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#27 メイ、初戦

第三章



「ここが……封印地」

 うっそうとした森の中。朝だというのに仄暗い。黒くうねった木々の一本一本に、キメラが羽を休め、こちらを睨んでいる。絹を引き裂くような鳴き声が時折どこかから聞こえてくる。辺り一面が妙な瘴気に包まれており、ぞくりとするような魔力をそこら辺中から感じる。その中に、ふわっとした優しい魔力がかすかにある。おそらくこれがロードコードさま。

 魔力を常にまとっていなければ気を失いそうだ。額に汗がにじんだ。

「はっはーん……こんな風になっちゃったんですね……。黒龍の封印が一つ解けかけただけでこれですか……」

「もともとは……こんな状態ではなかったんですか?」

 頬をかくリカに尋ねる。

「ええ。少なくともモンスタがこんなにはいなかったですね。普段の三倍以上はいる……。ここはザッシュに割と近い『大海森林』のど真ん中なんです。通常ここにくる人間はいません。黒龍の魔力に寄せられてるんでしょう。モンスタは魔力を感知する能力が高いから。でも逆に助かったかもしれません。この状態なら長官……白髭のおっさん一行もなかなか進めないはずです」

 親指を立てるリカを見ることもなくユイが口を開いた。このおぞましい魔力の海も、全く意に介していないように見える。

「なはは! やっぱり『長官』より『白髭のおじさん』のほうがわかりやすい! 私たちもいこう! リカさん! カズキさんはどこ?」

「あそこです」

 リカが森の奥、右手前を指さす。背丈の短い萎えた下草の間、地面にぽかりと大きな穴が開いていた。

「洞窟になっています。入ってすぐに黒龍が封印されている大きな空洞があります。でも……おかしいな。この穴の手前に魔法府の守主がいつもはいるはずなんですけど……」

 リカの話の途中で、ユイが「よおし!」と言いながら走り始めると、両サイドからキメラが飛んできた。

「危ない!」メイが叫ぶ前に、リカのウォーターウォールが立ち昇った。キメラは上昇する水の壁に阻まれてユイに近づけない。

「おわっ! あぶなっ! 全然見てなかった! リカさんありがとう!」

「ユイさん! 気にせず行ってください! 師匠を助けられるのは……私じゃない! あなただけなんだから!」

 びしょ濡れになった二匹のキメラがこちらを向いた。口元が緑に光り始める。ユイが洞窟に入ったことを確認してリカに聞く。

「リカさま……あのキメラは……普通のキメラじゃ……ないですよね。色や形が……違う」

「ご名答。学校では習いませんね。ここにいるのは全てソーサリィキメラ。キメラの上位種です。結構……強いですよ。エリートとやらが集まる魔法府の役人にしたって、最初の実戦にしてはやりすぎですよこれは。えへへ……離れて!」リカに突き飛ばされる。

 

 ずばっ。


 空気を切り裂く音が脳を揺らした。尻もちを突いたところの痛みなど何も感じないほどに、凄まじい衝撃が地面から伝わってくる。先ほどまで自分が立っていたところを見ると、鋭利な刀で豆腐を切ったように、地面に斬撃の跡がついている。顎に何かが垂れてきた。手で触れる。血だ。頬が切れている。「ゲア!」という声がした。その方向を見ると、キメラがまた口を開けている。光る緑色がだんだん濃くなっている。脚が動かない。頭が働かない。あれ? 視界が。狭い。息が苦しい。呼吸が速まる。苦しい。これが。戦い。なのか。

 首を牽引される感触があり、急に視界が回転する。

 今度は腰をしたたかに打った。それと同時に斬撃音が響き、また地面に切れ込みが入ったのが見えた。

「立って! キメラの口元をよく見て! ウインドカッタの範囲は狭い! 角度を見極めれば避けるのは難しくない!」

 リカの声が近い。首がくるしい。どうやら襟を掴まれているらしい。息が苦しい。空気が薄い。

「ウォータアロー!」

 青の光が背中のほうで輝いた。三本の水の矢が、二匹のキメラを貫くのが見えた。矢の軌道のままキメラは放物線を描いて飛び、地面に落ちた。ぴくぴくと動いている。

 頬を張られた。見るとリカが鬼の形相で立ちふさがっている。痛みが遅れてやってきた。口に血の味がにじむ。

「メイ・トルティーヤ! しゃんとせぇや! あんたがそないな調子やったら、あんたが守りたいと思てるユイも守れへんで! 足手まといになるだけでええんか! アホ!」

「り、リカさま……?」

 リカの変貌に目が覚めた。息が、戻る。

「周りを見てみぃ! キメラは団体さんや! あいつら全員ウチらを敵認定しくさったで! ほんましゃらくさいわ!」リカが仁王立ちで首を左右に振っている。

 視界が開けてきた。

 木々に留まっていたキメラたちが、いつの間にか空にいる。十匹ニ十匹……いや三十匹。囲まれている。ぐるぐると虚空を回転しながらこちらの様子をうかがっている。

「攻撃魔法は? どんだけいけんねん?」

 リカがにやりと笑った。いつもと表情は変わらないのに、おなじ口から唐突に飛び出してくる彼女の西部言葉が慣れない。

「ウォータアローは……ダブルまでならできます」

「きばって打ちや……ええか……あいつら今用心してんねん。ウチが二匹倒したからな……せやけど、どっかで攻撃してくる。そんときがチャンスや。あいつらの魔法はタメがある。動き止まるから、その瞬間に打て。ウチは十発が限界や。あんたと合わせて十二匹倒したらおよそ半分や。残り半分の攻撃は避けるしかない。せやから……あかん! くるで! 後はわかるな! 首席!」

「ウォータアロー!」

 メイとリカの声が重なる。目で合図して、同じ方向のキメラを打った。獣の断末魔が響くと同時に前に飛び出した。

 ざざざんっ。

 跳石が身体を打つ。受け身を取って回転する。先ほどまでの平らな地面は、多数の切れ込みが入り、ずたぼろになっていた。

「さすがやな!」

 リカに肩を叩かれた。全員倒せない以上、突破口を作るしかない。前の敵を全部倒して、後ろからの攻撃を避けるために、倒した敵がいる方向に飛ぶ。ふくらはぎが少し切れてしまったが、動けなくはない。

「状況よー読んだ今のテクニカルプレイ、ウチの相方がユイやったらこう上手くはいかんかったやろな」

 笑いながらキメラを睨むリカ。モンスタでも動揺するのか。羽ばたきが乱雑になっている。チャンス。

「ウォータアロー!」

 弾丸雨注、水の矢がキメラを襲う。数匹が空に残ったが、慌てた様子で退散していったた。


続く。

用語解説

【地名等】

 ロンドリーム 魔法民族の王国。現存国の中で最も歴史が古い。東州、中央州、西州、島嶼州の四州にわかれる。

 シェルドン 科学民族の民主国家。比較的新しい国。技術革命により大国になった。

 パランダル 新興国家。民族の別なく受け入れると表明。

 バスク 自然民族。どこにも属していない。ロンドリームにもシェルドンにも居住。

 レベンナ ロンドリームの町。中央州の中心都市。

 ザッシュ ロンドリームの町。海岸沿いにあり、貿易が盛ん。中央州。

 ドネザル ロンドリームの王都。東州の中心都市。

 アルジャント ロンドリームの町。中央州にある。山間の田舎町。

 パークライナ ロンドリームの町。西州の端にある。高等魔法学校がある。

 大海森林 大陸で最も大きな面積を持つ森。黒龍を封印している。

【人物】

 ユイ・アムル 15歳の新米魔法使い。ザッシュで魔具開発会社に勤める。この物語の主人公。

 メイ・トルティーヤ ユイの幼馴染。高等魔法学校首席。レベンナで官僚見習いを始める。

 ケイト・ファン ユイの勤める魔具開発会社の上司。

 カズキ・ロードコード モンスターハンタであり、世界的モンスター研究者。若く見えるが百歳代。五大魔法使いの一人。火の大魔法使い。勇者キヨのかつての仲間。

 ジン ドネザルにおけるメイのメンタ。

 ジロー 警察官。

 リカ・トワ 魔法府副長官。行政に残したカズキの腹心。

 黒龍 伝説のモンスタ。八十年前、勇者キヨによって封印される。

 マキオ 黒龍退治の際のキヨのパーティメンバ

 ユキト・カトー 魔法府長官。白髭の紳士然としたスタイル。

 シゲル・オースミ 魔法府参事官。小太り。

 ナギ 魔法府省庁調整課


【魔法】

 ファイアプレイス 静置状態の火を起こす火炎系魔法。

 ファイアボール 火の玉を飛ばす火炎系魔法。

 ファイアモール 高熱の火で穴を掘る火炎系魔法。

 シーク 相手のレベルや状態を調べる水系魔法。

 エリアシーク 周りの状態を調べる水系魔法。

 グラビティカ 重力を操る大地系魔法。

 テレポ 空間移動を行う時空魔法

 シール 封印魔法

 ウォータウォール 水の滝を作り出し、主に防御に使用する水系魔法

 ウォータアロー 水の矢で攻撃する水系魔法

 

【物等】

 高等魔法学校 ロンドリームの子どもは、義務教育である六年間の『魔法学校』の後、希望者のみが全寮制の『高等魔法学校』に三年通う。

 魔列車 魔力で動く列車。ロンドリームの主要交通機関。

 消魔香 魔力を封じる香木。

 五元素 地火水風空

 クラス S―A―B―C とある。クラスごとの人数比は三百倍程度。例、Cクラス三百人に対し、Bクラスが一人輩出される。

 スコープス 魔具開発会社。本社は王都にある。

 ロンドリームの行政構造 王の下に、行政系の省庁と魔法府がある。魔法府が最上位。その他、横並びに総務省(警察庁含む)、法務省、外務省、財務省、文部省、厚生省、建設省がある。

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