子家族の殺害に使った
ナタを持ってきて、口封じにディレクターも霊能者も
ギッタンギッタンに斬り刻んで一件落着!という展開
にしたのですが、今回リライトしてみて、どうも座り
が悪いと思って元のオチに戻しました。このあと爺が
どうするか、どんな顛末になったかは、読者に考察と
予想を委ねる、いわゆるオープンエンドですね。爺と
マダムBが死体の山を築きながら血で血を洗う死闘を
繰り広げる、ハリウッド(やイタリア)にありがちな
戦うヒロイン系血みどろアクションホラーも許される
んジャマイカとも思いましたが、許されないかもです、
許して。
それはともかく、昔テ〇朝のそういう番組に出演する
ため来日したオランダの超能力者ク〇ワゼット氏が、
少女の行方不明事件を透視したらガチで溺死体を発見
してしまい大騒動になる(水面に浮かぶ女の子の遺体
がゴールデンタイムのTVにモザイクもなく映された)
案件がありましたがあれどうなんでしょうね。本当に
超能力ならともかく、万が一、万が一ですよ? 実は
死体はすでに発見されてたけど視聴率のために警察に
通報せず撮影開始まで箝口令を敷き、ああいう露骨で
ドギツイ演出にしてたとしたら(※個人の妄想です)
今や動物の死骸すら迂闊に映したら苦情と抗議が殺到
するのに、当時のコンプラは今より余程緩かったのか、
それとも…… おや、こんな深夜なのに誰か来たようだ。