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「とにかく、オスカーの従騎士試験の件も、モンティアナのアクセサリーの件も、本邸の使用人のことも、私に任せてくれ。今月中には片をつける」
「はい、お父様。それではそろそろ夕食の時間ですので、本邸に戻ります」
「父上。……また、こちらへ来ても構いませんか」
「もちろん。オスカーには領地経営のことも少しずつ伝えていきたいしね。そうだ、次に領地へ行く際は、一緒に行くかい?」
「はい! 是非!」
「お父様! 私も行ってみたいです!!」
「あぁ、アドリアーナも行こう。もしよければモンティアナも誘ってくれると嬉しい」
「もちろんです! 次は三人で遊びに来ますね!」
「楽しみにしているよ」
お兄様と目を合わせて笑い合った。全てが良い方向に進んでいる。そう感じた。
「それでは、失礼いたします」
「アニー、また来てくれた時には食事も一緒にできると嬉しいわ」
「では、昼食を」
「えぇ、楽しみだわ」
カーラお母様と軽くハグをして別れの挨拶をする。母親に抱かれるということがこんなに満たされる気持ちになるなんて、知らなかった。
本邸に向かって歩き出すと、後ろでお父様がカーラお母様に『アニーと呼んでいるのか? 私も呼びたい』と言って、みんなに笑われている声が聞こえた。
離れは本当に使用人とも良い関係で、良い雰囲気だと思う。
「俺もアニーって呼んでいいか?」
お兄様も聞こえていたらしい。
「もちろんですわ。嬉しいです!」
「……今日は、ありがとう。従騎士試験のことも……侯爵を、父上と呼ぶことができたことも、とても嬉しい。アニーのおかげだ」
「私は離れへお兄様をお連れしただけですわ」
「だが俺一人では到底来れなかったさ。お前はいつから離れに?」
「昨日です」
「あぁ……昨日からお前は人が変わったようだな。もちろん、いい変化だと思っているが」
「えぇ、夢を見たのですよ」
「昨日もそう言っていたな」
「私は、私の思い描く最高の未来へ、突き進んでいくのですわ! 全力で!」
貴族令嬢であれば、はしたないと言われてしまうくらいの大きな声と、歯を剥き出しにした笑顔で、そう宣言する。
これから、大好きな夫と再び出会って恋に落ち、結婚して、最愛の娘を迎えに行くのだ!
全てはアレクとチェルシーとの幸せな日々のために。
あと、ジュディスお母様にギャフンと言わせてやるために。
「さぁ、お兄様。行きますわよ!」
「おい! さっきからはしたないぞ! こら、走るな!」
「あははは! 早くしないと遅れますわよ!」
「アニー!」
侯爵家でこんなに笑ったのは、初めてだった。




