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 食堂に入るとまだ誰もいなかった。ジェーンが引いてくれた椅子に腰を下ろそうとしたところにちょうどお兄様が来られたので挨拶する。


「ご機嫌よう、お兄様」


「ああ」


 お兄様が座るのを待って、私も腰を下ろした。

 給仕が果実水を置いてくれたので『ありがとう』と極力にこやかに声を掛ける。驚いた顔をされたが、嫌がられてはいない。こういう気遣いがイメージアップに繋がるはずと、もう一度微笑んでおく。


「今日の午後はお姉様のドレスを見ていたんです」


「そうか」


「お兄様は何を?」


「剣の訓練だ」


「まぁ! 訓練は毎日していらっしゃるのですか?」


「一応、な」


 貴族の嫡子たるもの、剣術は必須ですものね。……私も剣を習えば、兵士であるアレクと何か繋がりができるかしら。


「明日、訓練を見せていただいても?」


「構わないが、お前が見て楽しいものじゃないぞ」


「それは見てみないことには分かりません」


「じゃあ訓練に行く前に声を掛ける」


「ありがとうございます!」


 お兄様と約束ができたところで、お姉様が入って来られた。


「何のお話?」


「明日、お兄様の剣の訓練を見せていただくことになったんです!」


「危なくない?」


「離れたところから見ますので、大丈夫です。でもちゃんと気を付けますね」


 そうしてね、と優しく微笑みながら席に着くお姉様。何だか今日一日で二人ととても打ち解けられたみたい。それから三人で談笑していると、ジュディスお母様が入って来られた。途端にしんとなる食堂。私も離れに行った件があるから少し緊張している。

 ジュディスお母様が席に着くと給仕が料理を運んでくる。トマトとにんじんとピーマンがいつもより細かく切られていた。昼食時に私達が嫌いだと話していたからだわ、と三人で目を合わせて笑ってしまう。


「何を笑っているの。食事中にはしたないわよ」


 三人で笑っていたのに注意されるのは私だけ。今さら不公平だとか思わないけれど、面白くはないわね。


「申し訳ありません、ジュディスお母様」


 以前の私なら『どうして私だけ!』とか言いそうなものだけれど、鷹揚に謝罪してみせた。あなたの人としても、人の親としても呆れたその態度を、私の方が許してあげているのよという気持ちを存分に顔に出して。


「アドリアーナ……っ!」


 するとジュディスお母様はまた今朝のように鬼の形相になって腰を浮かしそうになる。さすがにいけないと思い直したようだけれど、その顔、お姉様やお兄様は見ちゃってますから。手遅れですわ。


「他にもまだ何かお気に触ることをいたしましたか?」


「何でもないわ!」


「そうですか? それならいいのですけれど……」


 ジュディスお母様の陰険なやり口に対して私が怒って喚いていたから、我が儘な子供を諌めているという風に見えていただけ。

 私の方が悠然としていれば、ジュディスお母様が私だけにきつく当たっていることも、狭量な人間であることも自然と浮き彫りになってくる。だって私は何も悪いことをしていないもの。


 私はあなたの鬱憤を晴らすための玩具になんてもうなってあげない。むしろ立場は入れ替わったの。これからは、私がジュディスお母様を使って積年の鬱憤を晴らしてやるわ。

 私は幼気な子供よ。全力で、健気に振る舞って、あなたを悪者にしてあげる。

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