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その後、使用する布やドレスのイメージなどを話し合って、数日中にいくつかデザインを書いて持ってくると言ってデザイナーのカレン(盛り上がったので名前を聞いた)は帰って行った。もしも私が今後ドレスを一から仕立てることがあったら必ず彼女にお願いしたいと思う。前の人生では既製品から選ぶだけだったからそういう機会はないかもしれないけれど。
ドレスの件がひと段落して、私達は休憩がてら一緒に紅茶を飲むことにした。この邸で誰かとお茶を飲むなんて、初めてのことだ。
「アドリアーナは楽しい子ね。黙っているか怒っているあなたしか見たことがなかったから、知らなかったわ」
「あぁ……色々吹っ切れたというか、自由にやってみようと思いまして」
「それに、すごく賢いのね。6歳とは思えないわ」
「……たくさん本を読んで……」
子供のふり、できていないわよね。そうよね。もうちょっと肉体年齢に精神年齢が寄ってもいいと思うんだけど、その気配もないわ。苦しい。
「そう。まだ小さいのに偉いわ」
「ありがとうございます……」
「私も自由にやってみても、いいのかしら……?」
「もちろんです」
「……私はいつもお母様の言いなりで、もしあなたが今日来てくれなかったら、青いドレスを着てお茶会へ行って、第一王子殿下に話しかけなきゃと思っていてもそうする気になれなくて、きっと何もできずに帰って来てたと思う」
おそらく前の人生ではそうだったんだろう。お姉様は両殿下の婚約者になれず、チェンバレン公爵家の分家にあたるヴァリア伯爵家の嫡男と婚約して卒業後に嫁いで行った。お母様の言いなりになり続けた結果だ。
どんな日々を過ごしたか知らないし、それが幸せでないとは言わないけれど、第二王子殿下のことを何度か考えたんじゃないだろうか。王子妃になっていたらどうだっただろうって。
「お姉様、第二王子殿下に声を掛けてくださいね。私、応援しています!」
「ありがとう、アドリアーナ。頑張ってみるわ」
「はいっ!」
お姉様はちゃんとアピールできたら、きっと選ばれるに違いない。第一王子殿下は公爵家と、第二王子殿下は侯爵家とであればバランスもいいし、現宰相の実孫だから身元も保証されて反対される理由がないわ。
もしお姉様が第二王子殿下の婚約者になることができれば、私が第三王子殿下の婚約者に、なんて話は絶対に出てこないだろうし、自然とほど良い距離感を保てるはず。
私の理想の未来のためにも、お姉様の恋が実るようにできることをやっていかなくちゃ!