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#23 幕間

幕間二


「とうとう、恩赦がおりたってわけかな?」

 牢の中、腕立て伏せをしていた男が起き上がる。一つにくくった髪から汗がぽたぽたと石畳に落ちている。若さに満ちた身体はとても年相応のものには見えない。不老の効果を目の当たりにする。図太い鉄格子がはまった小窓から覗くと、思ったより快適に過ごしているらしいことがわかった。五メートル四方はある牢獄。ベッドにトイレ。排水溝もある。小さな机には読み終わっているのであろう本の山。高いところに採光用の窓があり、想像以上に明るい。部屋の隅、不自然に炎が立っており、ファイアプレイスを使っていることがわかる。光が入らない間はこれで灯りをとっているのだろう。壁も床も綺麗で、何かを――例えば脱獄を――計った形跡もない。

「行儀は……いいんだな」

「当たり前だろ? 俺は改心してる。あの時は悪かったよ、と毎日思ってる。今ではすっかり愛国者だ。日の光も木々を抜ける風も、深夜のドネザルのけたたましい酔いどれたちの喧嘩も、そう、この大地の何もかもが恋しいんだ。出してくれるならなんだって、借りてきた猫みたいにだってするさ」

 ポケットから鍵を取り出そうとしたが、なかなか掴めない。自分でも驚くほど手が震えていた。人の姿を借りた魔獣。今世紀最大の魔法使い。そう呼ばれていたこともある男だ。本当に信用できるのか? しかしこいつの力を借りないことには事態を打破できない。

「一つだけ」

 鍵を床に落とした。ちゃりんという乾いた金属音が狭い廊下に響く。

「お礼としてそちらの言うことを聞こうじゃないか。例えば……そうだな。十億ロンド集めて来てくれってのならやってやる。誰それを痛めつけてくれってのもアリだ。いや、俺は改心してるから、そういうことあんまりやりたくはないんだぜ? 外の世界ではせめて五十年おとなしくしてろって言うならそうするよ。遠慮なく注文してくれ。ただし、一つだけだ。それ以外は自由にさせてもらう」

 なかなか掴めない。

「取って食いやしねえよ。落ち着け。鍵、落としたんだろ? ゆっくりやってもいいぜ。お前が今とろとろしてたところで、俺の長い監禁生活からしたら一瞬だからよ」

 男の哄笑が聞こえる。ようやく掴めた。相変わらず手の震えは止まらない。分厚い鉄の扉の鍵穴になんとか鍵を押し込み、回した。

 かちゃりという音がする。こちらが開ける間もなく、先に男がゆっくりと扉を引いた。

 むんとした臭いが流れてくる。汗ばんだ男の臭い。それと同時に――男が一歩牢獄から出た瞬間に――圧倒的な魔力が周囲を満たすのがわかった。

「ふー……身体に魔力が満ちるのっていいもんだな。久しぶりだぜ」

 男は大きく伸びをした。

「で? 何をしてほしい? 約束は守るぜ」男がウインクをしてきた。

 単なる野獣ではない。そもそも賢い男なのだ。賢すぎるからこそ、こんなことになってしまったと言っても過言ではない。清濁併せ吞む度量もある。

「取引の始まりだ」

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