召喚
カナデは、広大な森林に囲まれた小さな村で暮らしていた。彼の家族は代々農業を営み、平穏無事に生きていた。母と父、そして妹のミユと共に、毎日を楽しんで過ごしているかのように見える。しかし、カナデの心の中には、どこか物足りなさがあった。
「もっと何か、大きなことをしてみたい…」
そんな思いを抱えていたカナデは、いつものように朝早くから畑仕事をしていた。彼の手に握られた鋤から、土の香りが立ち上る。青空に浮かぶ雲の形を眺めながら、彼はふと思う。
「いつまでこんなことをしていればいいんだろう…」
カナデの目標は、村を出て広い世界を見て回ることだ。しかし、家族の期待や村の人々の信頼が重く感じることがしばしばだった。彼の心の中で、冒険心と家族への責任が入り混じり、答えを見つけることができなかった。
その日も、カナデは昼休みをとりながら村の広場で友達と話していた。突然、見知らぬ光が空を走り抜けるのを目にした。
「何だ、あれ…?」
その光は、急速に大きくなり、目を見張るような速度で地面に向かって落ちていった。カナデはその場から動けずに立ち尽くし、ただただその光が落ちるのを見守るしかなかった。
光が地面に触れると、周囲の空気が震え、音を立てて消えていった。彼は、全身に震えを感じながらその場に踏み込んだ。
そこには、どこか異質な魔力を帯びた遺物が埋まっていた。それは、古びた金属の円盤のようなもので、表面には見たこともない文字が刻まれていた。
「これ、何だ?」
カナデはそれを手に取ると、突然背後から強い力に引き寄せられるように感じた。円盤が光り輝き、彼の手の中で一瞬だけ強い閃光が放たれ、次の瞬間には空間が歪んだ。
「うわっ!?」
気づくと、カナデはもはや村にいなかった。周囲には異世界のような景色が広がっており、空はどこまでも青く、遠くには高い塔が立っていた。足元には奇妙な植物が生い茂り、空には飛行する生物の影が見える。
カナデは驚きと恐怖で体が硬直した。
「な、なんだ、ここは…?」
その時、前方から重々しい足音が聞こえ、何者かが近づいてくるのを感じた。振り向くと、一人の中年の男性が、鋭い眼光でカナデを見つめていた。
「お前が、選ばれた者か…」
その声は、カナデにとって未知の響きだったが、何故か心の中にひっかかるような感覚を覚えた。
「お前の名前は?」
「カナデ…です。」
「カナデか…お前がこの世界に召喚された理由を教えてやろう。」
男性はカナデの目をじっと見つめ、深いため息をついた。
「実は、この世界は暗黒の王によって支配されている。我々はその支配に対抗するため、各地から勇者を召喚している。だが、なぜかこの世界には、他の世界から選ばれた者がやってくることが多い。お前もその一人だ。」
カナデは話の内容が理解できなかった。召喚? 勇者? 何もかもが自分には縁遠いことばかりだ。
「でも、どうして僕が…?」
「お前の力だ。お前の中には、この世界を救う力が秘められている。それが、今の時点ではまだ分からない。だが、お前は必ず、何かを成し遂げる力を持っている。」
その言葉に、カナデはますます混乱した。自分にはただの普通の村の少年だと信じていたからだ。
「お前がこれから行うべきことは、まずこの世界の秘密を解き明かすことだ。そして、暗黒の王を倒すための力を集めること。お前には、それを成し遂げる使命がある。」
カナデは、改めて自分の周囲を見渡した。この世界の異常さに圧倒され、彼は静かに頷くしかなかった。
「分かりました…でも、どうやって?」
「まずは、この街を守る戦士を目指し、修行を積むことだ。それが第一歩となるだろう。」
その瞬間、カナデは自分の運命がどれほど重いものかを少しずつ感じ始めた。
カナデは異世界に召喚された理由を知り、その役目を果たすために異世界の街に足を踏み入れた。初めて見る巨大な街並み、無数に広がる商店街、街中を歩く異なる種族の人々、すべてがカナデの想像を超えていた。
「ここが…俺が今から生きる世界なのか…」
街の中心には、大きな広場があり、その周りを豪華な建物や塔が取り囲んでいた。人々が忙しく行き交い、各所で商売が行われている様子が見受けられた。カナデはその光景に圧倒されながらも、一歩ずつ前に進んだ。
その時、カナデの前に一人の女性が現れた。彼女は、肩までの長い黒髪を束ね、鋭い目つきと精悍な表情を浮かべていた。身に着けているのは、戦士の鎧と盾。
「君がカナデか?」
その声にカナデは驚き、立ち止まった。何も言わずに立ち尽くすカナデを見て、女性はもう一度口を開いた。
「私はエリス。この世界の戦士の一人だ。君が召喚されたという話を聞いてきた。」
「エリスさん…君も召喚されてきたのか?」
「いや、私はこの世界で生まれ育った。だが、君のような者が召喚されたのは珍しい。どうやら、君には特別な力があるらしいな。」
カナデはその言葉を聞きながら、ますます混乱していた。自分に特別な力などないと思っていたからだ。
「とにかく、君がこれから進むべき道について、話がある。」
エリスはカナデを街の一角にある小さな宿屋に案内した。宿屋の中には、数人の冒険者が集まっており、彼らもカナデを不思議そうに見ていた。エリスはその中で最も目立つ人物に向かって手を挙げた。
「ランス、少し話をしよう。」
その人物は、筋肉質な体に黒い鎧をまとい、目つきが鋭い中年の男性だった。彼の顔には無精ひげが生えており、周りの冒険者たちと同じように、少し荒れた雰囲気を漂わせていた。
「ランスさん、君に紹介する。こちらが召喚されたカナデだ。」
ランスはその言葉を聞いて、驚いた様子を見せることなく、ただカナデをじっと見つめた。
「君が、召喚されたカナデか。どうしても実感が湧かないな。」
「実感は湧かないよね…俺もまだ信じられないし…。」
カナデはつぶやくように言い、顔をしかめた。異世界に来てからというもの、心の中でずっと混乱していた。
「だが、これから君がこの世界でやるべきことは明確だ。暗黒の王を倒すために、力をつけ、仲間を集めることが必要だ。」エリスが静かに言った。
ランスも同意するように頷く。
「だが、暗黒の王を倒すには、ただ強さだけでは不十分だ。心の強さ、仲間との絆、そして何より、この世界の秘密を解き明かすことが重要になるだろう。」
カナデは自分にできるのか不安だったが、それでも少しずつ決意が固まりつつあった。
「君が信じられるのは、この世界の真実と、君が持っている力だ。その力を解放し、私たちと共に戦おう。」
その言葉に、カナデは初めて前向きな気持ちを抱いた。
エリスとランスは、カナデにこれから修行をさせることを決めた。最初は、基本的な武術の使い方や、この世界の魔法の使い方を学ばせることから始まった。
「魔法…?」
カナデは疑問の表情を浮かべながら、エリスに尋ねた。
「そうだ。この世界では、魔法を使うことが重要になる。君には、まだその力が完全には目覚めていないだろうが、今からその力を引き出せるようにしなければならない。」
エリスの指導のもと、カナデは毎日魔法の修行を積み重ねていった。最初はうまくいかなかったが、少しずつ力を感じるようになり、次第に自分の中に眠る力を引き出すことができるようになった。
「よし、今日はこれで終わりだ。」
ランスが手を叩いて言った。
「明日からは実戦だ。君がどれだけ成長したかを試す必要があるからな。」
カナデは少し緊張しながら頷いた。
「分かりました。頑張ります。」
その言葉が口をついて出たとき、カナデは改めて自分の使命を感じていた。
初めての投稿です!
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