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イーサンに連れられて中庭をさらに進んだ先にはガゼボがあった。入るとカーラお母様がいた。
「あら、ハロルド様とオスカー様は?」
「あの二人はあの二人で、話した方がいいと思いましたので、私はこちらに」
「そう。私の所にも来てくれて嬉しいわ」
本当に嬉しそうに微笑むカーラお母様に心が和む。私は私で、何を話そうかと思っていると、先にカーラお母様の方から話しかけてくれた。お兄様の時と同じパターンだわ、と内心笑ってしまう。
「あの……アドリアーナは、私のことを恨んでる?」
「いいえ、それはありません」
「でも、私のせいで辛い目に遭ってきたのでしょう?」
「……うーん」
私が、この侯爵家で嫌な思いをしているのは、カーラお母様のせいではない。悪いのは絶対的にジュディスお母様だと思うし、恨むとしたらジュディスお母様だ。
だけど、もし……と考えなくもない。ジュディスお母様の言いなりならずに、私を育てていてくれたら、どうだっただろうか。どんな人生だっただろう。
でも、もういい。それが私を思ってのことだと分かったし、愛されていたのなら、それでいいと今なら思える。
「お母様の方が、辛かったのではないですか?」
「え……?」
「私が言うのはおかしいかもしれませんが、お母様にとって、私はたった一人の娘でしょう? その子の成長を自分で見ることができないなんて……辛いだろうと思います」
私は前の人生で、チェルシーというかけがえのない大切な娘を得た。お腹にいるだけで愛おしさを感じて、生まれてきたその顔を見るだけで泣きたくなるほど幸せで、可愛くて。
我が子はこんなにも可愛いのだと実感すればするほど、カーラお母様に愛されなかったことが心に重くのしかかった。チェルシーが存在するだけで愛おしいと思うたび、自分がそう思ってもらえなかったことを思い出して虚しくなった。
でも、違った。
カーラお母様は、私との時間を奪われたのだ。
悲しかっただろう。何度も泣いただろう。
私だったら、まともな精神でいられない。今だって、チェルシーがいないことが、辛くて、寂しくて、ふとチェルシーの泣き声がするような気がして……胸がギュッとする時がある。
この先、またチェルシーと会える未来があると信じているから頑張れるけれど……カーラお母様はそうじゃなかった。
本当に辛かっただろうことは、今目の前で泣いている姿を見るだけで分かる。母になったことがある私だからこそ、分かってあげられる。
だから、恨むなんて、あり得ない。
「アドリアーナ……ごめんなさい……っ! 私は、私ばかりが辛いのだと、あなたの気持ちを考えもしてこなかったのに……!」
「お母様……いいんです」
「もっと、もっとしてあげられることが、きっと、きっとたくさん、あったはずなのに!」
「いいんですよ、もう。これから、やり直していけばいいではありませんか」
「…………アドリアーナ……っ!!」
力強く抱き締められると、私も涙が出てきた。母に愛されているというのは、こんなにも幸せなことなのか。
私もお母様を抱き締めると、さらにお母様に力を込められて、苦しくて……幸せだった。




