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第八話「エルフィの過去と未来の予兆」

密集する樹木(じゅもく)の間を()うように進むと、足元の草が(つゆ)でしっとりと()れているのがわかる。歩くたびに、小さな(しずく)陽光(ようこう)にキラキラと輝きながら飛び散る。自然の新鮮な香りが鼻をくすぐる。美しい湖から聞こえる優しい水音が、静寂(せいじゃく)を破り、耳に心地よく(ひび)く。ここにいると、まるで時間が止まっているかのような錯覚(さっかく)にとらわれる。現実なんて、どこか遠くに消えちまった気がする。


「なあ、ふと思ったんだが、魔法使うときに技名とか呪文(じゅもん)とか言うのって意味あるのか?」


つい疑問が口をついて出た。俺の隣にいたエルフィは、すぐに答えてくれた。


「もちろんあるよ。技名や呪文(じゅもん)(とな)えることで、私たちの意識が特定のエネルギーパターンとか自然現象に集中しやすくなるんだよ」


エルフィにしては珍しく、専門性のある単語が含まれていた。エルフィの言葉には、自信と実践から得た確信が感じられる。なんだかんだ言って、彼女の魔法に関する知識は本物だ。レイナも感知や回復を除けば、魔法でどの分野でもエルフィには勝てないと言っていたっけ。俺はまだ魔法の感覚が(つか)めていないが、エルフィの説明には納得せざるを得ない。


エルフィの言葉に耳を(かたむ)けつつ、俺は量子力学(りょうしりきがく)の観測問題を思い出した。観測者の意識が結果に影響を与えるって理論、これってやっぱり、この異世界の魔法にも通じるもんがあるのか?もし意識が魔法の結果に影響を与えるとすれば、呪文(じゅもん)や技名がそのプロセスを補助するのも()にかなってる。魔法と科学、こんなに違う世界のものが、実は同じ理屈で動いてるかもしれないなんて、面白いってもんじゃないか。ああ、こういうのに気づくとワクワクするな。


「つまり、呪文(じゅもん)(とな)えるとイメージがもっと具体的になって、魔法の精度が上がるってことか?」


俺はそう聞いた。言葉ってのは不思議な力を持ってる。頭の中でぼんやりしてたイメージが、言葉にすることでクリアになる。これは元の世界でも同じだ。しかし、エテルニアでは、その特性を魔法にも応用しているのかもしれない。ちょっとした呪文(じゅもん)でも、言葉にすることでその効果が増す……。なんか、目からウロコだな。


「そうよ。魔法を操作するには精密なコントロールが必要だから、言葉を使うことで意識を集中しやすくなるの」


レイナが続けてそう説明してくれた。なるほどな、と俺は(うなず)いた。言語化には、やはり確かな効果があるらしい。自分の思考を整理するだけでなく、この世界では実際に力に変わるのか。面白い。覚えておいた方が良さそうだ。


「それだけじゃなくてさ、技名や呪文は魔法の効果を予測しやすくしてくれるんだー。事故を防ぐためにも超重要なんだよ。こういうのは全部魔法学校で習うんだけど」


エルフィがそう付け加えた。魔法学校か……俺も通ったら魔法が使えるようになるんだろうか。いやいや、魔法が使えない俺はそもそも入れないだろ? でもさ、魔法の勉強って楽しそうだな。色々な呪文とか、技の名前とか覚えてみたい。でも、そんな話、俺には関係ないんだよな。ちょっと悲しい。


「二人とも村育ちだろ? 学校なんてあったのか?」


レイナの村は自然中心の自給自足(じきゅうじそく)の生活だったから、正式な教育機関なんてないと思ってた。俺の疑問に答えるように、レイナが首を振る。


「私の村には学校なんてなかったわよ。エルフィの村もそうじゃなかったっけ?」


「うん、学校なんてなかったよ」


俺の予想通りだ。けど、エルフィの魔法はどう説明する? 普通の村人があんな強力な魔法を使えるなら、俺がこの世界で生き延びるなんて、かなり無理ゲーだ。どいつもこいつもエルフィみたいに殺傷(さっしょう)レベルSランクだと人間不信になっちまう。


「じゃあ、エルフィはなんであんなハチャメチャな魔法が使えるんだ? みんな、あんなもんなのか?」


「エルフィは特別よ。私たち凡人とはわけが違う」


俺は凡人の(いき)にすらいない。魔法に関しては植物にも負けている。


「エルフィが魔法使いとして優秀だって話は村の人たちから以前聞いたが、実際そんなにすごいのか?」


「すごいなんてもんじゃないわよ。わざわざ村まで出向いて、いろんな王国がエルフィをスカウトしてたくらいなんだから! ね?エルフィ」


「うん。実は子どもの頃、王国にスカウトされて両親と引っ越したんだけど、色々あって故郷に戻ることになったんだ……」


エルフィは静かに(かた)った。彼女の目が一瞬、遠くを見つめる。その(ひとみ)には何か深い悲しみが宿っているように感じた。彼女の過去には何か深い事情がありそうだが、それを詮索(せんさく)するのは無粋(ぶすい)だろう。俺はそれ以上の質問を避け、ただ彼女の話に耳を傾けた。



静かな湖を後にし、俺たちは薄暗い森の奥へと進んだ。(あゆ)みを進めるごとに、森の静寂(しじま)が俺の心を包み込む。何もかもが(おだ)やかで、不思議な感覚に()たされる。


「ここ、なんだか不思議な場所だね」


エルフィがぼそっと(つぶや)いた。その言葉に同意しながら、俺は周囲を見回した。木々の間を抜けると、小川のせせらぎが耳に入ってくる。水が石や枝にぶつかる音が心地よく、まるで森全体が生きているかのようだ。透明な水は光を反射してキラキラと輝き、その中を小さな魚たちがすばやく泳いでいるのが見える。川岸(かわぎし)には色とりどりの野花(のばな)が咲き(みだ)れ、草の新鮮な香りが風に乗って(ただよ)ってくる。


(この魚や花も、魔法が使えるのだろうか……)


そんなことをぼんやり考えながら歩いていた俺は、急にエルフィが立ち止まったのに気づいた。風がざわめき、葉が(こす)れる音だけが(ひび)いている。


「ん? どうした?」


俺が(たず)ねると、彼女は前方を指差した。そこには大きな石碑(せきひ)が立っていた。(こけ)がびっしりついていて、何か文字が(きざ)まれている。なんだか(みょう)重厚(じゅうこう)雰囲気(ふんいき)が漂ってる。


「これって……?」


「古代の石碑かもしれない。エテルニアにはいくつか古代の石碑が残ってるけど、どれも変な模様(もよう)が書いてあるんだよね」


エルフィが石碑を指差してそう言う。俺はその石碑をじっと見つめ、違和感を感じた。


「いや、これは模様じゃなくて、文字だろ」


「「?」」


二人は困惑した顔でこちらを見た。俺も少し戸惑(とまど)った。俺、何かおかしなこと言ったか?


(あれ? そういえば……)


心の中で以前のエルフィとの会話を思い返す。エテルニアには文字に該当(がいとう)するものが存在するはずがない。じゃあ、この石碑に刻まれているものは一体……。


「エルフィ、この石碑は本当に古代のものなのか?! 本当に?」


「うん、そう思うよ。どうして?」


エルフィは落ち着いた声で答える。その無邪気(むじゃき)な反応に、俺はさらに(あせ)りを覚えた。


「エテルニアには文字がないんだろ?! じゃ、じゃあ、これはどう説明するんだよ!」


「少し落ち着いて。ていうか、文字って何?」


レイナの問いに、俺は動揺(どうよう)しながらも(おう)じた。


「文字ってのは、言葉を記録するためのシンボルみたいなものだ」


俺は説明するが、レイナは首をかしげる。彼女にはまだピンと来ないのだろう。


「でも、口で言えば伝わるんじゃないの? なんでわざわざ記録するの?」


レイナの疑問はもっともだ。確かに、直接話す方が簡単だ。でも、それだけじゃない。言葉にはもっと深い力がある。俺は元の世界を思い出しながら、少し感慨(かんがい)深くなる。過去の記憶が(あざ)やかに(よみがえ)る。


「例えば、遠くにいる人に何かを伝えたいときや、未来の人に知識を残したいとき、文字が便利なんだ」


「それって、まるで魔法みたいだね! 言葉を未来に送る魔法」


エルフィの目がキラキラと輝いている。新しいおもちゃを見つけた子供のようだ。言葉を未来に送る魔法……か。言い()(みょう)だな。俺はその(ひとみ)を見つめながら、文字というものが彼女にとってどれほど新鮮で不思議なものなのかを感じた。彼女の興奮(こうふん)が伝わってくる。科学には全く興味を示さなかったが、文字には興味を持ったようだ。なぜだろうな、これもまた一つの謎か。


「そうかもな……でも、これは魔法じゃなくて、人間が作り出した確かな技術なんだ」


エルフィはその答えに興味を示しつつ、さらなる疑問を投げかける。


「じゃあ、この石碑に描いてある模様がわかるの?」


「俺の知ってる文字とは限らない」


エルフィとレイナは顔を見合わせる。互いに視線を()わし、次の言葉を待っている。


「どういうこと?」


エルフィがさらに問いかける。


「文字にはいろんな種類があって、地域によって使われる文字が違うんだ」


「ふーん、そうなんだ。じゃあ、この石碑の文字も、エレパートの知ってるのとは違うかもしれないってこと?」


「ああ、そうだ。例えば、俺が見たこともない文字で書かれている可能性もある」


エルフィがまた石碑に目を向けた。俺も石碑に視線をやる。文字の形や配置を慎重(しんちょう)観察(かんさつ)する。石碑の表面は風雨(ふうう)(さら)されてわずかに摩耗(まもう)しているが、その文字はなおも力強く刻まれている。何か手掛かりがあるはずだ。


(これは……英語か?)


「ねえ、これ何て書いてあるかわかるの?」


レイナが俺に尋ねた。


「ああ、たぶん俺が知っている文字と言語だ」


「じゃあ読んでみて!」


エルフィが興奮して頼んできた。俺は(ひと)呼吸置き、石碑の文字を指でなぞった。エテルニアの謎の(とびら)を開く(かぎ)を手にしたという実感が、全身に走る。俺は決意に()ちた眼差(まなざ)しで石碑を見つめ、慎重(しんちょう)に最初の言葉を口にした。



"The creation of Eternia and the reason of all things are written here according to the mystery revealed by the wise men of old. The foundation of our world is based on this mystery."


(エテルニアの生成(せいせい)万物(ばんぶつ)(ことわり)は、(いにしえ)賢者(けんじゃ)たちが()()かしし秘法(ひほう)により、ここに(しる)されん。(われ)らが世界(せかい)基盤(きばん)は、この秘法(ひほう)(もと)づきて()()つ)


"That which indicates the speed of light is the absolute being c=1, and that which defines the smallest degree is the minute realm h=1. That which governs the bonds of all things is designated as the ruler of space g=1, and that which guides the union of matter is designated as the universal key e=1. That which symbolizes the breath of heat, the pulse of particles k=1, and that which preserves the order of Eternia is defined as the magical value M=1, which governs all these."


(ひかり)(はや)きを(しめ)すものは、絶対(ぜったい)的な存在(そんざい)c=1とされ、最小(さいしょう)(ほど)(さだ)めるものは、微細(びさい)領域(りょういき)h=1とされる。万物(ばんぶつ)(きずな)(つかさど)るものは、空間(くうかん)支配者(しはいしゃ)G=1とされ、物質(ぶっしつ)結合(けつごう)(みちび)くものは、普遍(ふへん)(かぎ)e=1とされる。(ねつ)息吹(いぶき)象徴(しょうちょう)するもの、粒子(りゅうし)鼓動(こどう)k=1とされ、エテルニアの秩序(ちつじょ)(まも)るものは、これら(すべ)てを()べる魔法(まほう)(あたい)M=1と(さだ)められる)


"These figures are the source of all existence and power. O he who shall unlock the mysteries inscribed herein, thou shalt reach the source of truth and magic in Eternia."


(これらの数値(すうち)こそが、(すべ)ての存在(そんざい)(ちから)源流(げんりゅう)なり。()(もの)、ここに(きざ)まれし秘法(ひほう)()()かす(もの)よ、(なんじ)はエテルニアの真理(しんり)魔法(まほう)根源(こんげん)(いた)るべし)


"Knowing the harmony of the universe and inheriting the wisdom of the wise, thou shalt open the door to a new dimension."


宇宙(うちゅう)調和(ちょうわ)()り、賢者(けんじゃ)知恵(ちえ)()()ぎし(もの)よ、(なんじ)(あら)たなる次元(じげん)への(とびら)(ひら)かん)


"Understand the flow of reason and magic that transcends time and space. The secret of the wise is the key to weave the world with infinite possibilities."


時空(じくう)()えし(ことわり)魔力(まりょく)流転(るてん)理解(りかい)せよ。賢者(けんじゃ)秘法(ひほう)は、無限(むげん)可能性(かのうせい)()め、世界(せかい)(つむ)(かぎ)なり)


"Herein lies the beginning of all answers. O thou who go forth with courage and wisdom, I pray that thou mayest attain true power at the end of thy quest."


(ここに、(すべ)ての(こた)えの(はじ)まりあり。勇気(ゆうき)知恵(ちえ)()ちて(すす)(もの)よ、(なんじ)探求(たんきゅう)()てに、(しん)(ちから)()んことを(いの)らん)



俺は石碑(せきひ)の内容に思いを(めぐ)らせ、深い息を吸い込んだ。いくつか見覚えのない単語があったが、(おおむ)ね合ってるだろう。古代の石碑っぽいので、それ風の日本語訳にした。


この石碑に(きざ)まれた記述(きじゅつ)は、エルフィやレイナには到底(とうてい)理解し()ないだろう。でも、俺には分かる。物理学の理論(りろん)(もと)づいているという確信があった。物理学と魔法が交差(こうさ)するこの記述、俺はその真理(しんり)末端(まったん)に触れた気がした。これはただの落書きではない。現実と幻想(げんそう)(まじ)わる場所。興奮(こうふん)畏怖(いふ)が入り混じる感情が胸を突き上げる。この感覚、何とも言えないけど、確かに感じる。


「うーん、結局どういうこと?」


エルフィは困った顔で聞いてきた。俺は肩をすくめて答えた。こういうとき、初学者(しょがくしゃ)にどう説明すればいいのか、いつも悩む。エルフィに理解させるのは特に難しい。


「まあ、一言(ひとこと)で言うと、『神様が作ったエテルニアの取扱説明書』みたいなもんだ」


「とりあつかい、せつめいしょ……?」


「法律って言えばわかるか?」


「神様が作った法律って……そんな説明じゃわかんないよ!」


エルフィはぷっと(ほお)(ふく)らませた。俺の答えが気に入らないって顔だ。まあ、伝わらんよな。でも、神様って概念(がいねん)は伝わるのか。


「せっかく何が描かれてるかわかったのに、内容が珍紛漢紛(ちんぷんかんぷん)で結局何も得られなかったわ」


レイナも不満げに口を開く。俺だって完璧(かんぺき)に理解してるわけじゃない。この石碑の意味を完全に理解するには、もっと多くの時間と知識が必要だ。それでも、俺は確信している。この石碑が示す道が、俺を新たな次元(じげん)へと(みちび)くと。


「いや、そうでもないさ。ここにはエテルニアの秘密が書かれてる。例えば、このc=1ってのは光の速さだろう。俺たちの世界では光の速さは絶対的なもので、物理の基礎だ。どうやらここに書かれてることを信じると、エテルニアも同じみたいだな」


「いや、知らないわよ」


レイナがピシャリと言い返す。俺がどれだけ熱心に説明しても、自然科学に興味のない(やつ)らには伝わらない。やっぱり、物理のことなんて一言で説明できるもんじゃないし、彼女たちに理解させるのは骨が折れるってもんだ。


「もっと面白いことが書いてあると思ったのにー。ガッカリだよ……」


「お前ら、言いたい放題(ほうだい)だな……」


俺は深いため息をつく。こいつらに物理の魅力を伝えるのは一筋縄(ひとすじなわ)ではいかない。でも、それが俺の使命だと思ってる。いつかは分かってもらえるはずだ。いや、そう信じたい。


「二人とも、エテルニアには単位ってあるのか?」


「たんい? レイナ、聞いたことある?」


エルフィが首を傾げながらレイナに問いかける。


「ううん、ないわ」


「じゃあ、長さとかどうやって表すんだ?」


俺はさらに突っ込んで聞いてみる。


「感覚だよ! たまに腕の長さで伝えるけどね」


エルフィがそう答えた。彼女が腕を目一杯(めいっぱい)広げて見せるその姿が、なんだか可愛(かわい)らしくて、思わず笑いそうになる。でも、笑ってる場合じゃない。


俺は石碑を見ながら、深く考え込んだ。物理定数の数値が全て『1』と石碑に書かれていると、『プランク単位系』が自然と俺の中で想起(そうき)される。『プランク単位系』とは、物理学において基本的な物理定数を全て『1』とする単位系である。具体的には、『光速(こうそく)c』、『プランク定数h』、『重力(じゅうりょく)定数G』、『電気素量(そりょう)e』、『ボルツマン定数k』の全てが『1』とされる。これにより、物理方程式(ほうていしき)が簡潔になる。


この石碑に記された内容から、エテルニアも同様の単位系を採用していることが(うかが)える。石碑に書かれている定数が全部『1』というのは、これからはこの単位を基準にして計算をしろってことかもしれない。あるいは、この宇宙――いや、俺がいるこの場所が宇宙の一部だと確証は持てないが、便宜上(べんぎじょう)、宇宙にいると仮定して――の物理定数が、俺がいた宇宙と同じ値であることを示しているのか……。考えてみれば、この世界では何もかもが地球に酷似(こくじ)しているように見える。エテルニアの物理法則が俺たちの世界と同じなら、俺の物理学の知識はこの世界を理解する手助けになるだろう。でも、それはただの希望的観測だ。


結局のところ、ここでの物理がどうなっているのか、実験と考察を繰り返して確かめるしかない。もし同じなら、既存(きぞん)の物理学を用いて、俺はエテルニアをもっと正確に理解できる。そうじゃなければ、また一からやり直しだ。どちらにせよ、エテルニアの謎を解き明かすために俺は一歩ずつ進んでいくしかない。


こんな風にあれこれ考察しても意味なんてないのかもしれない。でも、俺は物理学者としてこういうことを『やるべき』なんだ。いや、『やりたい』と、俺の心がそう叫んでいる。


「結局、誰が何のためにこの石碑を作ったのかしら?」


レイナが疑問を口にする。俺も同じことを考えていた。


「さあ……」


一番気になるけど、今考えても答えは出ないだろう。手がかりといえば、石碑が英語で書かれていることと、物理学に詳しい人間が関わっているってことくらいか。でも、それだけじゃ答えを出すには全然足りない。俺は無意識に石碑を見つめ続ける。


「なんにしても、私たちにはサッパリ分からないから、エレパートに全部任せましょ」


レイナは軽く笑いながら言う。俺ならどんなことでもいつかはわかるだろ、というような言い草だ。そう評価してくれるのはありがたいが、ぶっちゃけ、これだけでエテルニアの真理に辿(たど)り着けるほど、俺は物理学者として優秀ではない。


「そうだねー。他の石碑も見つかるといいね、エレパート」


エルフィは無関心そうに俺に言った。まるで他人事みたいに。石碑が自分の興味を引かないと知った後のエルフィの態度はいつも通りだ。やれやれ、二人とも、もう少し協力的でもいいんじゃねえのか、と内心思いつつ、俺は肩をすくめた。


ところで、石碑に書かれていた『M』という物理定数がどうにも気になる。こんな物理定数、俺の知識には存在しない。最初は、この宇宙では『等価原理(とうかげんり)』が成り立たないために、重力(じゅうりょく)質量(しつりょう)とは異なる新しいパラメータとして慣性(かんせい)質量(しつりょう)を『M』と設定しているのかと思った。でも、どうも文脈から考えるに、これは魔法に関連する定数らしい。なんだそりゃ、物理と魔法がこんな風に(から)むなんて。


ああ、くそ。いくら考えてもわからないことは、実験でしか確認できない。とりあえず、森を抜けた後、エテルニアで『等価原理(とうかげんり)』が成り立つかどうかを試してみよう。大した実験じゃないけど、何かがわかるかもしれない。それに、実験目的以外のことが判明する可能性もある。それもまた実験の醍醐味(だいごみ)だ。

皆様、ここまでお読みいただき、ありがとうございます!第八話いかがでしたか?森の中での静寂な雰囲気や、石碑に刻まれた古代の謎に少しでもワクワクしていただけたなら嬉しいです。


今回は、エルフィたちと共に古代の石碑に隠された秘密を探るシーンをお届けしました。この石碑の謎が今後の物語にどう関わってくるのか、主人公の考察やエルフィとのやり取りを通じて、少しずつ明らかにしていきたいと思っています。


また、物語を進める上で、魔法と科学がどのように絡み合っていくのか、その探求も一つの大きなテーマです。エルフィたちと共に未知の世界を探検し、次々と新しい発見をしていく過程を楽しんでいただければと思います。


ブックマークや評価(★)、感想もお待ちしております!皆様の応援が、今後の執筆の原動力となります。どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします。


次回もお楽しみに!

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