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 侯爵家の騎士に混じっての訓練が走り込みから始まった。お兄様は遅れずに走り切った。それだけでもすごいと、私は思う。

 だって12歳よ? それが大人の騎士と同じだけ走るんだもん。本当にすごいわ。


 走って、跳んで、格闘して、剣を打ち合って、馬に乗って走らせて……数時間に及ぶ訓練を最初から最後までやり切ったお兄様は、ヘトヘトになりながら、でもしっかりとした足取りで、私の元へと戻って来られた。


「こんなに長くただ見ているだけで、退屈じゃなかったか?」


「退屈だなんてとんでもない! お兄様のこれまでの努力を思うと、感動したくらいです!」


「俺なんてまだまださ」


「そんなことありません! まだたったの12歳なんですよ!?」


「6歳に言われてもな」


「それは、確かに。その通りですけれど」


 尻すぼみになっていく私に苦笑しながら、隣に腰を下ろしたお兄様。タオルで荒々しく顔に流れてくる汗を拭うと口を開いた。


「騎士は、王国直轄の王国騎士団と、一貴族が私兵として所持している騎士団の二通りだ。実力は当然、王国騎士の方が高いし、王国騎士は武勲をあげると一代限りの爵位だが騎士爵を授与されることもある。私兵としての騎士とは全く別物なんだ」


「そうなんですね」


「王国騎士になるには、まず従騎士となる試験に受かり、またさらに正騎士となる試験に受かる必要があるんだ。従騎士試験は14歳から受けることができる」


「あと二年ですね!」


「……俺は受けられないさ」


「どうしてです? ちゃんと実力をお持ちじゃないですか。あと二年あればさらに……」


「スタングロム侯爵は代々文官だ。武官は過去一人もいない」


「お兄様が一人目になればいいではないですか」


「あの人が許すわけがないだろ」


「ジュディスお母様ですか?」


「……ああ」


 お兄様もお姉様同様にジュディスお母様の価値観に縛られているのね。あの人って本当、母親として褒められた人じゃないわ。おそらくは彼女なりに二人を大事にしているんでしょうけれど、彼女の思う幸せを押し付けられた子供が苦しんでいると気付いていない。


 第一王子殿下の婚約者、未来の王妃の道も。

 代々文官として確固たる地位を持つスタングロム侯爵の道も。


 本人がなりたいと思っていなければ、ただの柵でしかないのに。


「では、今から私について来てください」


「……は?」


「従騎士試験を受けられるよう、直談判しに行きましょう!」


「はぁ!?」


 話してみなければ分からない。

 人生をやり直してから私が何度も何度も実感していることだ。


 前の人生では、お兄様は貴族学校で算術を専門に学び、卒業後文官となるべく、お父様の下で執務に励んでいた。だけど実は、王国騎士になる夢を諦めて、その道を歩んでいたのだ。

 私は王国騎士になる夢を諦めて欲しくない。諦めるにしても、できることを全部やってからにして欲しい。


 そんな思いで、私は戸惑うお兄様の手を引いて歩き出した。

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